トランプ前大統領は本当にオワコンなのか(写真:Eva Marie Uzcategui/Bloomberg)

グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。新自由主義改革がもたらした経済格差の拡大、政治的な国民の分断、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーの暴走である。

アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、このたび邦訳された『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』で、各国でグローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している。

私たちはこの状況をいかに読み解くべきか。アメリカの保守思想に詳しい会田弘継氏が『新しい階級闘争』をもとに解説する。

ポピュリズムは「症状」にすぎない

11月のアメリカ中間選挙ではトランプ前大統領が前面に出た共和党は振るわず、前大統領は「オワコンか」との見方がもっぱらだ。果たしてそうだろうか。


このたび上梓されたマイケル・リンド著『新しい階級闘争』は、欧米を席捲するポピュリズムの背景について再考を促し、社会の分断を乗り越える道筋を示す論争的な書だ。

トランプ前大統領の登場や、英国のEU離脱は、経済グローバル化で苦境に追い込まれた労働者階級が右派に扇動されて起きた反乱であり、欧米社会の左右の激しい分断を象徴するといわれてきた。

著者は、そうした単純な見方を否定する。トランプら煽動者によって引き起こされたポピュリズムは「症状」にすぎず、その原因となった「病気」に目を向けるよう促す。その病気とは「テクノクラート新自由主義」だ。

耳慣れない言葉である。冷戦後の欧米社会は、この思想に基づくエリート集団の支配階級と、彼らに支配される労働者階級に分断されている。数に優る労働者階級には宗教、地域、人種、民族などでさまざまな亀裂があり、政治的に分裂している。最大の亀裂は古くからの住民と新たな移民による、仕事と公共サービスの奪い合いだ、という。

大量に流入する合法・違法の移民は、支配階級が低賃金で利用するのに好都合だ。旧住民は彼らに対峙させられる。エリートによる分断統治である。反発すれば、エリート側にいるメディア権力によって「排外主義者」のレッテルを貼られる。移民問題などアメリカで左右対立とみられる事象は、主流メディアも含む支配階級が上下の分断を覆い隠す偽装ではないか、という主張には大いに肯ける面がある。

元トロツキストの保守思想家が予言していた

本書が描く、新自由主義によるテクノクラート支配の世界構造出現を1940年代から予言していたのは、著者も言及する元トロツキストの保守思想家ジェームズ・バーナム(1905〜87年)だ。トランプ現象以降、偽装的な左右対立を超えて問題解決に取り組もうとする著者のような知識人によって、バーナムが見直されている。

本書によれば、テクノクラート新自由主義による「上からの革命」が起きたのは、先進国の産業構造が大きく変わりだした70年代からだ。新自由主義と、それに反発して起きたポピュリズムを乗り越える道は、それ以前の先進国資本主義が戦時体制などを経てつくりあげた「民主的多元主義」だと著者は主張する。

労働組合を再興し、宗教団体や市民団体などとともに政策決定の仕組みに参加させる。一種の共同体主義と読める。新自由主義を個人主義のいきすぎた形態とみれば、共同体主義の主張が伸張してくるのは当然かもしれない。

(会田 弘継 : 関西大学客員教授、ジャーナリスト)