野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

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今年最後のブログです。
ちょっと長くなりますが、今年を総括する私のメッセージを是非お読みください。

2022年は企業経営における歴史的転換点になったかも知れません。アップル社を除くGAFAの業績悪化が顕在化し、各社とも大規模なリストラを遂行しています。GAFAは2010年代に台頭し、2020〜21年のパンデミック開始による巣ごもり需要増大で、成長が一層加速しました。それが2022年に入って、一転して業績が悪化したのです。このように巨大ITプラットフォーマーによる支配が終わり始めたのが2022年でした。

一方で2021年〜22年には、企業は、市況の高騰による調達価格の増加と、モノが買えない供給不足という大きな課題に直面しました。「モノが買えない時代」に入っており、これは一時的な課題ではなく、構造的な変化だと捉えられました。こういう背景下、企業経営における「サプライチェーンの重要性」は益々高くなっています。

ここで数社の足元の業績の状況を見てみましょう。

まずは、エネルギー業界の東京電力と東京ガスです。

東京電力の2022年度第二四半期決算は、燃料・卸電力市場価格の高騰などによる電気調達費用が増加したことにより、前年同期比3,402億円減の2,388億円の損失となりました。一方で東京ガスは、純利益が前年比2.6倍の716億円となり、2023年3月期の連結純利益予測も1180億円となり、過去最高益を更新すると発表しています。

東京ガスの好業績は同社の海外事業の好調によるものも大きいですが、同社の調達改革が功を奏しているようです。具体的には、東京ガスはLNGの長期契約の比率が約7割超と言われ、国内平均より高いです。また、同社はリスク分散目的で、米国のガス価格指標に連動する長期契約も増やしており、原油価格上昇によって高騰しにくくなっている契約も多いとのことです。このように安定調達とリスク分散が上手くできているのが好業績につながっています。

次は自動車業界のトヨタ自動車とテスラです。

トヨタ自動車の2022年度第二四半期の決算は、営業収益が17兆7093億円(前期比2兆2280億円増)にかかわらず、四半期利益は1兆1710億円(3534億円減)と増収減益となっています。要因としては、資材高騰などで7650億円減益となっているだけでなく、半導体などの供給不足から当初計画の970万台の生産台数を920万台に引き下げざるを得ない状況です。テスラの2022年7-9月期の決算は、売り上げが前年比1.5倍の214億5400万ドル、過去最高を更新しています。また、利益も前年の2倍にあたる32億9200万ドルで、増収増益となっています。また、世界全体の販売台数は、34万3830台と1.4倍余りの増加となっており、半導体不足でありながら、販売台数を増加し、原材料の高騰分を価格に転嫁することもできているとのことです。

テスラの強みは、自動車業界内での圧倒的な垂直統合型モデルにあります。近年の供給不足に対しても、半導体の内製化などを速やかに適応可能にしています。また、テスラは最も川上である鉱山会社との関係性強化や、代替材料の採用などを積極的に進め、サプライチェーンの
構造改革を柔軟に取り組んでいるようです。

最後はダイキン工業と三菱電機です。

三菱電機の空調・家電事業の2022年度第二四半期決算は売上が6627億円となり、前年同期から1.1倍に伸びていますが、営業利益は大幅な減益となり、前年同期は583億円だった営業利益が、246億円に沈み、約58%の減益となっています。一方で、ダイキン工業の2022年度第二四半期決算は、売上高は前年同期比30%増の2兆198億円に、営業利益も前年同期比15%増の2217億円に伸ばし、共に過去最高です。営業利益の増減要因を見ますと、原材料・物流の高騰で(−940億円)にも関わらず、売価(値上げ、+940億円)と拡販(+454億円)、コストダウン(+220億円)の施策で取り返しており、増益を実現しています。

ダイキン工業は2023年度中に、有事対応で中国製部品が無くてもエアコンを生産できるサプライチェーン(供給網)を構築する、と発表しており、中核機能にかかわる部品の内製化や、取引先にも中国外での生産を要請するなどの取組みを行っています。ダイキンは2217億円の営業利益のうち、拡販で454億円、売価アップで940億円と合わせて1400億円近く増収につなげており、モノが買えない時代でも供給確保や原材料価格高騰の売価反映が上手くできて
いることが分かるでしょう。

このように、同じ業種の企業業績ですが、とても対照的なことが分かります。また、3業種の好業績企業3社ともに、サプライチェーン改革や調達改革を積極的に進めているという共通点があります。

もちろん、業績は様々な要因の集約結果ですので、全てサプライチェーン改革や調達改革で説明できるわけではないでしょう。

しかし、これはたまたまなのでしょうか。

私は、これらの企業事例を見ても、企業経営におけるサプライチェーンの重要性が増していることは間違いないと考えます。前述した3社の好業績企業が意図してサプライチェーンや調達改革を実施しているとは必ずしも言えまえん。しかし、環境変化に合わせて、柔軟にサプライチェーンの構造改革を進めることが、経営面で求められ始めていることは間違いないでしょう。

様々な予測不可能な事態が起こりうる、VUCAの時代には、サプライチェーンのコスト競争力だけでなく、継続性を優先する体制に切り替える柔軟性が求められます。このように、2022年という年はサプライチェーンの構造や柔軟性で競争優位を確保する時代になったと言える
でしょう。

サプライチェーンの構造や柔軟性を持つことは経営視点からの要請ですが、調達購買部門の取組みとして、考慮すべきことは何でしょうか。以前、私はサプライヤ供給力不足への対応について、1.在庫を持つ 2.マルチ化 3.サプライヤとの関係性づくり の3点を述べてきました。今回の「モノが買えない時代」において、調達購買部門は3つの重要性に気が付かされた年になったのです。

それは、計画の重要性/在庫の重要性/サプライヤとの関係性構築の重要性、この3つになります。

従来、調達部門はいくらで買う、にだけフォーカスしてきましたが、いくつ買う、については気にもしていませんでした。購入数量を計画し、それを提示し、確保する、極めて当たり前な話ですが、モノを買う上で、必要な計画機能が欠如していたのです。

次は在庫の重要性です。従来日本企業はJIT信仰が強く、在庫は悪と捉えていました。しかし、今般の「モノが買えない時代」においては、長期発注、先行発注などで将来の在庫をサプライヤにもってもらう、自社で在庫を保持するなどの必要性が出てきたのです。これも、極めて当たり前な話ですが、どれだけ在庫を計画的に持てばよいのか、検討〜決定する機能も欠如していました。

最後のサプライヤとの関係性構築の重要性、ですが、これは私が以前から述べ続けていることであり、一部の先進的企業においては、サプライヤマネジメントの導入として、進められ始めています。しかし、未だに双方向の取組みではなく、買う立場の上から目線の取組みに終わっている企業も少なくありません。

このように、3つの重要性に気が付いた調達購買部門が主導して、企業経営におけるサプライチェーンの重要性をマネジメントに理解させ、競争力強化につなげていく必要性がでてきたのが2022年だっとのではないでしょうか。

昨今のモノが買えない状況は、少しずつ緩和されるときが来るかもしれません。しかし、モノが買えないことを一時的な事象として捉えるのではなく、構造的な変化であることを理解し、具体的な対策に乗り出さなければ、その企業は競争力を失っていくでしょう。事業環境の変化に速やかに対応できるサプライチェーンを構築することが重要であり、サプライチェーン構造改革は待ったなしの状況なのです。