今後の活動について自身のYouTubeで語る鈴木優

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◆ 猛牛ストーリー【第42回:鈴木優】

 リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一も成し遂げたオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第42回は、都立雪谷高校3年夏の東東京大会・準々決勝で関東一高に敗れるも、「都立の星」と注目を集めて2015年にドラフト9位で入団した鈴木優さん(25)です。

 2020年には、都立高から直接プロ入りした投手として初めての白星をマーク。2021年オフに自由契約となり、巨人に育成選手として入団しましたが、今年10月に戦力外通告。11月4日に自身のYouTubeチャンネルで現役引退を公表しました。

 来春からは米国に移住して英語を学ぶとともに、将来野球に携わる仕事をするため、メジャーリーグやマイナーリーグを回りながら英語も勉強する予定です。

◆ 「やり切りましたので悔いはありません」

 10月3日に巨人を退団してから1カ月。鈴木は新たなチャレンジを、開設したばかりのYouTubeチャンネル「SuzuQtube」で立て続けに公表した。

 4日に「都立雪谷高校を卒業して、7年間オリックスに、今年1年間は読売ジャイアンツにお世話になりました。満足いくシーズンではなかったが、全力で練習をしてその場その場でベストと思えることをやって来ました。支配下は勝ち取れず一軍で投げることは出来ませんでしたが、後悔なくやり切ったといえます」と現役引退を報告するとともに、「新たなことにチャレンジすることが好きなので、今後もいろんなことに挑戦していきたいと思います」と予告。

 翌5日には「アメリカで生活することと英語を覚えることは、僕のかねてからの夢でした」と、米国への移住と語学留学を電撃発表してファンを驚かせた。

 2度目の戦力外通告を受けて、自身のTwitterにはファンから現役続行を応援する声も届いた。

 しかし、「この1年が勝負」と臨んだ今季。支配下選手登録期限の7月末を過ぎて、「練習などで手を抜くことはありませんでしたが、(現役引退の)気持ちはすでに固まっていました」という。

 「YouTubeでも話しましたが、この1年、やり切りましたので悔いはありません。今までオリックスしか知りませんでしたが、練習方針も含めて全く違う球団を経験出来て、いろいろな面で勉強になりました」と、巨人での1年を感謝する。

◆ 古巣の日本一は「素直にうれしかった」

 古巣のオリックスは今季26年ぶりの日本一を達成したが、日本シリーズの初戦(神宮)と5戦目(京セラドーム大阪)は妻の美里さんと観戦。同期入団の山粼福也や宗佑磨、佐野皓大、西野真弘、小田裕也の活躍を見届けた。

 チケットは球団関係者らに手配をしてもらって購入。京セラでは一塁側オリックスベンチの左上最前列の席で観戦していたため、サヨナラ本塁打を放ってヒーローインタビューを受けた吉田正尚が気付いたという。

 「7年間お世話になって、選手はもちろん裏方さんらは半分家族のようなもの。チームは離れたけれど応援したくなります。初めて京セラの観客席から野球を見ましたが、勝ってうれしいし、めっちゃ応援しますし、それはファンの人と同じです。戦力外になった恨みとかは全くありません。自分が結果を残せばよかっただけなので」

 劣勢から4連勝でつかんだ日本一。「(山本)由伸で初戦を落とし、由伸がその後投げられなくなった中で、比嘉(幹貴)さんや平野(佳寿)さんのほか、阿部(翔太)さんや(山粼)颯一郎、宇田川(優希)ら中継ぎ投手陣が頑張ってくれました。宇田川とは1年一緒にやりましたが、こんなに短期間に1軍の戦力になるなんて信じられませんでした。相当頑張ったのでしょうね」と、ブルペン陣や急成長の宇田川を称えた。

 「うらやましいというより、素直にうれしかったですね。『そんなことでは、プロとしてはダメだ』と言われるかもしれませんが。優勝パレードはうらやましいと思いますが、日本シリーズのマウンドで投げている選手はすごいと思いました」

 鈴木の優しさと、プロとしてのリスペクトが、そう言わせるのだろう。

◆ 新たな挑戦にワクワク「なんでも見てやろうと」

 YouTubeは、2週間に1回程度のペースで更新する。私生活の近況報告や京セラで熱狂する姿を配信するほか、視聴者の質問などにも答えていく予定。

 「プロ野球出身者のYouTubeは多くありますが、現役時代に活躍されていた方がほとんどです。都立高校からドラフト9位で入団し、一軍で通用するレベルではありませんでしたが、6年間かけて初勝利を挙げることが出来た僕だからこそ、話せることがあると思います」と鈴木。

 努力の人だ。1年目のキャンプのブルペンで見た当時のエース・金子千尋や西勇輝に、レベルの違いを実感した。

 1年目から二軍で30試合に登板したが、0勝1敗で防御率5.30。「このままでは、一軍で抑えられるイメージがわかない」と、1年ごとに課題を克服する道を選んだ。

 「投げなくては覚えない」と、連日80球を投げ込んだこともあった。球速は150キロを超え、変化球を覚えて制球力も身につけた。

 そして迎えた2020年7月1日の西武戦。プロ2度目の先発で、5回を被安打0、7奪三振で無失点に抑え、その後に味方打線が援護。プロ初勝利を挙げ、チームの連敗も7で止めた。

 「地道に練習をして、少しずつ課題を克服して来た集大成でした。入団時にはかなわなかったレベルでしたが、6年でかなえることが出来ました」

 毎年、プロの世界で活躍する姿を夢見て入団する選手たちだが、そのレベルに達することなく姿を消していく選手が圧倒的に多い厳しい世界。初勝利を挙げることが出来た鈴木も、2勝目はつかむことができなかった。

 「好投しても勝ち投手になれるとは限りません。逆に調子が悪くても勝てることもあります。勝ち星を目標にするよりも、自分の出来る範囲のことに集中することが大事なんです」

 実体験を基にした話は、夢や目標を目指す若者や社会人の参考になることだろう。

 渡米は来年4月頃を計画。2年間の予定で、ロサンゼルスを拠点に語学学校で英語を学ぶ一方、メジャーリーグやマイナーリーグの舞台裏やトレーニング施設など、日本ではあまり知られていない現場を訪ねてYouTubeで紹介するつもりだ。

 「何が出来るか、まだわかりませんが、なんでも見てやろうと思っています。機会があれば、球団経営やエージェントの仕組みなども勉強出来るかもしれません」

 いつも前向き。「とらえ方は自分次第なので、常にポジティブですね。将来は母校(雪谷高)の監督もやってみたいですね」。

 新たな挑戦についても、「僕も妻も新しいことにチャレンジすることが好き。ワクワクしています。そんなワクワク感も動画でお届けしたいと思っています」という。

 球界に違った形で貢献する姿が、今から楽しみだ。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

【動画】海外進出?鈴木優が自ら語った「今後について」