「勝手に触られた」とセクハラ扱いされるケースも、女性へのAED「リスク」論が浸透する背景
今年6月、目の前で倒れた女性にAEDの使用を試みようとした男性のツイートが話題となった。結果的にはAEDによる治療は不要だったとのことだが、女性はその後、自身のSNSで「危うくAEDをやられそうになった」という内容を投稿したそうで、それを読んだ男性がTwitterで不満を唱えたのだ。
【画像】女性「危うくAEDやられそうになった」に“辛辣”な意見が寄せられたまとめサイト
心停止など一刻をあらそう状況のなか、AEDを使うにあたって治療対象者の許可を得る余裕はほとんどないだろう。だが男性が女性にAEDをおこなった際、のちに「勝手に触られた」とセクハラや痴漢の疑いをかけられる場合があることから、無許可の使用をためらう男性が多いという。前述した6月のケースも、もしAEDを使っていた場合、クレームに発展する可能性があったのではないか。
AED使用で訴えられる可能性も
ニュース番組『ABEMA TIMES』の調べによると、「日本AED財団によれば、倒れる瞬間が目撃された心停止のうち、AED(自動体外式除細動器)が使われたのはわずか4.2%に留まっている」という。たしかに、面倒に巻き込まれることで自分の仕事や家庭にまで影響を及ぼすかもしれないと考えると、躊躇するのも無理もない。
『ABEMA TIMES』のなかでも平石直之アナウンサー(テレビ朝日)が、「本当に言いにくいことだが、人の命を救うための行動である一方、セクハラや痴漢の疑いを持たれた時点で逆に社会的な命を絶たれてしまうリスクがあることも理解して欲しい」と語った。
またセクハラなどで訴えられた際、有罪となる可能性は低いとしながら、しかし民事では訴えられる可能性はあるという。反論をしっかりすれば賠償命令は下らないが、欠席裁判になってしまうと自動的に賠償責任が生じる。つまり、訴えられた場合は必ず時間を費やして事態と向き合わなければならないのだ。もちろんそれらの弁護士費用はかかってしまう。
そしてなにより、インターネット上などでこういった情報が自分の手の及ばぬところまで拡散される可能性が十分あり得る。たしかに救命現場でも、そこでの自分の行動であったり、うろたえている様子だったりを撮られてSNSなどで発信されるかもしれない…と考えると腰が引ける。善意でやったことがすべてひっくり返り、社会的なダメージを負ってしまうこともあるのだ。
そうなると結局、見て見ぬフリが「妥当」と思ってしまう人も一定数いるのではないか。実際、ネット上の掲示板などでは、男性側から女性へのAEDの使用についてこのような声も出ている。
「もう女さんが助けてあげたらええやろ」
「女性とか関係なく、AED使って火傷とかの傷が残ることをしてしまったら使った側の責任になるの?」
「とにかく、真っ当な第三者が居る状況じゃなきゃ絶対触りたくないな 裁判になったらその時点で終わりやし」
「むしろ服の中に手を突っ込んでゴソゴソモゾモゾやってる方が痴漢に見えるまである」
「女性」へは「女性」がAEDを使用するべき?
男性が女性にAEDを使用する際のネガティブな印象が拭えない以上、意識を変えるのはかなり時間がかかると思われる。たとえ緊急事態であっても、近くに女性がいればかわりにお願いしたいというのが男性側の本音ではないか。また、この問題には、ネット社会以降にあらわになった、“生きづらい男性”側からの女性、あるいは世の中への不満、そしてそれが引き起こす“ネット上での男女の対立”という背景もあるように思える。
もちろん、さまざまな “誤解”の背景にはいろんな問題がある。
まずは、AEDの正しい使用方法が認知されていないことにつながっていないこと。2019年5月31日放送『未来スイッチ』(NHK)では、「2枚のパッドを素肌に貼る際に下着などを外さず、ずらす形で対応できるほか、パッドを装着後も衣服をかけるなどし、また周囲と連携して人垣を作ることで治療対象者を隠すなどの配慮ができる」と報道された。
それらの注意事項を踏まえていれば、トラブルになりづらいというのだ。ただ、命にかかわるときにどこまで配慮ができるだろうか。ネット上では結局、そうやって気をつかうことについて「めんどうくさい」という声もあり、またどちらにせよ素肌に触れる必要があることから「(男性側は)リスクがある」との意見も見られた。
あと根底として、男性がこれまでさまざまな状況で女性に対してハラスメントをおこなってきたという現実があることも忘れてはならない。男性への不信感の蓄積が、こういった問題に起因しているように思える。
AEDに限らず、男性が女性をサポートする場面というのは多々あるはず(もちろん逆も然り)。そういった風潮が、ネット上の“男女対立”で妨げられてしまうのは不幸なことだ。男女がお互いに意識のアップデートを積極的におこない、また知識を広げていかない以上、この問題はますます深刻化するのではないだろうか。