12月23日、全日本選手権男子SPの宇野昌磨

【自信はあるわけでも、ないわけでもない】

 12月23日、大阪。全日本選手権男子シングルのショートプログラム(SP)を滑り終わって、宇野昌磨がミックスゾーンに出てきた。

 すでに息は少しも乱れていなかった。いつものように腕を後ろに回し、静かに質疑応答を繰り返していた。

 テレビのインタビューから横にずれ、マイクを持ってペン記者たちとのやりとりになった時だ。

「自信をつける、つけないというところに僕はいなくて」

 自信について聞かれた時、宇野は興味深い答えを出していた。

「そんなに自信があるわけでもなく、ないわけでもない。練習で100%成功していても、試合で失敗することはあるし、試合だけうまくいく場合もあるので。ただ、練習よりは試合のほうが経験というか、レベルアップにつながる場だなとは思っています。より成長するにはどうすべきか。試合に真剣に向き合えるか、で」

 答えがないのが答えのなか、自分だけがそれをわかっていればいい、と宇野はならない。丁寧に説明を尽くすところに、彼の人間性はある。フィギュアスケートに対し、真摯なのだろう。

 そして、それこそが今やエースと言われる男の矜持なのかもしれない。

【光ったのは演技前・演技中の調整力】

 SPの演技前にリンクサイドに現れた宇野は、やや気負っていた。朝の公式練習も、6分間練習も、やや調子を落としていたのが影響していたのだろう。

 それを見透かしたステファン・ランビエルコーチに熱っぽく声をかけられると、彼は言葉ではなく、両手でサムアップをつくり「OKだよ」と答えていた。

「6分間練習を滑って、これまで練習してきたのと違う感じでした」

 宇野は心中をそう明かしている。

「でも焦るのではなくて、今どうすべきかを考えて、自分をコントロールできたと思います。スピードを出しすぎず、ゆっくり丁寧に滑ろうって。ジャンプの失敗は飛ぶ前に力が入っていたのが理由だったので。たぶん、ここはスピードが出ないリンクで、無理にスピード出そうとすると失敗するなって」

 短時間で機転を利かし、命取りになるような誤差を修正していた。

 冒頭の4回転フリップ、基礎点が11点と難易度の高いジャンプに出来ばえ(GOE)点3.14点もプラスし、完璧に降りている。

 2つ目に予定していた4回転+3回転連続トーループも、1本目の着氷で、2本目は無難に2回転にした。ダメージを最小限にしながら、着実にスコアを上積みした。3つ目のトリプルアクセルも盤石だった。

 演技中の調整力こそ、世界王者の懐の深さだろう。

 宇野は小さな問題を前にその都度、着地点を見つけていた。最後は『Gravity』の高まりに合わせたステップで、ツイズルでは前髪を振り乱し、クリムキンイーグルで観客を沸かし、バレエジャンプで色気を漂わせながら演じきった。真骨頂の表現力で、全身に拍手を浴びた。

「今どうしたらいいのか、ずっと考えていました」

 宇野はそう言って、自身の演技を振り返った。

「(4回転+3回転の連続トーループは、2本目が2回転になったが)コンビネーションはこれ以上、練習する余地はないと思っています。単発でもトーループはきれいに飛べていないので。まずは1本目降りてから、そこでつけられるものをつけようって」

 できなかったことに引きずられない。一方で、考えて滑ることが身についている。突然のコスチュームの変更も、熟慮の末だった。

「朝の練習で体が動かず、それにはさまざまな理由があるはずで。氷の感触が違うとか、衣装が動きにくいとか。複数あったので、そこでひとつでも選択肢を潰せるように、と考えました。使ったことのある衣装でどうなるか。結論から言えば、6分間練習の時点で、衣装が原因ではなかったんですが」

 つまり、変更は空振りした。しかし、彼にとっては考えて手を尽くすのが大事なのだ。

「自分はひとつの試合にかける思いが強く、そこまで深く思い詰めなくても、っていうくらいで。でも今まで何ひとつ投げ出さずにやってきたからこそ、この状況はこうなるなっていうのがわかってきて。それを生かせたショートだったと思います。最近は失敗が経験になるのもわかってきて、スケートを苦しくなく、楽しくやれていますね」

【全日本制覇に向け独走】

 SPで宇野はISU(国際スケート連盟)非公認ながら今シーズン最高の100.45点をたたき出し、首位に立っている。2位以下を10点以上も引き離し、もはや独走に近い。

 演技直後は悔しさもにじませていたが、リンクサイドでランビエルに抱きしめられると、ようやく達成感に浸った。

「今できる最大限ができたかなって」

 宇野は言う。まだスコアを伸ばす余地も捨てていない。

「(最後の)シットスピンはずっとレベル3だったので、レベル4をとれるように滑って。途中までは(回転数を)数えられていたんですが、間違えてしまって。(少し悔しそうだったのは)すいませんって気持ちで」

 2022年、宇野は世界王者からグランプリ(GP)シリーズで2連勝し、GPファイナル王者にも輝いている。自分以上の敵はいない。彼はそこまでたどり着いた。

 12月25日、フリースケーティング。宇野は『G線上のアリア』で最終滑走となる。全日本という祭典を飾る大トリだ。