カジノの街ラスベガスで、角田裕毅のギャンブルは見事に外れた。

 決してラクな週末を期待していたわけではない。だが、初日から最下位に沈むとまでは思っていなかった。

 ストレートの不利を解消するためにダウンフォースを削った。しかし、金曜フリー走行3回目ではわずかながらに改善が見られたものの、Q3どころかQ1突破も怪しいくらいのパフォーマンス......。

 入賞できなければ意味がないのだから、失うものがない角田は予選に向けて、思いきったギャンブルをした。フロアに接するビームウイングを僚友ダニエル・リカルドよりも薄い仕様とし、すでに十分に薄いリアウイングをさらに削った。


角田裕毅にとって苦しい週末だった photo by TAKAHIRO MASUDA(BOOZY)

「そもそもこのサーキットは、ウチのクルマには合わないだろうというのはわかっていました。だけど、ここまで合わないとは思いませんでした。

 昨日から今日にかけてダウンフォースを下げていって、予選に向けてはちょっとギャンブルをして、僕のクルマだけさらにダウンフォースを下げてみました。ですけど、それがうまくいったのかいっていないのかもよくわからないですね。まだちゃんと走れていないんで」

 予選Q1最後のアタック直前にトラフィックに飛び込んでしまい、スローダウンを強いられてタイヤが冷えてしまった。その結果、ターン5でロックアップして飛び出し、刻々と路面が向上するなかで最も重要な最終アタックを完遂できず、最後尾グリッドからのスタートとなった。

 だからこそ、決勝でもギャンブルを仕掛けるしかなかった。

 ソフトタイヤを履き、スタート直後にポジションアップを図る戦略を採った。ライバルたちは「ミディアム〜ハードの1ストップ作戦」という常套手段でくることが予想され、同じ戦略を採っても入賞圏までポジションアップできる可能性がほぼないことは明らかだったからだ。

【直後のセーフティカー導入で恩恵も受けられず...】

 チーフエンジニアのジョナサン・エドルスは語る。

「ユウキは最後尾スタートだったからアグレッシブな戦略でいく必要があり、ソフトタイヤでスタートしてポジションを上げる戦略だった。周りのミディアムやハードランナーたちはタイヤのウォームアップにかなり苦しむだろうとわかっていたから、スタートでできるだけポジションを上げ、早めにピットインして2ストップ作戦で走り切る戦略だったんだ」

 しかし、ハードタイヤが1セットしか残っていなかったアルファタウリは、アストンマーティン勢やセルジオ・ペレス(レッドブル)、カルロス・サインツ(フェラーリ)のようにスタート直後にこれを捨てて、残りすべてを"当たりタイヤ"のハードで走るという戦略を採ることができなかった。

 10周目にミディアムに履き替えたが、タイヤのウォームアップが悪かったためにグリップ不足でタイヤ表面がささくれ立つグレイニングがひどく、ペースが上がらなかった。そのため21周目、早々にハードに履き替えることになった。

 ところがその直後にセーフティカーが入り、2ストップ作戦ならしっかりと得られたはずの恩恵を受けることもできなかった。

 浮上のきっかけを掴むことができないまま、後方を走り続けるだけのレースになってしまった。最後は47周目のターン4を抜けたところでマシンから異音が発生し、ピットに戻ろうとしたが、途中でマシンを止めることになった。

「いずれにしても今日のポイント獲得は厳しかったと思いますが、突然でしたね。ギアボックスかエンジンかはまだわかっていないんですけど、次戦で(PU投入の)ペナルティがないことを祈りたいです」

 トラブルは別としても、角田の捨て身のギャンブルは成功しなかった。

「ダウンフォースを削ったことは間違いなく改善する方向だったが、2台でセットアップを分けたうち、ユウキのほうは削りすぎた可能性がある。FP3でトップスピードもラップタイムもあまりに遅かったから、何かをやらなければならなかった。なので、ああいった手法をトライしたんだ」(ジョナサン・エドルス)

【ランキング7位争いは最終戦アブダビに持ち越し】

 このギャンブルについては、角田自身もポイントを目指し攻めた結果だと納得している。ポイント獲得の望みがないまま走るよりも、ほんのわずかでもチャンスがあるほうに賭けたのは正解だ。

「僕のほうがダウンフォースを削るギャンブル的なセットアップをしましたが、それがうまくいったとは言えないと思います。でも、何もしなければポイント獲得のチャンスはなかったと思いますので、チャレンジしたこと自体には満足しています。(ギャンブルをしなかった)ダニエルの結果(14位)を見てもわかるとおり、トップ10に入るには何らかのゲームチェンジャーが必要な状況だったと思います」


夜のラスベガスを走る角田裕毅 photo by TAKAHIRO MASUDA(BOOZY)

 幸いだったのは、コンストラクターズランキング7位を争うウイリアムズやアルファロメオ、ハースが予選の好結果に反し、決勝ではノーポイントに終わったことだ。

 泣いても笑っても今シーズンは残り1戦。1週間後のアブダビGPですべてが決する。

「まず(PU投入の)ペナルティがないことを祈りつつ、あとは最大限に自分の力を発揮するだけです。何が起きるかわからないので、ポイント獲得を目指して全力を尽くしたいと思います」