【メジャースカウトが注目するアジアの4人】

 6年ぶり2度目の開催となったアジアプロ野球チャンピオンシップ。取材のため東京ドームを訪れると、バックネット裏のスタンド前列には多くのメジャー球団のスカウトが陣取っていた。そのなかから旧知のナ・リーグ某球団のスカウトA氏に、侍ジャパンの若手有望株について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「詳しくは企業秘密ですけど、日本なら西武の今井達也、隅田知一郎の両投手はポテンシャルが高く、多くの伸びしろを感じさせてくれました」


予選の韓国戦で7回無失点の好投を見せた隅田知一郎 photo by Sankei Visual

 今井は決勝の韓国戦で先発し、4回を投げ5安打、2失点、4奪三振だった。

「制球に関してはバラつきが多く、ゲームメイクできませんでしたが、この試合だけで評価されるものではないですからね」

 A氏曰く、今井については2016年のU−18の大会の時から視察しているという。

「当時と比較すると、体が大きくなり球威が増しました。力づくで投げるのではなく、バランスがいいから打者の手元に来ても球威が落ちない。現在の最速は150キロ台後半ですが、160キロを出せる"出力"を持っていると思います」

 その今井がパワー系なら、隅田は変化球投手としての精度の高さに注目しているという。隅田は予選の韓国戦に先発して、7回を投げ3安打、無失点、7奪三振の好投を演じた。

「とくにあのチェンジアップの制球力です。低めのボールゾーンギリギリに投げて、落とす。メジャーでは低めに落とせる変化球があることが第一条件ですが、初見ならどうしてもストレートだと思ってバットを出してしまう。課題は球速で、あと数キロ上がればもっと変化球も効果的になるでしょうね」

 今回、メジャースカウトが注目していたのは日本人選手ばかりではない。

「台湾のエース古林睿煬(グーリン・ルェヤン)は、追跡調査しているひとりです」

 そう語るのはア・リーグ某球団のスカウトB氏。グーリンは台湾プロ野球の統一ライオンズでプレーする6年目の23歳。最速157キロを誇り、変化球も、とくにカーブが効果的で、今大会でも日本戦に先発して6回一死までパーフェクトピッチングを披露した。

「球威は秋のアジア大会(中国・杭州)の時のほうがよかった。もっと打者の手元に食い込んでくるような力強さがありました。この大会はポストシーズンゲームだから一概に比較はできませんが、いつもはもっとすばらしい球を投げています。ただ、気になるのは故障が多いこと。高校卒業時にメジャーが手を挙げなかったのも、当時、故障気味だったからです。それを差し引けば、とても魅力的な素材です」

 また、韓国の文棟柱(ムン・ドンジュ)もメジャーが注目している選手のひとりだ。韓国球界初となる160キロをマークした本格派右腕で、188センチと体躯にも恵まれている。

「豪州戦は勝つことを最優先に抑え気味の投球でしたね。シーズン中より制球重視で、ピッチングがおとなしかった。あまり小さくまとまってほしくないんですけどね」

 それでもまだ19歳。メジャーならずとも、今後の国際大会で注目される選手になることは間違いないだろう。

【日本在住スカウトが急増】

 こうしてみると、メジャースカウトたちは野手よりも投手への関心が高いようだ。そのメジャーのスカウトたちだが、そのほとんどが日本人だった。かつて日本人スカウトといえばほんの数名で、多くはアメリカから"出張"で視察に来るケースがほとんどだった。しかし今は、多くのチームが日本在住者を採用し、日本人をはじめアジアの選手たちをチェックしている。

「それだけメジャー球団の要職に就く者が、アジア、とくに日本のマーケットを本気で重要視しているということです」

 アメリカ人の某球団のスカウトC氏はそう説明する。

「今年はWBCもあったので、私は4回来日しました。以前なら2回程度だったんですけどね」

 そしてこう続けた。

「これまで多くの日本人選手がメジャーで成功しています。でも、大谷翔平に代表されるように"スーパーな選手"が多かった。だから出張程度の視察でも、チェックは十分だったわけです」

 それがある選手のメジャー入りで、アジア選手の評価がグッと高まったというのだ。

「きっかけはメッツに入団した千賀滉大です。育成から台頭した選手がメジャーで活躍する。それはドミニカやベネズエラなど、中南米依存が強かったメジャーのスカウト部門に大きなインパクトを与えました」

 そして、メジャー挑戦を明言している山本由伸や今永昇太らの行き先と、今後の活躍によってスカウティングにも影響が出ると、スカウトC氏は言う。

「ともに好投手ではありますが、日本でも小柄な部類に入る投手たちです。そんな彼らがメジャーに入って、期待どおりの結果を残したら、今まで以上に日本のマーケットに注目するでしょう」

 日本人選手に注目する具体的な理由はこうだ。

「フィジカルだけなら、ドミニカやベネズエラなどの選手にかなわないかもしれない。しかし、彼らは制球力や守備の基本動作など、すべて1から教え込まなければいけない。それにどれだけの時間と労力がかかるか。その点、日本の選手は少年野球や高校野球で基本的な技術を身につけ、プロで磨かれていく。つまり、同じ新人でもスタート地点がまるで違う。日本選手のレベルが相対的に高いのは、そうした基本ができているから。それをメジャーのスカウト部門の要職者たちが、ようやく気づき始めたというわけです」

 今後はよりいっそう、メジャーから誘われる選手が多くなる気配がある。

 その一方で、前出のスカウトA氏はこう警鐘を鳴らす。

「NPBの最高年俸はいくらですか? 6億円くらい? メジャーに行けば、1年目からその数倍以上の金額が手に入る。でも、最初から大金を手にすることには賛成できません。最初は少額でも環境や出場機会が多いといったチーム状況など、金銭以外の要素を大事に考え、まずはプレーで成功することを優先して考えるべきです。お金は成功すればあとからついてきます」

 それをA氏は「大谷的発想」と表現した。

「野手なら、かつてカージナルスなどでプレーした田口壮さんも好例ですね。お金よりも環境や出場機会を優先したからこそ、長くプレーできた」

 いずれにしても、メジャースカウトにとってのアジア市場は、以前にも増して注目されていることだけは間違いないようだ。