恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶【Q】はこちら:昼は営業事務をしている“自称”インスタグラマー女子28歳。寿退社を目指し、経営者に狙いを定めるが…




Episode07【A】:船越 誠治(35)
顔で選んじゃいけないのは、わかってるんだけど…


『Kさん、初めまして。船越誠治といいます!よろしく』

仕事を終えた、週末の23時。

僕は、自分が手がけたカフェバーのカウンターに座り、ある女性にメッセージを送った。

たくさんの女性がいる中で、なんとなく目に留まった彼女・K。

顔で選ぶのはやめようと思っても、出会いがマッチングアプリなので仕方ない。

「誠治さん、何か飲みます?」
「あ〜。じゃあアイリッシュコーヒーお願いしていい?」
「もちろん!」

僕の会社の従業員であり、この店の店長を任せているタケシにそう言って、画面に視線を戻す。

― そろそろ彼女がほしい。

それは僕だけじゃなく、このアプリを勧めてきたタケシも望んでいることだろう。

恋愛をしていない時の僕は、無意識に部下にも仕事優先の生活を要求をしてしまうから。

「すみません、お先に失礼します」
「おぉ。おつかれ!今日もありがとうね」

― どうか、今度こそ中身も素敵な子でありますように。

そう願いながらKに「いいね」をして、僕はアイリッシュコーヒーを飲み干した。




インスタグラマー?


『こんにちは。恵子といいます。ケイちゃんって呼んでください^^』

『ふなこし:お返事ありがとう、ケイちゃん。仕事、フリーランスって具体的に何をされてるんですか?』

『恵子:ファッション系のInstagramをしてますよ〜!』

『ふなこし:おぉ、すごい!仲良くなったらアカウント教えてくださいね』

家に帰ったあと、僕は恵子とメッセージを送りあった。

誰かと連絡を取るのが楽しいと感じるのは久しぶりで、会う日取りもすぐに決まった。




「わぁすごい〜!私、ウニ大好きなんです〜〜!おいしそうっ」
「僕も好き。喜んでくれてよかった」

最初に恵子を連れてきたのは、荒木町にある『鮨 わたなべ』。

最近、この辺りの和食にハマっているのもあって、ちょうどよかったのだ。

「へ〜。さすがインスタグラマー。写真撮るのうまいんだね!」

「え〜?そんなことないですよ。被写体が素晴らしいだけです」

恵子が嬉しそうに「ウニ4種盛り」をスマホで撮影しているのを見て、頬が緩んだ。

― 女性が楽しそうに食事しているのって、いいな。

この時は、素直にそう思えた。

だから、二軒目にも誘ったし、来てくれたお礼にタクシー代も渡したのだ。

「え!多すぎるよ」
「じゃあ…そのお釣りで今度コーヒーおごって」

そう言って別れた日の夜、僕はInstagramの恵子のアカウントを見つけた。

フォロワーは、9千人。

決して少なくはないが、Instagramだけで生活できるのだろうかと、素人ながらに疑問に思った。

もしかしたら、特殊な稼ぎ方をしているのかもしれない。

僕は、興味本位でしばらくフォローせずに見させてもらうことにした。


恵子の承認欲求


翌週の土曜日。

恵子と二度目のデートをすることになり、僕は、ホルモンがおいしいと評判の焼肉店を提案した。

人気店なので、開店前から行列ができる。でも待つのは30分くらいだし、楽しくおしゃべりしていればあっという間だ。

「お待たせ!ごめんね、道が混んでて」
「ううん、大丈夫。席に案内される前でよかったよ」

しかし、彼女は遅刻してきた。

それだけなら、全く問題ないのだが、僕は知ってしまったのだ。

彼女がギリギリまで涼しいカフェにいたことを。




「すごく美味しそう!」
「絶対うまいでしょ。ケイちゃん、ビールおかわりする?」

カフェに行ってきたからだろう。1杯目をかなりゆっくり飲みきった彼女に声をかけた。

「そうだね。ありがとう〜!」

僕は恵子にではなく、食事に集中したくて、なんとなくホルモンを撮影した。

「めちゃくちゃうまそうに撮れたわ」
「本当だ!それ送って」
「うん!!」

― ここに来る前のアイスラテは載せてたけど、ホルモンは…どうなんだろう。

そんなことを考えながら、恵子にホルモンの写真を送る。

「誠治くん、次は神楽坂行かない?」
「いいよ。行きたいところある?」

僕は、自分の推測が正解なのか知りたくなり、恵子にもう一度会うことにした。

「任せる…けど、和食かなぁ」
「ウニは必須?」
「バレちゃった?お願いしますっ」

― やっぱり高級な店がいいんだろうな。

僕は、彼女と解散したあとで、早速店の情報を送った。

その日、ホルモンの写真が彼女のInstagramに載ることはなかった。

彼女にとって、ホルモンは“映え”ないし、自慢したい出来事ではなかったのだろう。




『ふなこし:ここどう?ウニが出てくるか、わからないけど。笑』

『恵子:行きたい〜!ありがとう♡』

もはや、わかりやす過ぎて可愛く思えてしまう。

予想通り、神楽坂のディナーでは出てきた料理を全て撮影し、その場でストーリーズも更新していた。

恵子の行為は当たり前といえば、当たり前なのかもしれない。

個人のアカウントなのだから、載せたいものを載せていい。

でも、恵子は一銭も払っていないし、僕は彼女の恋人でもなんでもない。

彼女の承認欲求のために、自分が使われるのはゴメンだ。

「ケイちゃんのインスタ、おすすめに出てきたから見ちゃったよ」

僕は、帰りに恵子に言った。

「え…?」
「知り合いにSNS運用のプロがいるから紹介しようか」

意地悪でもなんでもなく、彼女のSNSは方向性が定まっていなくてもったいないと思った。

ファッション系のインスタグラマーだと言っていたが、食や美容など、いろんなことを載せすぎなのだ。