新たなビジネスの可能性「トークンエコノミー」/INSIGHT NOW! 編集部
Jリーグがさきがけ
有名になったきっかけは、なんといってもJリーグの湘南ベルマーレだろう。湘南ベルマーレは、「湘南ベルマーレトークン」と名付けられたトークンをサポーターやファンに販売して、資金調達とクラブチームとファンとのコミュニケーションに生かすというものだ。
また、同じJリーグのアビスパ福岡も「アビスパ福岡クラブトークン」の発売を行った。初回のトークン発売では、944万円を集めたという。担当者が語るには、収益はもちろんのこと、ファンとのコミュニケーション、運営にあたっての様々なアイデアを得ることに役立っているという。
ファンやサポーターは、トークンを保有することで、クラブチームの企画や投票、限定イベントや限定グッズなどへの応募、参加が可能になり、ケースによってはクラブに対して意見を言うことも可能になるようだ。
つまり、ファンはこれまでよりも一層踏み込んだ応援のかたち、サポートのやり方が可能になる。
そもそも、トークンとは、「しるし」「象徴」「記念品」「証拠品」を指す言葉というが、ビジネスで活用する場合には、「使える場所や対象が限られている代用貨幣」「1回だけ使える認証権限」というように考えればよいらしい。そういえば、ネット銀行の振込決済をするときに、1回だけのパスワードを発行する端末もトークンと呼ばれていたので、1回だけの認証権限というのは、その通りの意味だ。
トークンの発行を支える技術は、はやりの「ブロックチェーン」で、これによって信頼性やセキュリティが保たれ、「仮想通貨」としての機能も持つことができる。トークンは、ポイントのように購入・保有することができ、取引の状況に応じて、価格が変動することもある。
大きな可能性を持つ「トークンエコノミー」
このトークンを、法定通貨や仮想通貨ではなく、交換できる場や対象を限定した小さな経済圏をつくることを目的にしたのが、「トークンエコノミー」と呼ばれている新しいビジネスの場だ。
トークンエコノミーの世界では、事業者が独自のトークンを発行することができる。トークンを活用して資金を集めるのもよし、マーケティングの一環としてファンとのコミュニケーション強化に活用するのもよし。ユーザーの声を丹念に集めて商品開発に生かすことも考えられる。そして、そのトークンを利用する人が増えるほど、「トークンエコノミー」は大きくなっていく。つまり、うまく設計・構築・運用することができれば、新たなビジネス展開が期待できるということになる。
前述したJリーグ以外でも、様々な活用方法があるだろう。たとえばその地域の活性化を狙い、限定の商店街だけで使える「プレミアムつき商品券」を自治体か商店街でトークンを発行するケースで考えてみよう。消費者が「プレミアムつき商品券」を購入すれば、当然プレミアム分の得な買い物をすることができる。商品券の交換や譲渡が可能なら、使いたい人が使うことができ、企画次第だが、結果的にプレミアム以上の結果になることもあるだろう。電子決済の普及にも一役買うかもしれない。さらに、そのトークンには、商店街のイベント企画への参加権やプレゼント応募、さらには1日店長権など、様々な企画を練りこめば、商店街の活性化に貢献する可能性もある。
Webサイトの活性化にも大きな効果がありそうだ。企業は、あの手この手を使って商品レビューやコメントを欲しがり、様々な仕掛けを行っている。ユーザーに報酬を提供するためには、これまではクオカードなどの金券をプレゼントするなどの方法を取らざるを得なかったが、コメントに対してトークンを付与したり、そのコメントに「いいね」した人にもトークンによってメリットがあるような仕組みをつくったりすれば、波及効果もありそうだ。また、NFT(Non-Fungible Token)によって、新たなデジタルコンテンツの販売というビジネスチャンスも広がるかもしれない。
技術的な背景は置いておくとして、これまでなかなか価格転嫁しにくかったこと、プロスポーツであればチームへ直接意見が言える機会や選手と会話できる機会、WebサイトであればコメントやQ&Aへの参加などにトークンという新たな価値を提供できれば、これまでとは異なるマーケティング施策が可能になりそうだ。
また、トークンエコノミーでは、株式をデジタルトークンとして発行することによって、資金調達も可能になるという。株の発行など、小規模事業者にはほとんどできない芸当だったが、起業だけではなく個人でもやろうと思えばできる仕組みであり、起業や事業拡大がしやすくなるのは間違いないだろう。さらに、株と違い第三者が介在しないため、余計な手数料もかからない。
オープンソースの利用も可能
GMOインターネットは、「地域トークン」を発行するための仕組み「GMOオープンソースブロックチェーン」を提供している。この仕組みを使えば、自治体や商店街などの加盟店がポイントを発行し、地元の消費者は地域通貨のように使えるという。
オープンソースとして提供されているので、活用する側はゼロから開発する必要もなく、多少分かる人がいれば活用することは十分に可能だろう。
現状は、紹介したような「限られた場」でしか活用されていないのが実態だが、多くの可能性を持つ、この「トークンエコノミー」。
第三者の介入も不要、通貨としての活用もでき、対象商品やサービスはこれまで価格転嫁できなかったものにもできるなど、メリットは多い。
今後、ぜひ注目していきたいものだ。