3大駅伝は、出雲駅伝と全日本大学駅伝を駒澤大学が制し、残すは箱根駅伝のみになった。
 
 今シーズンの駅伝は、駒澤大学の一強だ。
 
 出雲では6区間中3区間で区間賞を獲り、全日本は8区間中4区間で区間賞を獲得、ともにレースを支配しての完全勝利で、もう手がつけられない状態だ。箱根に向けてのメンバーも全日本の8人に加え、花尾恭輔、唐澤拓海、白鳥哲汰、金子伊吹ら4年生の主力が整いつつある。彼らを加えた最強布陣を組み、ノーミスで走れば出雲から箱根まで24区区間オールトップという前人未踏の完全優勝を実現し、史上初となる2年連続の3冠を達成する可能性が限りなく高い。


4連覇を飾った全日本大学駅伝でアンカーをつとめた駒澤大学の山川拓馬 photo by Kyodo News

 そんな「史上最強」と称される駒澤大を、青学大、國學院大、中央大は止めることができるのか。

 打倒・駒澤の最右翼は、青学大だろう。
 
 駒澤大の藤田敦史監督が「青学大は長い距離が強い。(箱根では)油断はできない」と語っていたとおり、青学大は距離が短い出雲こそ5位に沈んだが、後半2区間がロングの全日本では中盤から後半に強みを発揮して、2位を確保した。

 当日の区間変更で3区に入った佐藤一世(4年)は、「価値ある2位」と語る。
 
「青学の今季の課題は、駅伝経験の無さでした。出雲ではそれが結果にも出てしまいましたし、今回も初駅伝の選手がふたり(小原響・4年、荒巻朋熙・2年)いて、彼らも不安だったと思うんです。それでも、しっかりと走り、駅伝の経験を積むことができたのは大きいですね。区間賞はゼロだったんですけど、箱根に向けて価値のある全日本だったと思います」

 出雲では野村昭夢(3年)、鶴川正也(3年)、黒田朝日(2年)、鳥井健太(1年)が、全日本では小原と荒巻が出走し、駅伝の経験者は一気に6人増えた。全日本では出足こそ遅れたが、上位で安定したレース展開を実現した。
 
 ただ、駒澤大には、3分34秒の大差をつけられた。
 
「正直、駒澤はちょっと遠いなと思っています。でも、箱根は距離が2倍になりますし、5区6区の特殊区間はうちの強みでもあります。100%の力を出し切れば自分たちも勝てると思っています」

 佐藤は、自信に満ちた表情でそう言った。

 昨年の近藤幸太郎(現SGホールディングス)、岸本大紀(現GMO)、横田俊吾(現JR東日本)のようなエースはいないが、出雲で2区区間賞、全日本で2区区間新と快走した黒田がエースの役割を担うレベルにまで成長したのは大きい。さらに、1年時に全日本6区で失速したトラウマから復活した山内健登(4年)が主軸らしい走りを見せ、6区3位と好走した荒巻、関東インカレの3000メートル障害王者ながら4区7位と上々の走りを見せた小原もアピールに成功。出雲で5区10位に終わった鳥井が世田谷ハーフで優勝、全日本の補員だった塩出翔太(2年)が同2位に入るなど、選手層は厚くなっている。

 佐藤が言う特殊区間だが、青学大は山が強い時は勝っている。原晋監督は「5−2−1(出雲、全日本、箱根の順位)という世代もある。その縁起を担いで箱根では優勝したい」と語っていたが、その時も5区の飯田貴之が区間2位、6区の谷野航平が区間3位で1位をキープして優勝した。5区には経験者の若林がおり、6区も「秘密兵器」がいるという。全体的にロングを走れる選手が多く、復路は伝統的に強いので、往路で駒澤大を慌てさせることができれば勝機は十分あるだろう。

【國學院大は"3本柱"の安定がカギ】

 國學院大は、出雲4位、全日本3位と安定した成績を残している。伊地知賢造(4年)、平林清澄(3年)、山本歩夢(3年)の"3本柱"に加え、2年生がすばらしい走りを見せて上位争いを展開した。とりわけ存在の大きさを示したのが、エースの平林だ。前田康弘監督が「去年の大会は7区で(駒澤大に)2分以上やられた」と平林にリベンジを期待すると、平林はその声に応えるように4位で襷を受けると区間賞の走りで2位の青学大の背中が見えるところまで迫った。また、主力の伊地知は8区のラストで青学大に競り負けたものの3位を確保し、区間2位と主将らしい粘りのある走りを見せた。

 だが、レース後、前田監督は悔しさを滲ませて、こう言った。
 
「(駒澤大には)絶対的なゲームチェンジャーがいますし、チーム力が非常に高いと思います。でも、このまま2位争いに甘んじるつもりはない」

 箱根への意欲と自信を隠さないのは、2年生の成長が著しいからだろう。全日本では、上原琉翔(2年)が3区3位、高山豪起(2年)が4区4位、青木瑠郁(2年)が5区3位、嘉数純平(2年)が6区5位と中盤に並べた2年生が好走して試合を作り、ルーキーの後村光星が1区6位と結果を出した。3本柱に次ぐ彼らが力を証明したのは箱根に向けて好材料だ。
 
 それでも、國學院大は3本柱がいてこそのチーム。

 そのひとりである山本は、夏の故障の影響があるのか出雲4区6位、全日本2区11位と本来の力を出し切れていない。3本柱が万全で、100%の力を発揮すれば、前田監督が言う「ストップ駒澤の一番手になりたい」が現実味を帯びてくる。

【「攻撃的なオーダー」で攻める中央大】

 箱根では中央大への期待も膨らむ。
 
 前回の箱根駅伝では総合2位で、往路では駒澤大と30秒差とほぼ互角の戦いを演じた。今季のチームは、その時の往路区間のメンバーが全員残り、エースの吉居大和(4年)を軸に、選手層は分厚い。
 
 だが、出雲はスタートで出遅れた後、立ち直すことができずに7位。全日本は1区に吉居駿恭(2年)、2区中野翔太(4年)、3区吉居大和と前半に主力3人を配置して勝負に出たが、エース吉居が3区11位とまさかの失速。5位から7位に後退したものの、中盤から後半に向けて巻き返し、4位でフィニッシュした。
 
「今までやって来た粘りの駅伝が出せたので、収穫が多い駅伝でした。大和は全日本直前の練習で動いているなって思っていたんです。でも、レース前に硬さが出てしまい、夏の走り込みがコロナの影響などで2週間ぐらい後ろ倒しになったことが影響しているのかなと思いました。大和にはいろんなものを背負わせて、挽回してもらってきたので、この2カ月でしっかり作ってもらい、箱根でリベンジさせたいと思います」

藤原正和監督が言うとおり、全日本は収穫が多かった。 4区の溜池一太(2年)が区間3位、初駅伝のルーキー本間楓が5区5位、駅伝デビューの吉中祐太が6区4位と好走。7区の湯浅仁(4年)は鈴木芽吹(駒澤大・4年)よりも1秒早いタイムで区間2位になった。
 
「湯浅が芽吹くんに1秒差で勝ったことが我々の未来だと思います」

 藤原監督はそう語ったが、この1秒差から自分たちは駒澤に負けていない、自分たちはやれるんだという自信が各選手に伝播していけば箱根での走りも変わってくる。
 
 ただ、対駒澤大では、藤原監督は厳しい表情を崩さない。
 
「(駒澤大は)完璧すぎます。僕らが何かをやらないといけない。こちらが動かないと向こうに変化は起こらないと思う」

 箱根は、前半で駒澤大に逃げられてしまうと早々にレースが終わってしまう。そのため、藤原監督は守りに入らず、全日本同様「攻撃的なオーダー」に動くだろう。吉居兄弟を1区2区に配し、3区は昨年区間賞を獲った中野、4区に全日本4区3位で力がついた溜池、山は昨年5区3位の阿部陽樹(3年)という区間配置が考えられる。

「自信を失った」という出雲から1カ月の突貫工事で戦えるところまで修正した藤原監督だが、箱根まで2カ月間、さらなる成長と調整がハマれば「変化を起こす」ことが可能になるはずだ。

 駒澤大学が出雲駅伝で2位につけた1分33秒の差、全日本でつけた3分34秒差は非常に大きく、このタイム差以上に総合力で差が開いているのを他大学は実感しているだろう。駅伝は共闘ができないが、青学大、國學院大、中央大がそれぞれミスなく戦うことで駒澤大にプレッシャーを掛けていくことが可能になり、それが駒澤包囲網にもなる。それができれば、無敵の駒澤大にも何かしらの変化が生じてくるかもしれない。100回記念の箱根駅伝で青学大、國學院大、中央大を含む他大学は、その変化の波を起こせるだろうか。