2022年11月28日のフルモデルチェンジを発表し、発売から1年が経過した日産のミニバン「セレナ」(写真:日産自動車)

日産自動車(以下、日産)「セレナ」は、昨年2022年11月にフルモデルチェンジし、6代目となった。発売当初は、ガソリンエンジン車のみの販売で、日産独創のシリーズ式ハイブリッドであるe-POWERの車種は、2023年春からの発売であった。このため、媒体向け新車試乗も6月に入ってからの開催となった。そんな日産のミニバン「セレナ」が発売して1年を振り返る。

セレナの販売台数について


セレナe-POWER LUXIONの外観(写真:日産自動車)

日産では、小型ハッチバック車の「ノート」がe-POWERを搭載してから人気が急上昇し、ミニバンのセレナもe-POWERが販売を支えているといってよい。日産自動車の広報によれば、e-POWER対ガソリンエンジンで、販売比率は7:3になっているという。ガソリンエンジン車に遅れてのe-POWER車発売は、新車販売台数の推移に影響を及ぼしたといえるだろう。

一般社団法人日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位を振り返ると、1〜3月のあいだは18〜19位の成績で、前年1〜3月の8〜10位から大きく後退している。新型となったにもかかわらず順位を大きく落としたのは、e-POWERへの期待がいかに高いかの証しではないか。事実、e-POWERが追加となった春以降の4月には9位、5月には7位と一気に順位を挽回した。一方で、その好調ぶりは必ずしも安定的ではない。


セレナのライバルになるトヨタのノア。トヨタのノア/ヴォクシーは、セレナよりも早い2022年1月13日にフルモデルチェンジを実施している(写真:トヨタ自動車)

2022年の1〜6月に、セレナは競合となるトヨタの「ノア/ヴォクシー」を上まわる成績を残していた。ところが新型投入後となる今年1〜6月では、その2車種に先行を許している。それでも、販売台数自体は昨年を上まわっている。

トヨタの2車種は、2022年1月に新型を発売し、セレナよりも先にモデルチェンジを終えている。商品性に大きな変化はないはずなのに、なぜ新型セレナを上まわったのか。要因として考えられるひとつは、今なお各自動車メーカーが苦悩する部品調達の課題ではないだろうか。日産広報によれば、半導体不足は解消しつつあるが、セレナのe-POWER車は、受注から納車まで1〜2カ月となっているようだ。


トヨタの人気ミニバンであるヴォクシー(写真:トヨタ自動車)

日産もトヨタもハイブリッド車を主力とする。日産のe-POWERは、電気自動車(EV)の動力・駆動系の機構をもとにしたモーター駆動であり、駆動用バッテリー車載量をEVに比べ減らし、ガソリンエンジンによる発電機能を備えるのが特徴だ。電気を主力とすることや、部品供給の事情などにより、半導体など電気・電子部品の調達の影響を受けやすかったのかもしれない。納車に時間がかかったとすれば、販売が伸び悩む数字となって現れるだろう。それでも現在は、ほかの電動車種が納車までに最大で4カ月かかっているので、セレナの生産はそれより改善されている。


セレナのフロントフェイス(写真:日産自動車)

新型セレナに限らずだが、ここ数年来の新車販売動向は、単に商品性や販売力といった従来の見方だけでは判断しにくく、各自動車メーカーの部品調達回復の進捗や、コロナ禍での納車遅れを取り戻すなどで大きく数字が上下する難しさがある。

新型セレナが持つ商品性とは


セレナのリアビュー(写真:日産自動車)

家族や仲間と移動するためのミニバン人気は、SUV(スポーツ多目的車)とともに国内では底堅い。新型セレナはどのような商品性をフルモデルチェンジでもたらしたのか、振り返ってみたい。


セレナのサイドビュー(写真:日産自動車)

セレナ一番の魅力は、e-POWERといえるだろう。日産独自のシリーズ式ハイブリッドであるe-POWERは、現行ノートから第2世代へと進化した。改善の要点は、発電のため稼働するガソリンエンジンの存在をできるだけ乗員に意識させず、よりEV的な乗り味を拡大することにある。

駆動用バッテリーの電力を第1世代以上に使い切る制御を行い、そのうえで、適切な時期に発電のためガソリンエンジンを始動する改良が施された。たとえば、一定速度で走行中にガソリンエンジンを始動すると、それまで静かなモーター走行を楽しめていたのに、エンジン音が加わり、煩いとか鬱陶しいといった意識が働く。そこで、アクセルを踏んで加速する場面でエンジンを始動すれば、人の気持ちは加速が必要になった交通状況、たとえば、より高速域での走行や上り坂であるとか、追い越しをかけるなどといった場面で、ガソリンエンジンが始動したことによる騒音に気づきにくくなる。


セレナに搭載されているe-POWERシステムのカットモデル(写真:日産自動車)

駆動用バッテリーの充電管理と、走行状況の変化などを考慮した発電用エンジンの稼働を制御するように、知見を生かした技術的改良と、乗員の心理を活用した第2世代へ、e-POWERは改善されたのだ。

試乗してみると、あたかもEVを運転しているかのような気分が増している。それは、セレナがより上質なミニバンとなった印象を強めるのである。


セレナe-POWER XVのインテリア(写真:日産自動車)

静粛性の向上は、競合のノア/ヴォクシーでも改善されている。だが、モーター駆動のみで走るセレナのe-POWERは、その静粛性に加え、加減速などあらゆる走行の領域でEVらしさを実感させ、上級さを喜びにつなげているのである。

最上級となるLUXIONの存在


セレナe-POWER LUXIONの外観(写真:日産自動車)

e-POWERの魅力を、車種構成のさらなる拡充につなげたのが、新しく加わったLUXION(ルキシオン)という最上級車種だ。これまで人気の高かったハイウェイスターと同じ3ナンバーの車体で、唯一7人乗り(ほかの車種は8人乗り)とすることにより、2列目の座席が個別のキャプテンシートとなって、乗員一人ひとりの贅沢気分が高まる。


セレナとしては唯一の7人乗りとなるルキシオン(写真:日産自動車)

さらに「スカイライン」で先に採用された運転支援のプロパイロット2.0を装備した。

プロパイロット2.0は、レベル2の運転支援機能(走行のすべてにおいて運転者に責任がある)ではあるが、高速道路などでハンズフリー(ハンドルから手を放す)走行が可能になる。ミニバンとして世界初の搭載だ。

他社でも、ハンズフリーの機能を備える車種はあるが、これまで試乗した経験からすれば、日産のプロパイロット2.0がもっとも信頼と安心を与える仕上がりになっている。機能を信頼できれば、もっと使おうとの気持ちになり、プロパイロット2.0を選んだ甲斐が高まる。


プロパイロット2.0によるハンズフリーのイメージ(写真:日産自動車)

当然ながら、高速道路などで制限速度内での使用となるが、ミニバンであることによって無暗に速度を上げようといった気分は自然に抑えられ、また、多人数乗車での乗員への安全や安心・快適の配慮の気持ちも作用して、制限速度内でのハンズフリー走行はより実用度を増す。

プロパイロットの基本である前車追従型のクルーズコントロールと車線維持機能も積極活用すれば、余計な加減速や操舵が少なくなり、同乗者の車酔いを抑える働きも期待できる。自動運転の段階ではないが、近年の運転支援機能は、単に安全性の向上だけでなく、乗員の快適な移動の助けともなっているのである。


運転のしやすい広い視界(写真:日産自動車)

上質な乗り味と、プロパイロット2.0という先進の運転支援技術を得られるルキシオンは、セレナe-POWER車販売台数の約10%を占めていると日産広報は述べている。その購入者には、これまでトヨタ「エスティマ」やホンダ「オデッセイ」に乗ってきた消費者の乗り換えが含まれるとのことだ。

ファミリーユースの先を見据えた展開


ルキシオンのリアビュー(写真:日産自動車)

すなわち、これまでは5ナンバーのミニバンとの位置づけを基本的な価値とし、家族や仲間との移動に役立つ実用ミニバンとして競合してきた、ノア/ヴォクシーやホンダ「ステップワゴン」が目指してきた商品性と別に、エスティマやオデッセイといった上級ミニバンの顧客をも引き付ける商品性を、セレナ・ルキシオンは手に入れたことになる。それは、新たな市場を開拓したことにもなるだろう。


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現状、販売台数では以前に比べ浮き沈みがみられるセレナではあるが、部品調達が順調に進み、またルキシオンの価値がさらに浸透していけば、販売台数を力強く押し上げていくことを期待できるのではないか。新型販売から1年という成果はまずまずという水準かもしれないが、潜在能力として、再びミニバンナンバー1を取り返す商品力は十分に備えていると感じる。

(御堀 直嗣 : モータージャーナリスト)