マジンガーZイベントで熱唱する水木一郎さん

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 子どもの数が多かった昭和期はテレビアニメの全盛期。アニメソング(アニソン)の名曲も次々と生まれた。その中から独断でベストテンを選ばせていただきたい。

【写真】マジンガーZのイベントで決めポーズ姿の水木一郎さん

【1】フジテレビ『マジンガーZ』(1972年〜74年)、オープニング曲(OP曲)『マジンガーZ』

 12月6日に他界したアニソン界の帝王・水木一郎さん(享年74)の代表曲にして出世作。TBS『原始少年リュウ』(1971年)のOP曲『原始少年リュウが行く』でアニソン界入りした水木さんにとって3曲目のアニソンだった。

 力強い詞を書いたのは東文彦氏。劇画『子連れ狼』などの原作者で漫画家・高橋留美子さん(65)の師匠筋にあたる故・小池一夫さん(享年82)のペンネームだ。

 歌詞冒頭の「空にそびえる くろがねの城」でマジンガーZが巨体であることが分かった。「鉄」という言葉を使わず、子どもには分かりにくい「くろがね」に言い換えたのはこだわりに違いない。その後の「無敵の力は ぼくらのために」という短いフレーズでZが正義の存在であることが強調された。

 作曲と編曲は故・渡辺宙明さん(享年96)。映画音楽の大家で故・鶴田浩二さん(享年62)が主演した『傷だらけの人生』(1971年)などを手掛けた人だ。NET(現テレビ朝日)の特撮ドラマ『人造人間キカイダー』(1972年)のOP曲『ゴーゴー・キカイダー』などの作曲・編曲も担当している。

 水木さんの歌声も素晴らしかった。力強く、張りがあった。声がちょっと割れているところも味になっており、野性味を感じさせた。最後に「ゼーット!」と叫ぶが、こんな歌唱法はそれまでのアニソンに存在せず、子どもたちの胸に刺さった。

 この曲は今もカラオケでよく歌われている。JOY SOUNDの週間アニメカラオケランキングの最新版(12月24日更新)で49位。現在までの全アニソンの中での順位だから立派だ。

【2】日本テレビ『宇宙戦艦ヤマト』(1974年〜75年)、OP曲『宇宙戦艦ヤマト』

 歌ったささきいさお(80)が一躍アニソン界の大スターとなった。作詞は昭和歌謡界の巨匠である故・阿久悠さん(享年70)。作曲・編曲は1993年から2005年までNHK『紅白歌合戦』のフィナーレで『蛍の光』を指揮していた音楽界の大御所である故・宮川泰さん(享年75)が手掛けた。凄い人たちがつくった。

 詞の「運命背負い 今飛び立つ」などの部分には悲壮感が漂っていたが、メロデイは勇壮。ささきのオペラのようなスケールが大きい歌い方も曲に合っていた。

 地球を守るために『ヤマト』が旅立つというところが自衛隊の精神に合うらしく、今も海上自衛隊東京音楽隊は護衛艦が海外に出航する際などに演奏している。自衛隊の各音楽隊といえば『ヤマト』と言っても良いくらい。

 アニメの『ヤマト』は放送当初は、今となっては信じられないほど人気がなかった。日曜日の午後7時半からの放送で世帯視聴率は7%程度。子どもには危機感が薄かった放射能の除去装置(コスモクリーナーD)がポイントである一方、テーマが同胞愛などやはり子どもにはピンと来ないものだったためだろう。

 ところが、1975年から夕方に再放送が始まると、中高生を中心に爆発的な人気を得る。まず女子の間から火が付いた。再放送としては極めて異例の世帯視聴率20%超えを記録。

 理由は主人公の乗組員・古代進らごく普通の青年たちが懸けで人類を守ろうとしたところ、古代とやはり乗組員である森雪のピュアな愛が描かれていたことなどが挙げられる。

【3】日本テレビ『ガンバの冒険』(1975年)、エンディングテーマ曲(ED曲)『冒険者たちのバラード』

 ヒーローが登場しないアニメで、地味に始まったものの、全26話が終了するころには子どもから大学生、その親までが熱中した。

 主人公はお調子者だが、勇敢で正義感の強い町のネズミ・ガンバ。島に住む小ネズミの忠太のSOSに応じ、仲間6人を伴って島に渡り、殺りくを繰り返していた白イタチ・ノロイと戦う。

 ガンバの仲間は親分肌のヨイショ、賢いガクシャ、いつも斜に構えているイカサマたち。どんな困難の前でも仲間を決して裏切らず、卑怯な振る舞いを嫌い、強敵に立ち向かう7匹の姿は観る側の胸を打った。

『冒険者たちのバラード』はフォークバンド「ノラ」出身の杉浦芳博(74)が歌った。シブい曲で、アニメのED曲とは思えなかった。

 その1番では仲間たちが過酷な冒険を打ち切ろうと提案するものの、ガンバは続行を訴える。だが、歌詞は「けれどゆうひは おまえとなかまの ドクロをうつす」で終わり、7匹の死を暗示した。

 明るい曲調のOP曲『ガンバのうた』を歌ったのは河原裕昌。現在は河原さぶ(77)の名で俳優として活躍している。

【4】NET『デビルマン』(1972年〜73年)、ED曲『今日もどこかでデビルマン』

 ポップス調のこの曲は完成度が高く、今になって聴いても全く古くない。聴かせどころは「人の世に愛がある 人の世に夢がある」の下り。アニソンらしさを感じさせない。  

 作詞は阿久悠さん、作曲は現文化庁長官でもある都倉俊一氏(74)が手掛けた。ピンク・レディー『UFO』(1977年)など数々のヒット曲をつくった黄金コンビだ。おそらく2人はアニソンをつくるという意識はなく、単に良い曲にしたかったのだろう。

 歌ったのは十田敬三(80)。CMソングを多数歌った人だ。

【5】日本テレビ『タイガーマスク』(1969年〜71年)、OP曲『行け!タイガーマスク』

 放送ではレコードにはないナレーションが冒頭に入っていた。「おまえは虎だ、虎になるのだ!」これが勇ましい曲をより雄々しくした。曲中のゴング音もレコードにはない。

 作詞は木谷梨男氏。東映のアニメプロデューサーだった故・斎藤侑さん(享年87)のペンネームである。作曲・編曲は故・菊池俊輔さん(享年89)。刑事たちが滑走路を歩くバックで流れる『Gメン75』(TBS、1975年)のテーマソングなどをつくった名匠だ。

 歌ったのは新田洋で、現在の芸名は森本英世(73)。1973年から83年までは「敏いとうとハッピー&ブルー」にリードボーカルとして所属していた。『星降る街角』(1977年)、『よせばいいのに』(1979年)などを歌い、ヒットさせている。幅が広い。

【6】フジテレビ『あしたのジョー』(1970年〜71年)、OP曲『あしたのジョー』

 作詞は昭和を代表する歌人で劇作家の故・寺山修司さん(享年47)、作曲・編曲は故・八木正生さん(享年58)、和製ロック歌手だった尾藤イサオ(79)が歌った。男臭く、力強いが、哀しい曲だった。

【7】NET『キャンディ(ハート)キャンディ』(1976年〜79年)、OP曲『キャンディ キャンディ』

 不朽の名作アニメ。軽快なOP曲はアニソンの女王・堀江美都子(65)とコーラスグループのザ・チャープスが歌った。累計でミリオンセラーになった。

【8】フジテレビ『世界名作劇場フランダースの犬』(1975年)、OP曲『よあけのみち』

 清貧の主人公・ネロ少年と愛犬パトラッシュを描くアニメ。結末があまりに悲しく、日本中の子どもたちが涙した。

 明るいOP曲はNET『エースをねらえ!』のOP曲なども歌ったアニソン界の実力者・大杉久美子(71)とアントワープ・チルドレン・コーラスによる歌唱だった。

【9】NET『バビル2世』(1973年)、OP曲『バビル2世』

 歌ったのは水木一郎さんとコロムビアゆりかご会。抑揚の使い方が抜群にうまい水木さんにはうってつけの曲だった。男の子向けアニメだったが、曲は女性にも人気があり、JOY SOUNDのデータによると、現在カラオケで歌うのは女性33%、男性67%。

【10】フジテレビ『めぞん一刻』(1986年〜88年)、初期のOP曲『悲しみよこんにちは』

 古い木造アパート「一刻館」の管理人と住民たちの物語。世間はバブルの真っ最中だったが、作品は毎日を精一杯生きる普通の人たちによるハートフルコメディだった。

『悲しみよこんにちは』は森雪之丞氏(68)が作詞し、玉置浩二(64)が作曲。斉藤由貴(56)が歌った。バブルの風潮と逆行するように派手さを感じさせない曲で、1970年代中期前後のフォークソングを思わせるほどだったが、多くの人に支持された。オリコンチャートでは最高週間3位、年間19位に入った。

 世の中が浮かれていた中、どんな時代でも避けられない「悲しみ」という普遍的なものをテーマとし、真摯に歌い上げられたからだろう。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。