【追悼・男子バレー藤井直伸さん】日本代表で光ったクイック、妻・美弥さんも大好きな「強くて優しい笑顔」を忘れない
日本代表のセッターとして東京五輪に出場した、東レアローズの藤井直伸さんが逝去してから1カ月が経とうとしている。東レは3月26日にシーズン最終戦を終えたが、コンビを組んでいたミドルブロッカーの李博が試合のVOMに輝くなど、藤井さんへ想いを届けた。
日本代表のセッターとして活躍した藤井さん 火野千鶴/写真photo by Hino Chizzuru
あらためて、藤井さんのバレー人生を振り返りたい。
大学卒業後、2014年度にV.LEAGUE DIVISION MEN1の東レアローズに入団。一学年上の李と半年をかけてコンビを合わせ、どこからでも入れる速攻を完成させるとチームの強力な武器に。2016‐17シーズンのリーグ優勝の原動力となった。
日本代表にはアンダーカテゴリーでの選出はなかったが、2017年度に、李と同時に初めてシニア代表に選出された。藤井さんは代表入りについて「嬉しいですね。たぶん、ミドルの使い方を評価してもらったと思うので、それを代表でも生かしていきたいです」と笑顔で語った。当時の東レの監督だった小林敦さんも「藤井のトスは、本当に彼だけにしか出せない。クイックのトスが、コンマ何秒かというところで速いんです」と讃えていた。
代表でも速攻を多用するトス回しが生き、男子代表が力を取り戻すきっかけのひとつになった。東京五輪では主に清水邦広との「2枚替え」で活躍。プレー時間は短かったが、清水のスパイク決定率が70%を超えていたことからも、トスの正確さがわかる。
五輪後の2021年9月には、女子日本代表で活躍したセッターの佐藤美弥さんとの結婚を発表。佐藤さんはスポルティーバのインタビューで、オリンピック前の4月1日に「サプライズでプロポーズがあった」ことを明かした。
五輪後のシーズン途中のJTサンダーズ戦で、藤井さんは視力の不調を感じ途中退場した。精密検査の結果、胃と脳にも転移したガンが目に影響していたことが判明。年明けの2022年2月に自身のインスタグラムで次のように報告した。
「最初に診断された時は驚き、不安、怖さ、色々な感情がありましたが、家族・チームメイトの温かい支えにより、もう前を向いてこの病気に打ち勝つという強い意志を持っています!!」
その後も本人の強い意思により、同シーズンから務めていた東レの主将を続投。インスタグラムでは、お見舞いにきた選手との写真やチームへの励ましなどを投稿していたが、2023年3月12日、同10日に亡くなっていたことが、所属チームから公表された。
訃報から初めての試合となったJTサンダーズ戦では、試合前の練習で東レのスタッフ・選手全員が藤井さんの背番号である21番のシャツを着用。また、事前にSNSでファンに募集した藤井さんの写真をまとめた動画が流れ、追悼のコーナーも設けられた。
東レや日本代表でも輝きを放った、藤井さん(右)と李選手のクイック 坂本清/写真photo by Sakamoto Kiyoshi
試合は敗れたが、今シーズンは体調を崩して長期離脱していた李が途中出場し、シーズン初の速攻を決めた。試合後に李は「藤井には感謝の気持ちが多過ぎて。(それを伝えるための)『ありがとう』以上の言葉がほしい」と涙を浮かべた。
ブロックポイントを6点も挙げた郄橋健太郎は「藤井さんが降りてきた」とコメント。さらに、最多得点をあげた富田将馬は、「藤井さんにレシーブは『そこにいろ』とか、スパイクは『ここに打て』と言われているようだった。主将としてコート内で盛り上げる姿をずっと見てきた。今後、自分がコートキャプテンとして藤井さんに近づければ"恩返し"になると思う」と振り返った。
他チームの選手、関係者からも多くのコメントが寄せられた。東京五輪で2枚替えのコンビを務めた清水邦広は「最後に会いに行った時に、すごくいい顔をしていました。悲しい気持ちはありますが、仲間みんなで送り出すことができた。藤井の意志を継ぎながら、彼のような笑顔でバレー界を盛り上げていきたい」と偲んだ。
昨年、闘病中の藤井さん(中央)を見舞った福澤達哉さん(左)と清水選手 写真提供/パナソニックパンサーズ
妻の佐藤さんと、日立でチームメイトだった元日本代表の栗原恵さんは「美弥が必要としてくれる限り、いつまでも寄り添い側にいます。みんなから愛される2人だったからこそ、こんなにも沢山の方が応援し気持ちを送り続けてくれているんだと思います。
これからも一緒に泣いて笑っていこうね」とコメントした。
サプライズプロポーズから2年後の4月1日、藤井さんの逝去後初めて、佐藤さんがインスタグラムを更新した。
「今は深い悲しみの中、どこか実感がわかないそんな日々ですが 皆様からのあたたかさの中で過ごすことができています」「私も直伸の人を想う心が 強くて優しい笑顔が大好きでした。直伸への想いや、直伸との思い出は語りきれませんが これからもたくさんの方に思い出していただき たくさんの方の中に、たくさんの場所に、いろいろな形で生き続けてくれることを願っています」
現在の男子日本代表では、藤井さんがチームに持ち込んだミドルブロッカーの多用が定着し、世界の強豪国に対しても有効な武器になってきた。藤井さんは、妻の佐藤さん、日本代表や東レのチームメイト、すべてのバレーボール関係者とファンの心の中で、今も生き続けている。