大きく変わったプリウスクラウン(クロスオーバー)の先代と現行モデル(写真:トヨタ自動車

2023年1〜4月に国内で販売された新車のうち、トヨタ車が占める割合は、レクサスを含めて36%であった。

しかし、軽自動車を除いた小型/普通車に限ると、トヨタの割合は55%に増える。その理由は、新車全体における軽自動車の割合が37%に達したからだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

たとえば、以前のホンダは「シビック」や「アコード」など小型/普通車が中心だったが、ここ数年は「N-BOX」が販売の主力になり、2023年1〜4月ではなんと57%が軽自動車となっている。

「デイズ」や「ルークス」を販売する日産も、軽自動車の比率が41%と高い。今ではダイハツとスズキに加えて、ホンダ、日産、三菱までもが軽自動車に力を入れるから、小型/普通車市場は空洞化してトヨタの圧勝となった。

そんな状況の今、トヨタ車で注目されるのが、2022年10月から登録を本格化させた新型「クラウンクロスオーバー」と、2023年1月に納車を開始した新型「プリウス」だ。

シリーズ化するクラウン、キャラ変したプリウス

従来の「クラウン」は、Lサイズの上級セダンだったが、クラウンクロスオーバーは「クロスオーバー」の名の通りに外観を大幅に変えている。


21インチの大径ホイールが特徴的なクロスオーバー(写真:トヨタ自動車

ボディの後部にトランクスペースを備えるセダンではあるが、19〜21インチの大径タイヤを装着するSUVのような外観となったのだ。また、プラットフォームと駆動方式も変更され、FR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)ベースの4WDとなっている。

しかも、クラウンはこのクロスオーバーだけでは終わらない。2023年9〜10月には、ショートボディの「クラウンスポーツ」と、従来型と同じFRの「クラウンセダン」も加える。さらに、2024年にはSUVの「クラウンエステート」も登場する予定。クラウンには4種類のボディが用意され、シリーズ化するわけだ。


FRで登場するという次世代のクラウンセダン(写真:トヨタ自動車

プリウスも外観を大幅に変えてきた。全高を先代よりも40mm低い1430mm(2.0リッター車)に抑えて、前後のピラー(柱)とウインドウを大幅に寝かせた。後席の居住性と乗降性は悪化したが、外観は5ドアクーペ風でカッコ良くなった。

このように最近、登場した新型クラウンと新型プリウスは、両車ともに外観を大きく変えた。同時期にフルモデルチェンジした「ノア」「ヴォクシー」と比べると、変化の度合いが明らかに大きい。

外観は、車両の考え方や機能を表現する手段でもあるから、新型クラウンと新型プリウスは、クルマ造りの方針まで変えたことになる。

なぜトヨタは、車両の性格まで変えるフルモデルチェンジを続けて行ったのか。この背景には、2車種に共通する悩みがあった。それは販売の低迷だ。まずはクラウンから見ていきたい。

クラウンの登録台数が最も多かったのは、1990年。この年、クラウンは1カ月の平均で約1万7300台を販売している。2022年に国内販売の1位になったN-BOXが約1万6800台だから、バブル期とはいえものすごい売れ行きだ。


1990年ごろに販売されていた8代目クラウン(写真:トヨタ自動車

ところが、現行クラウンクロスオーバーが登場する前年となる2021年の1カ月平均は、わずか約1800台であった。1990年の“10分の1”である

2021年は、1990年に比べて国内販売の総数も減っているが、それでも57%だ。1990年の10%というクラウンの減り方は、激しすぎる。そこで、クラウンが低迷した理由を販売店に尋ねてみると、以下のように返答された。


2018〜2022年に販売された15代目クラウン(写真:トヨタ自動車

「1990年ごろは、『セルシオ』なども含めて上級セダンの人気が高かったが、今の上級車種では、ミニバンの『アルファード』やSUVの『ハリアー』が売れ筋だ。そのためにクラウンの販売は落ち込んだ」

「全車種全店販売」の功罪

クラウンの販売低迷には、2020年に国内で実施した、トヨタの「すべての販売店がトヨタの全車を扱う販売体制」への移行も影響している。

それまでのクラウンは、トヨタ店の専売車種だった。アルファードやハリアーは、トヨペット店の扱いだから、クラウンのユーザーが乗り替えるには、購入先をトヨタ店からトヨペット店へ変えねばならない。ユーザーにとっては面倒であったし、トヨタ店も顧客を失いたくないためクラウンの販売に力を入れた。

それが2020年に全店が全車を扱う体制に変わると、トヨタ店でもアルファードやハリアーを扱うから、もはやトヨタ店の顧客がクラウンにこだわる必要はない。その結果、トヨタ店でもクラウンからアルファード、あるいはハリアーへの乗り替えが進んだ。

人気の高いアルファードは、すべての店舗で売れ行きを伸ばし、クラウンはトヨタ店でも顧客を減らして販売の低迷が一層顕著になった。かくしてクラウンの売れ行きは、1990年の10分の1になったのだ。

ちなみに全店が全車を扱う販売体制では、人気車と不人気車の販売格差が明確になり、車種のリストラをしやすくなる。それも、トヨタが販売体制を変えた理由の1つであった。


フルモデルチェンジすることなく生産終了となったエスクァイア(写真:トヨタ自動車

ノア/ヴォクシーの兄弟車である「エスクァイア」が生産終了となったのも、そのためだ。車種を減らし、車両開発をシンプルにしたかったのである。

プリウス以外」が増えた結果

プリウスも、近年は登録台数を大幅に減らしていた。過去を振り返ると、2010年と2012年には、3代目プリウスが1カ月平均で2万6000台以上を登録している。先に述べたようにN-BOXの2022年が約1万6800台だから、3代目プリウスの最盛期はさらに1万台も多かったのだ。


2009〜2015年に販売された3代目プリウス(写真:トヨタ自動車

それが先代(4代目)プリウスのモデル末期となった2022年の月平均は、約2700台にまで落ち込んでいる。プリウスも、最盛期だった2010年代前半と比べると、2022年の売れ行きは約10分の1だ。

プリウスが売れなくなった理由はクラウンのセダン離れとは異なり、理由は2つある。まずはトヨタの幅広い車種に、ハイブリッドが設定されたことだ。

3代目プリウスが好調に売れていた2010年代前半は、まだトヨタでもハイブリッドの普及段階にあり、ハイブリッドを選択できる車種が少なかった。しかも、クラウン、ハリアー、「エスティマ」など上級車種が多く、手頃な価格のハイブリッドは、2011年12月に発売された先代(初代)「アクア」程度であった。


2011〜2021年に販売された初代アクア(写真:トヨタ自動車

だから、この時代に実用的で手の届きやすい価格のハイブリッドを探すと、プリウスが有力候補になったのだ。しかも、3代目プリウスは、2代目に比べると機能を充実させて値上げを抑え、取り扱う販売店も2系列から4系列(全店)に増やした。

3代目プリウスは、開発と販売の両方に力を入れたから、2010年と2012年に月平均2万6000台以上にもなったわけだ。それが今のトヨタは、ほとんどの車種にハイブリッドを用意する。

低燃費と低価格を重視するなら「ヤリス」、人気のSUVなら「ヤリス クロス」や「カローラ クロス」、車内の広さが大切ならミニバンの「シエンタ」やノア&ヴォクシーにも用意され、ハイブリッドを用途に応じて選べる。実用性と低燃費をあわせ持つプリウスのニーズは、薄れた。

プリウスが売れなくなった2つ目の理由は、先代のデザインだ。外観、内装ともに個性的だったが、個性的すぎて市場の評判は良くなかった。マイナーチェンジで相応に変更したが、人気の回復に至らなかった。


2015年に登場した4代目プリウスの前期型(写真:トヨタ自動車

このようにクラウンはセダンの衰退、プリウスは主にトヨタのハイブリッドの普及により、販売台数を最盛期の10分の1まで下げた。

「廃止するのは惜しい」ビッグネーム

両車種ともに使命を終えたと考えて、以前の「マークII(終了時はマークX)」や「コロナ(終了時はプレミオ)」のように廃止することも可能だったはずだ。

だが、クラウンは1955年から続く、トヨタの伝統ある車種だ。プリウスも1997年に「世界初の量産ハイブリッド」として投入された車種だから、認知度は海外でも高い。両車ともに「廃止するのは惜しい」と判断されたのだ。

しかし、存続させることになったとはいえ、従来と変わらぬ形では売れ行きは下がるだけだ。そこでトヨタは、車名は従来と同じでも、開発を根本から変えることにした。

クラウンは、国内市場向けの上級セダンから、海外でも販売が見込める売れ筋カテゴリーのクロスオーバーに発展させた。しかも、ボディが1種類では販売が低迷する心配もあるから、クラウンクロスオーバーにくわえて、スポーツ/エステート/セダンを含めたシリーズ化を行った。4タイプをそろえれば、販売低迷による車種の廃止も避けられる。

プリウスは5ドアクーペ風のスポーティな車種になった。


2023年1月に販売開始となった5代目プリウス(写真:トヨタ自動車

今のトヨタには、WLTCモード燃費が36km/Lに達するヤリス ハイブリッドもあり、プリウスは燃費に固執しないで、ハイブリッドの付加価値に重点を置いた車種としたのだ。

具体的には、エンジンよりも反応の素早いモーター駆動による機敏な加速性能があげられる。

この特徴を生かすため、新型プリウスでは1.8リッターエンジンにくわえて、動力性能の高い2.0リッターを主力として用意する。5ドアクーペ風の外観は、走りの良さの表現手段とされ、低重心になって走行安定性も向上させた。

外観と車両の性格を激変させたクラウンクロスオーバーとプリウスは、果たして好調に売れているのか。今は納期が大幅に遅延して、公表される登録台数は本来の人気を反映していないが、確認しておきたい。

2023年1〜4月の1カ月平均を見てみると、クラウンクロスオーバーは4125台だ。セダン型の先代が売られていた2022年1〜4月と比べて、2.3倍に増えた。

小型/普通車では中堅水準の売れ行きで、中心価格帯が500万〜600万円という高価格車としては好調だ。ハリアーや受注を停止したアルファードに次いで、多く売られている。


プラグインハイブリッドも追加され、ますます人気のハリアー(写真:トヨタ自動車

新型を買っているのはどんな人か?

では、どのようなユーザーがクラウンクロスオーバーを購入しているのか。販売店に尋ねると以下のような答えが返ってきた。

「一番多いのは、先代クラウンからの乗り替えだ。外観が大きく変わり、車両を実際に確認して買われている。そのほかはSUVが多い。従来型ハリアーからの乗り替えに加えて、輸入SUVに乗っていた方も購入されている」

プリウスは、納車が本格化した2023年2〜4月に、1カ月平均で8460台を登録している。2022年の同時期に比べて、2.1倍に増えた。こちらも、どのようなユーザーが購入しているのかを販売店に聞いた。

「新型プリウスで目立つのは、大量に販売された3代目からの買い替えだ。先代型の4代目は、外観が不人気で購入を見送ったお客様が多かったが、現行型は気に入って購入されている」


マイナーチェンジでデザインが変わった4代目プリウスの後期型(写真:トヨタ自動車

2000年以前を振り返ると、トヨタには背の低い4ドアハードトップの「カリーナED」やマークIIなど、カッコ良さに重点を置いた車種が豊富に用意されていた。それが今は実用志向が強まり、デザインで注目される車種が減っている。

クラウンクロスオーバーとプリウスは、デザインで選びたいユーザーの期待に応えているといえるのかもしれない。今後の売れ行きは未知数だが、この2車種は今のラインナップの隙間を巧みに突いており、将来の商品開発で参考になるところも多いだろう。

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)