APS-Cミラーレスカメラの新製品を矢継ぎ早に投入している富士フイルム。11月2日には、伝統の操作スタイルを継承しつつボディの軽量化や装備の充実を図った「X-T5」を発表しましたが、9月上旬には動画撮影性能を重視したフラッグシップモデル「X-H2」も発表しており、Xシリーズのファンはどちらを買うか頭を悩ませていることでしょう。すでに購入した人からの評価が高く、早くも強い品薄になっているX-H2の特徴を、歴代のXシリーズを愛用してきた大浦カメラマンに改めてチェックしてもらいました。

APS-Cフォーマットのカメラのなかで初めてオーバー4000万画素を達成した富士フイルムの「X-H2」。Xシリーズのフラッグシップにふさわしい機能とつくりが魅力のミラーレスです。ボディ単体モデルの実売価格は29万円前後ですが、現在多くの量販店では約3カ月の納期待ちとなっています

4000万画素に高画素化されたが、高感度性能に不満なし

“X-H”と名の付くカメラは、富士Xシリーズのなかでもトップエンドに位置付けされるミラーレスです。初号モデルである先代「X-H1」は、富士Xシリーズとして初めてボディ内手ブレ補正機構を備え、2018年3月に発売されました。それまでのXシリーズと異なり、アナログ表示のシャッターダイヤルはなく、代わりにトップカバーには液晶ディスプレイを配置。大きく張り出したグリップ上には、レリーズネジ穴のないシャッターボタンを置くなど今風となり、私たちを驚かせたことは記憶に新しいところです。

先般9月に発売された「X-H2」はX-H1の後継モデルとなります。ちなみに、X-H2シリーズには2,400万画素のイメージセンサーを積み、電子シャッターによる高速撮影と4K/60fpsでの動画撮影が可能な兄弟モデル「X-H2S」が7月に先行して発売されています。

X-H2の注目は、やはりAPS-Cフォーマットでありながら有効4,000万画素の「X-Trans CMOS 5 HRセンサー」となるでしょう。フルサイズではいまや4,000万画素機は珍しくもないですが、その1/2.3の面積しかないAPS-Cフォーマットとしては、この画素数は驚異的。特に、画素ピッチの狭さから来る写りへの影響、階調再現性や高感度特性などが気になります。

X-H2を正面から見た様子。ボディシェイプは先代X-H1のイメージを残しながらも、より洗練されたものとしています

背面から見た様子。フォーカスレバーがこれまでよりも高い位置に置かれていることがよく分かります。液晶モニターは3インチですが、これ以上大きなモニターの搭載は厳しそうです

しかしながら、スペックを見る限りそのことに抜かりなどありません。特に、裏面照射積層型の採用は大いに期待を抱かせるものです。ちなみに裏面照射積層型とは、構造的には光を取り入れるマイクロレンズから光を読み込むフォトダイオードまでの間に配線層を置かないため集光効率が極めてよく、さらにそれまでフォトダイオードの周囲に置いていた回路をフォトダイオードの下部に配置することで、より多画素化を可能としているものです。つまり4,000万画素を達成できたのは、この裏面照射積層型のイメージセンサーでなければ難しかったと述べてよいでしょう。さらに熟成を重ねた画像処理エンジン「X-Processor 5」の搭載もあり、写りは大いに期待できそうです。

気になる結果はというと、2,400万画素のXシリーズ機と写りが異なるようなことなどありませんでした。むしろ、画素数が増えたことで先鋭度が増したように思えるほどです。もちろん、階調再現性もXシリーズのフラグシップにふさわしいもの。画素数の増大による画質の低下は杞憂で、今後Xシリーズのデファクトスタンダード的な位置付けの絵づくり、と述べてよいものです。

高感度の特性についても同様で、最高感度のISO12800でも使用をためらう必要はありません。ノイズリダクションはデフォルトの標準でもカラーノイズ、輝度ノイズともよく抑えており、色の破綻やにじみなど皆無。作例の撮影で夕方のスポーツシーンを最高感度で写す機会があったのですが、撮影条件を考えれば文句のつけ難い結果が得られました。なお、作例も含む詳細につきましては、次回画像編でご紹介いたします。

被写体検出AFは追従性能も満足

撮影コマ速については、まずメカシャッターでの最高コマ速は15コマ/秒。これは有効2,616万画素のX-H2Sと同じです。電子シャッターの場合、X-H2Sはアンクロップ、40コマ/秒であるのに対し、X-H2は1.29倍クロップで、最高20コマ/秒と、おそらく画素数の影響を受けたものとなります。最高シャッター速度については、メカシャッターで1/8,000秒、電子シャッターで1/180,000秒となります。特に電子シャッターは、屋外晴天で明るいレンズを開放絞りで撮影したいときなど重宝しそう。しかも、連続撮影のときにはブラックアウトすることがなく、動く被写体を追うのも容易。電子シャッターに付きもののローリングシャッター現象については、撮り方によって目につくことがあります。風景やポートレートなど動きのない、あるいは動きの小さな被写体では気になることはありませんが、スポーツなど動きものの撮影では注意が必要です。





多彩なシャッター方式が選べるのもX-H2の特徴です。メカニカルシャッターの最高速は1/8000秒、電子シャッターは1/180,000秒となります。デフォルトは「MSメカニカルシャッター」となります

なお、メカシャッターのシャッター音は、先代「X-H1」と同様に静かで落ち着いた感じのもの。それは、一枚撮影でも連続撮影でも変わることがありません。ちょっと賑やかな場所でのポートレート撮影では、モデルに音が聞こえず、シャッターとポージングのタイミングがずれてしまうこともあるように思えるほどです。好みはあるかと思いますが、筆者個人としてはフラグシップに相応しいシャッター音であるように思えます。

また、先ほど感度の話を出しましたが、ベース感度はこれまでのISO160から、本モデルではISO125となり、少しでも絞りを開いて撮影したいときなど有利になっています。拡張モードも低感度側ではISO64相当、ISO80相当、ISO100相当が選べ、高感度側ではISO25600相当とISO51200相当が選択できます。手ブレ補正もアルゴリズムの最適化が図られ、最高7段の補正効果を達成。いうまでもなく強力な5軸対応となります。Xシリーズのレンズ群は単焦点レンズが充実しているのが特徴ですが、手ブレ補正が搭載されていないものも多いので、とてもありがたく感じられるところです。

最高感度はISO12800。ノイズの発生はよく抑えられ、画像の破綻も見受けられません。拡張での最高感度はISO51200相当となります

手ブレ補正機構を応用し、イメージセンサーを高精度にシフトさせて本来の画素数よりもさらに大きな画素数の画像が得られるピクセルシフトショット機能を搭載しているのも興味あるところ。他社では以前から採用していた機能で、Xシリーズではようやくといってよいものです。ただし、カメラ内での処理には対応していませんので、撮影したRAW画像を「FUJIFILM Pixel Shift Combiner」をインストールしたパソコンで処理を行う必要があります。なお、ホームページや取説には記載されていないのですが、ピクセルシフトショット機能を使用した撮影では、三脚は必要のように思えます。

AFでは、X-H2Sにも搭載されていますが、被写体検出AF設定が目新しく思えるところ。動物/鳥/クルマ/バイク&自転車/飛行機/電車から選択が可能です。クルマや航空機、電車で試したみたところ、精度も高く実用的。撮影者は、AFをカメラ任せにして、シャッタータイミングに集中できそうです。上位モデルのAFは違うなと思えたのが、AF-Cモードで連続撮影を行った際の被写体への喰い付き。普段、私の息子のサッカーを「X-E4」で撮影することが多いのですが、撮影中に被写体の捕捉ができなくなり、デフォーカスになってしまうことがよくあります。本モデルでは、そのようなことがなく、安心して撮影に集中できるのもありがたく思えました。

被写体検出AFでは、動物/鳥/クルマ/バイク&自転車/飛行機/電車から選択できます。精度も高く、AFをカメラ任せで撮影が楽しめます

操作デバイスなど細かな改良も

動画機能についても少し触れておきましょう。記録方式はMOVとMP4から。記録画素数は8Kの場合最高30コマでの記録が、4Kでは最高60コマでの記録が可能で、いずれもビットレートは720Mbpsとしています。8K撮影で問題となるのが、キーデバイスなどから発せられる熱の問題。長時間の撮影など状況によっては、カメラがハングアップして撮影が止まってしまうことが多々あります。X-H2はX-H2Sと同様に放熱構造の採用に加え、別売の冷却ファン「FAN-001」の装着が可能。それでも完全に熱を抑えることは難しいようですが、8Kで撮影することの多いユーザーなど気にしておくとよいでしょう。なお、記録媒体は、X-H2Sと同じくCFexpress(Type B)カードとSD/SDHC/SDXCメモリーカードのダブルとなります。

カードスロットはSD/SDHC/SDXCとCFexpressのダブル。カメラのシリアルNo.もこの位置としています

インターフェースは、左上より時計周りに、HDMI Type A端子、φ3.5mmステレオミニジャック(マイク用)、φ3.5mmステレオミニジャック(ヘッドホン用)、USB Type-C端子となります

液晶モニターを引き起こしたあとのカメラ背面部には、冷却ファン「FAN-001」のためのネジ穴と接点を備えます。冷却ファンは、8K動画撮影などで高温になるキーデバイスなどの冷却を行うものです

冷却ファン「FAN-001」を装着した際の設定もメニューに備えています。8K撮影や、4Kでの長時間撮影の多いユーザーは覚えておきたい機能です

操作性での注目点は、まずフォーカスレバーの位置と大きさとなります。先代モデルのフォーカスレバーの指の当たる部分は表面積が小さく、長時間の操作などあまり適してないように思えるものでした。X-H2では、指の当たる部分の表面積が広がるとともに、設置位置がこれまでよりもトップカバー近くに。右手親指が自然に置け、さらに長時間の操作でもさほど指が痛くならないように考えられています。また、AF-ONボタンを使う人にも親指の位置移動が少なくて済み、より快適な操作感が得られるように思えます。今後、他のXシリーズでも同じ形状のフォーカスレバーの採用や設置位置となるのではないでしょうか。

カメラ背面の主要操作部。フォーカスレバーがこれまでよりも高い位置に置かれるとともに、指の当たる部分が中判デジタルのGFシリーズと同様に面積の広いものとなりました

液晶モニターは3.0型162万ドットのバリアングル式を採用。EVFは0.5型有機ELの576万ドットと、高解像のものを搭載しています

プロ機の証のひとつともいうべきシンクロターミナルを備えています。大型ストロボの使用などトランスミッターを用いるのが一般的であるため、使用頻度は少ないものと思えますが、それでもうれしい仕様です

バッテリーはX-T4と共通のリチウムイオン充電池「NP-W235」を採用。フル充電からの持ちは、ノーマルモードで約540カット、エコノミーモードで約680カットの撮影を可能としています

もうひとつは、モードダイヤルのカスタムモード。ダイヤルを見ると、7つもあるのにはちょっと驚かされます。被写体や撮影シーンなどに応じて設定を登録しておくと、素早くカメラの機能が撮影体制になることはいうまでもありませんが、どのカスタムモードに登録したか忘れてしまうこともありそうです。もちろん、積極的に活用したい機能といえます。メニューの表示については、ほかのXシリーズと基本的には同じですので、同シリーズのユーザーであれば迷うことはないはずです。

X-H2唯一のアナログ表示のダイヤルであるモードダイヤルは、トップカバーの左に設置。カスタムモードがずらりと7つ並びます。設定したカスタムをどのモードに入れたか迷ってしまうこともありそうです

シャッターボタン側のトップカバーには液晶ディスプレイとボタン類が並びます。ストラップは、X-H1ではリングを介してカメラに装着するタイプでしたが、X-H2ではカメラに備わるストラップ穴に直接装着するタイプとなりました

富士フイルムでは“サブ液晶モニター”と呼ぶトップカバーの液晶ディスプレイ。シャッター速度と絞り値の表示がひときわ大きく、視認性は極めてよいように思えます

最後に、気になったところをひとつ挙げておきます。連続撮影後など、バッファからメモリーカードへ書き込みしている最中に再生ボタンを押すと、画像を再生しないばかりか、バッファがクリアになるまで(タリーランプが消えるまで)撮影できなくなってしまうのはちょっと残念に思える部分。作例の撮影でも、シャッターが切れず目の前のシャッターチャンスを見逃してしまうことも何度かありました。撮影した画像をすぐに見たいと思う私のせっかちなところからそうなってしまうのも要因なのですが、ぜひとも早急な改善を望みたいところです。

Xシリーズのフラグシップにふさわしい進化を遂げたX-H2。ミラーレスとして現時点では不足を感じる機能は見受けられず、スペック的にはきわめて完成度の高いモデルに思われます。フルサイズでないことをためらう向きもあるかもしれませんが、その写りは遜色ないもので、むしろ絵づくりの巧みさはフルサイズのカメラをしのぐといっても過言ではありません。しかも、レンズを含めボディサイズの小型軽量化に寄与していることも見逃せません。X-H2は使い込んでみたい、そう思わせるカメラに思えました。次回は、画像編と称し実際の写りを見ていきたいと思いますので、お楽しみに。

HEIF(ヒーフ)での記録が可能になったこともX-H2の注目点のひとつです。JPEGよりもさらに小さいファイルサイズで保存でき、RGBそれぞれ10bitの階調表現にも対応します。HEIFの採用は、カメラメーカーではキヤノンとソニーに続くものとなります

著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら