イギリスの非営利団体・デジタルヘイト対策センター(Center for Countering Digital Hate:CCDH)は、オンライン上のヘイトスピーチやフェイクニュースを監視する活動を行っており、過去にはイーロン・マスク氏が買収した後のX(旧Twitter)でヘイトスピーチが急増していることを報告しています。そんなCCDHに対して、Xは2023年7月20日付で送付した書簡に「CCDHはTwitterのデジタル広告ビジネスに損害を与えることを意図した、一連の問題かつ根拠のない主張を行った」と記し、法的手段も辞さない構えを見せました。

Letters from the lawyers: Musk threatens CCDH with brazen attempt to silence honest criticism. - Center for Countering Digital Hate | CCDH

https://counterhate.com/blog/letters-from-the-lawyers-musk-threatens-ccdh-with-brazen-attempt-to-silence-honest-criticism/



Twitter threatens to sue anti-hate organization for reporting on Twitter hate speech - The Verge

https://www.theverge.com/2023/7/31/23813869/twitter-x-ccdh-lawsuit-elon-musk-anti-hate-claims

Twitter threatens legal action against nonprofit group that monitors hate speech

https://www.nbcnews.com/tech/tech-news/twitter-threatens-legal-action-nonprofit-group-monitors-hate-speech-rcna97265

マスク氏はTwitterを買収した後、かつて差別やヘイトスピーチで凍結されていたアカウントを復活させる方針を示し、実際にいくつかの危険なアカウントが復活していることが報告されています。2023年7月にも、児童性的虐待画像を投稿した右翼インフルエンサーのアカウントが復活したことが判明し、多くの非難が寄せられています。

継続的にオンライン上のヘイトスピーチを監視しているCCDHは、2022年11月に「Twitter上のヘイトスピーチが前例のないスピードで急増している」という研究結果を発表しました。調査によると、反黒人の人種差別的ツイートやゲイ男性に対する中傷ツイート、反ユダヤ主義的なツイートが買収前から58〜200%以上も増加し、中傷的なツイートに対するいいね・リプライ・リツイートの平均数も3倍近くに跳ね上がったとのこと。

Twitterのヘイトスピーチがイーロン・マスクの買収後に急増していると研究者が報告、マスク氏は「全くの虚偽」と反論 - GIGAZINE



凍結が解除された「有害なインフルエンサー」の経済効果をCCDHが試算した結果、たった10人の有害なインフルエンサーが1年間で約200億ものインプレッションを稼ぎ、年間最大1900万ドル(約25億円)の収益を上げることもわかりました。

Twitterはたった10人の「有害なインフルエンサー」で年間25億円も稼ぐとの試算結果 - GIGAZINE



こうした調査に対し、マスク氏の個人弁護士であるアレックス・スピロ氏の名前で送付された7月20日付の書簡で、Xは「CCDHはTwitter全般、およびTwitterのデジタル広告事業に害を及ぼすことを意図していると思われる問題かつ根拠のない主張を繰り返しています。CCDHは定期的にTwitterとその運営について扇動的、侮辱的、虚偽または誤解を招くような記事を投稿しており、それを『調査』によって裏付けられたものとして大衆に見せています」と主張し、CCDHの調査結果は恣意(しい)的で問題があると批判しました。

Xが一例として挙げた2023年6月の「TwitterはヘイトをツイートするTwitter Blueアカウントの99%に対して行動を起こさない」という記事は、100人のTwitter Blueユーザーが投稿した「ヘイトを助長するツイート」を調査したものです。CCDHは、当該ツイートがヘイトとして報告されてから4日後になっても99%の投稿は削除されず、アカウントも凍結などの措置が執られなかったと報告しています。Xは「この記事は無作為のツイートをざっと見ただけで、扇動的で誤解を招くような裏付けのない主張を並べたものに過ぎません」と非難していますが、それ以外の調査結果については触れられておらず、CCDHが発表したすべての調査結果に問題があると考えているのかどうかは不明です。

Twitter fails to act on 99% of Twitter Blue accounts tweeting hate - Center for Countering Digital Hate | CCDH

https://counterhate.com/research/twitter-fails-to-act-on-twitter-blue-accounts-tweeting-hate/



Xは書簡の中で、「CCDHが扇動的な主張によって広告主をプラットフォームから遠ざけ、Twitterのビジネスに損害を与えようとしていることに疑いの余地はありません」「従って、CCDHによるTwitterに関する虚偽および誤解を招くような主張が、ランハム法第43条(合衆国法典第15編第1125条)に基づき訴えられるかどうかを調査しています。Twitterは虚偽または誤解を招くようなクレームがユーザー、プラットフォーム、またはビジネスに損害を与えることを防ぐため、あらゆる法的手段を駆使します」と述べ、CCDHに警告を行いました。

なお、マスク氏は書簡が送付される直前の7月18日に、CCDHの調査結果を引用したツイートへの返信で「この組織に資金を提供しているのは誰ですか?CCDHは反対のことを主張しながら、偽情報を広め、検閲を推進します。まさに邪悪です」と述べ、CCDHへの嫌悪感をあらわにしていました。



CCDHはウェブサイトに掲載した回答で、Xの主張を全面的に却下しています。CCDHの弁護士であるロベルタ・カプラン氏は、「これらの申し立ては事実無根であるだけでなく、ネット上での扇動やヘイトスピーチ、有害なコンテンツに反対する勇気のある人々を脅迫しようとする、不穏な努力の表れです」と非難しています。

海外メディアのThe Vergeは、もしXがこのような書簡を送ってCCDHが反論しなかったら、そもそもの「TwitterはヘイトをツイートするTwitter Blueアカウントの99%に対して行動を起こさない」という記事がこれほど注目されることはなかっただろうと指摘。Xの過敏な反応は逆効果になっていると示唆しました。

その後、Xは7月31日付のブログで、「XはCCDHとその支援者に対して法的請求を起こしました」と発表しました。

Protecting the public’s right to free expression

https://blog.twitter.com/en_us/topics/company/2023/a-new-era-of-transparency-for-twitter1

Twitter/X Sues Hate-Speech Research Group CCDH Over Claims - Variety

https://variety.com/2023/digital/news/twitter-musk-threatens-lawsuit-hate-speech-research-group-1235683325/