純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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連日、マスコミは詐欺や強盗の話ばかりやっているが、長期傾向としては昔より減ってきているのだそうだ。そりゃそうだろう。いまどき、「ふつう」の家に、カネなど無い。それは、キャッシュレス時代だからというより、そもそも銀行の口座にだって余裕が無い。うちなんかも、子だくさんで、食べざかりで、昨今、やたら教育費もかかるから、ほんとになにも無い。子どもの貯金箱まで、家中からありったけをかき集めても、万を越えられるかどうか。

昔はタクシー強盗、コンビニ強盗なんていうのも聞いたが、これもいまどきムリだろう。とにかく景気が悪い。自腹で、現金で、なんていう方が、むしろめずらしいのではないか。客の方も持ち合わせが無い。会社の伝票か、クレジットの後払いだらけ。路上でオヤジ狩りなんかしたところで、財布はすっからかん。学生をカツアゲしても、近年はろくにバイトも無い、昼飯さえろくに食べれていないから、鼻血さえ搾り取れない。

実際、ニュースを見ても、明日は我が身、などという実感が無い。自分が襲われても、ただ殺され損なだけで、奪われるほどのものが、ほんとうになにも無い。財布の中身は診察券と数千円。スマホもいまだにiphoneの6だし、パソコンはドンキの情熱価格。車も、車検を重ねた小さな軽。身ぐるみ剥がされたところで、上下合わせて1万もしない通販のペラペラスーツ。年来、家族でファミレスや回転寿司にも行っていないし、ひとりでもファストフードやコンビニには寄れない。CMでやっているテーマパークなんか、外国なみに遠い、ほんとうに夢の世界。それでも、やたら税金は取られるし、公共料金は高いし、食品からなにから値上げ、値上げ。ちょっとした贅沢気分が味わえるのは、夕方のスーパーで売れ残りの品に目の前で割引シールが貼られたときくらいか。昨今の勤め人なんて、みんなこれが「ふつう」じゃないのか?

詐欺や強盗の被害に遭われた方は、ほんとうにお気の毒だったとは思うが、その一方、一戸建ての豪邸で、家に金庫や地下室がある、とか、現金数百万、高級時計や宝石金塊を奪われた、とか聞くと、はぇー、すごいなぁ、あるところにはあるんだなぁ、と感心するばかり。成城の駅前や六本木のタワーマンションに住んで、軽井沢にどでかい別荘があって、多くの政治家たちと親しい、なんていう、立派そうな人が逮捕されると、ああ、やっぱり、と思うばかり。まあ、警察に被害を出せる、警察が捜査に入るなんていうのは、まだまともな方の事件だからで、実際は、盗られても警察に言えない隠し財産、明らかでも警察も問えない政治案件なんていう闇の話が、もっといっぱいごろごろあるんじゃないか、と、下衆としては勘ぐりたくなる。

だいぶ前に『金持ち父さん貧乏父さん』なんていう本がベストセラーになったが、世界中、税制が根本的におかしい。あの本にあるように、勤め人は、最初から収入のすべてが国に把握されていて、収入そのものからがっつり先に税金を引かれ、その残りで、家賃からなにから、生活のすべてをやりくりしないといけない。一方、個人経営者は、好き勝手に生活のすべてを会社の経費で落して利益を圧縮するから、会社にさえほとんど税金がかからない。くわえて、なんだかんだ政府の補助金をたっぷり受け取り、自宅はもちろん別荘や愛人手当まで会社の施設や秘書の名目だったりする。会社にカネを貯め込んで、その経営者の地位だけ、子どもに譲るから、相続税もかからない。それどころか、価格不定の美術品の現物を現金で売買したり、減価償却済の高級車なんかをうまく売却したりすると、かんたんに簿外の裏金ができてしまう。

まあ、世間の多くの人は、いまだにこんな経済や政治のカラクリを知らないから、文句も言わないのだろうし、うまくやっている連中からすれば、文句があるなら自分も経営者になればいいじゃないか、投資と思ってパー券買って政治家に近づけばいいじゃないか、貯め込んでいるのも、いざというときの個人保証のためだ、とか開き直るのだろうが、いろいろこそこそ家に隠しているところからして、やはりうしろめたいところはあるのだろう。そして、そんな正体不明の隠し財産が、詐欺や強盗の結果、日の当たるところに出てきて、しばしば庶民の目に触れるようになると、いくら「バカ」な庶民でも、あれ、これ、おかしかないか、と気づいて、金持ち相手の詐欺や強盗を義賊として拍手喝采して応援しかねない。そうなる前に、個人経営者に関する税制を正さないと、ほんとうにたいへんなことになる。