組織を強くしたい思いは大切ですが、「勘違いリーダー」になってしまっていませんか?(写真:アン・デオール/PIXTA)

目には見えない「カルチャー」という資産をいかに豊かで魅力的なものにできるかが、日本企業の未来を決めると言っても過言ではない。そのためには、カルチャーを経営のど真ん中に据えなければならない――。
『現場力を鍛える』『見える化』など数多くの著作があり、経営コンサルタントとして100社を超える経営に関与してきた遠藤功氏は、「私たちがいまコントロールできることは、経営者と社員が一丸となり、健全で良質なカルチャーを手に入れることである」という。
このたび、組織の「土壌」である「カルチャー」を真正面から解説し、「組織を変える」「組織を劇的に強くする」方法を1冊にまとめた『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える 「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』が発売され、発売後たちまち大増刷するなど、話題を呼んでいる。
その遠藤氏が「組織を強くしたい「勘違いリーダー」が陥りがちな4大NG」について解説する。

健全な「カルチャー」を現場からつくり上げていく

大企業で相次ぐ不祥事、技術開発力が後退したことによる国際競争力の低下、労働生産性の低迷など、いま日本企業が置かれた状況は深刻である。

組織の活力が失われ、「活気」「熱気」「やる気」というものが消え失せてしまっている。私はこのような状態を「活力枯渇病」と呼び、日本の組織に蔓延する「活力枯渇病」、5つの症状で、その具体的な症状を紹介した。


組織が「活力枯渇病」という重篤な病から脱却し、競争力を回復するには、現場力を再強化し、現場起点で活力を取り戻すしかない。

私はここ数年、いくつかの会社で、時に経営顧問として、時に社外取締役として「現場からのカルチャー変革」に自ら関わり、立ち会ってきた。

カルチャーとは、たとえて言うなら、組織の「土壌」である。健全で良質な「土壌」があってこそ、組織で働く人たちの能力(ケイパビリティ)が育ち、十分に発揮される

それぞれの業界や規模などは異なるが、その基本的な変革コンセプトは一緒である。それは「健全なカルチャーは誰かから与えられるものではなく、自分たちでつくり上げていくものである」という信念である。

「現場からのカルチャー改革」には、経営トップやリーダーの旗振りが必要不可欠だ。現場が自ら動き出すような「お膳だて」は経営トップやリーダーにしかできない。

ただし、やみくもに奔走するのではなく、正しい認識と見通しが必要である。本記事では、「組織を強くしたい」「職場を元気にしたい」という思いはあるもののアプローチの仕方を間違えてしまう「ありがちな失敗例」を4つ紹介しよう。

「カルチャー変革」はトップダウンである。「なんとしてもカルチャーを変えるのだ」という経営トップの強い意志と覚悟、コミットメントがなければ絶対に成功しない。

【NG1】トップのひとりよがりで進める

しかし、だからといって、トップのひとりよがりに陥ってしまってはいけない。最も重要な経営トップの仕事は、「良質なカルチャー」を醸成することなのである。

「カルチャー変革」はトップダウンでスタートするが、その実行は現場主導のボトムアップである。いくら経営トップが「意識を変えろ」「カルチャーを変えろ」と叫んだところで、社員一人ひとりが意識を変え、考え方を変え、行動を変えなければ、何も変わらない

だから、カルチャー変革の「草の根運動」を泥臭く、現場から仕掛けなければならない。これはとてつもなく面倒くさいプロセスであり、手間がかかる。

「点―線―面」へと広げる段階的アプローチが重要

【NG2】組織をいっきに変えようとする

「現場からのカルチャー変革」といっても、最初から会社全体を対象にカルチャー変革を仕掛けるのは現実的ではない

組織全体のカルチャーを変革するためには、まずは「点」をつくり、「線」を結び、「面」へと広げていくことが有効である。

私が「カルチャー改革」に携わった大手住宅メーカーでは、はじめに2支店でパイロット展開をおこない、水平展開では新たに8支店が加わった。

最初に2支店にフォーカスし、「起点」をつくったからこそ横展開が可能となり、組織全体としての大きな成功につながったのである。

ここで私がこだわったのは「足元からの改革」だ。後述するように、「現場からのカルチャー改革」のために最も重要な取り組みである。

どんな小さなことでも課題を見つけ、解決に取り組むことで「変化は自分たちで生み出すもの」という意識が支店内に芽生えてきた。

足元の問題を自ら解決することによって、現場の「身体性」は回復する。主体的な行動によって得た気づきや発見が「起点」となり、現場の「頭脳」は回りはじめ、自ら考え、工夫する現場へと変身する

ここまで述べてきたように、経営トップは、腰を据えて取り組み、現場に当事者意識が徐々に芽生えるのを辛抱強く見守る必要がある。

それと同時に、リアルでビビッドな取り組みを、絶え間なく仕掛けていくことが欠かせない。

【NG3】変化の『見える化』を怠る

「カルチャー改革」にじっくり取り組むといっても、全社に対する情報発信は継続的に行わなければならない

経営トップが明確な意思表示をするだけでなく、「草の根運動」での取り組みの様子や成果を「見える化」し、啓蒙していく努力が不可欠である。

近年では、SNSなどを活用し、現場での取り組みを動画で配信したり、現場の実践者が直接語りかけたりすることもできる。

私の関わった給食事業などを手がける会社では、現場一つひとつの「質」を高めるために、「現場力エバンジェリスト」の養成を打ち出した。

理論とスキルを学び、「現場力の伝道師」として、さまざまな研修を用意したり、現場ごとに改善のために適切なアドバイスを提供したりしながら、地に足の付いたサポートを展開していった。

このように、取り組みの様子や成果を「見える化」によって共有し、徐々に当事者意識を芽生えさせることが、その後の展開を加速させていく。 

無味乾燥な言葉をいくら語ったところで、「カルチャー変革」の実像は伝わらない。現場感溢れるリアルな情報発信、コミュニケーションができるかどうかが、「カルチャー変革」の肝である。

属人的ではなく組織的な「仕組み化」を

【NG4】「仕組み化」を怠る

私が「現場からのカルチャー改革」に携わったある会社では、現場での業務が標準化・マニュアル化されておらず、できる人に業務が集中していた。その結果、能力の高い人は残業も多く、満足に休みもとれず、退職する人も多い、という悪循環に陥っていた。

この状況を打破するべく、とりわけ仕事の「標準化」、つまり「誰にでもできる仕事」を増やしていくことを重視して、「カルチャー改革」を行った

変化の「芽」を伸ばし、育てるためには、どこかの時点で「仕組み化」が必要である。仕組みができることによって、変革を加速させ、定着させることが容易になる

先述した「現場力エバンジェリスト」はひとつの仕組みである。「エバンジェリスト」という新たな役割を設けることによって、「属人的」ではなく「組織的な動き」を加速することができる

初代の「エバンジェリスト」たちはいずれ現場に戻ったり、ほかの部署で活躍したりすることになるが、また新たな「エバンジェリスト」が任命され、現場力の強化、浸透に努めることになる。

時が経てば、「エバンジェリスト」経験者が着実に増え、そうした人たちが中心となって「現場力というカルチャー」がより強固なものとなる

何からスタートするのか、どのような順番で展開するかは、それぞれの会社の状況によって柔軟に変えればいいが、「カルチャー変革」という一大プロジェクトを成功に導くために必要な条件は、次の4つに集約される。


出所:遠藤功『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』

経営者は改革を急いだり、大きな変化を求めたりしがちだが、組織風土を一気に変えることはできない。ここで何より大事なのは、「足元からの改革」を実践し、初期段階で「アーリー・スモール・サクセス」(ESS:初期段階での小さな成功体験)を生み出すことである。

先述した住宅メーカーのある支店では、はじめ、メンバーは活気に乏しく、「達成できない数字ばかり押し付けてくる」「リソースが足りない」「本社のサポートがない」といった「他責」が充満していた。

そんな状況で、いきなり「風土改革を進めろ」などと発破をかけられても、何から手をつければいいのかさっぱりわからない。そこで私は、「どんな小さなことでもいいので、いままで取り組めていなかった現場の課題をみんなで解決することから始めよう」と助言した。

すると、支店内の美化や訪れる子連れ客への環境整備など、「これなら自分たちでもできる」と矢継ぎ早に「ESS」に取り組みはじめた。

日ごろ感じていた問題点をみんなで議論し、足元の変化を自分たちで生み出していった。すると、いままで見えていなかったさまざまな「ファクト」(事実)が見えてきた。

現場の声という「ファクト」を自分たちの足で拾い集め、現実を真正面から見ることによって、「何をどう変えればいいのか」の変革シナリオが見えてきたのである。

「健全なカルチャー」は「足元の課題の解決」から

プロジェクトの初期段階で難易度の高い壮大な課題に取り組んだところで、頓挫することが多い。

それよりも足元の課題に着目し、みんなで汗をかき、解決することによって、「自分たちが動けば変えられる」という自信が生まれ、プロジェクトにも勢いが加わる。それが会社全体に広がることによって、「良質なカルチャー」は徐々に醸成されていく

組織の規模にもよるが、「良質なカルチャー」が醸成され、組織に根付くには最低でも10年はかかる

だからこそ「良質なカルチャー」は、そう簡単には真似のできない最強の模倣困難性となるのである。

(遠藤 功 : シナ・コーポレーション代表取締役)