先輩が若手に「悪気なく言う」実は絶対ダメな一言
自分より目下の人とフラットな関係を築くために効果的な「フィードバック」や「フォロー」の仕方とは(写真:takeuchi masato/PIXTA)
「後輩に注意しなきゃいけないけど、嫌われたくない」
「ハラスメントになりそうで、部下に何を言えばいいかわからない」
「偉そうにしたくないけど、媚びたトークをしてイタいと思われたくない」
こんなお悩みはありませんか? 同期や目上の人とは話せるけれど、「下」の人とは何を話したらいいのかわからないという方が増えているようです。コミュニケーションの達人・五百田氏の新著『部下 後輩 年下との話し方』より一部抜粋し再構成のうえ、部下、後輩、年下など、自分より目下の人とフラットな関係を築くための会話術を紹介していきます。今回は、仕事上の「フィードバック」や「フォロー」の仕方をご紹介します。
”よかった探し”をする
フィードバック
× 「これはない! 」とダメ出しする
〇 「ここはいいね! 」と”よかった探し”をする
「明日のプレゼン資料、チェックお願いします」
「……これはないな。1ページ目だけど、このグラフ何? もっと具体的なデータを見せないと説得力ないよ。それから、この図、どうなの? ほかになかった?」
部下・後輩・年下へのフィードバックの際、すぐに否定から入る人がいます。ですが、それは不正解です。
忙しいし、改善点だけを端的に伝えたい。さっさと自分の仕事に戻りたい……。先輩としての威厳や知見も示しながら、手短にアドバイスしたつもりかもしれませんが、これではプレゼンは勝てるかもしれませんが、「後輩からの信頼」は勝ち取れないでしょう。
ネガティブな指摘や否定的な意見、辛口のコメントを言うと、手っ取り早く頭の良さやセンスを誇示できるような誤解がまだまだあります。レストランの口コミサイトや通販サイトの商品レビューがいい例です。
ところが、実際には「感じが悪い人」という印象がつき、周囲から人が遠ざかっていく原因に。誰しも、否定ばかりする人と一緒にいたいとは思わないからです。感情的だろうが冷静だろうが、「ダメ出し」は、誰のことも幸せにしないのです。
部下・後輩・年下にフィードバックする際、優れた点を探して伝える「ポジティブフィードバック」が正解です。
「ありがとう。早いね。1ページ目のグラフは具体的なデータを見せると、説得力が出そうだね。それから、図についてはほかの案も検討してみない?」
ポイントは「いいね」「ありがとう」というポジティブな言葉で口火を切ること。まずは期日通りに仕上げたことに対して「いいね」と認め、「ありがとう」と感謝します。
内心は「おいおい……」と思っていても、何かしらいいところを見つける「よかった探し」は、「上」の立場として身につけるべき必須能力。そのうえで修正してほしい箇所を前向きな言い方で伝えます。ここで気をつけたいのは、ネガティブな物言いを避けようとするあまり、持って回った言い方になることです。
「うーん。悪くはないんだけど……、そうだなあ、しいて言うなら具体的なデータを使えるといいかな……」
こんなふうに遠回しに問題点を伝えられると、後輩や部下はかえって困ってしまいます。「修正はしなくてもいいのかな?」という誤解も生まれるでしょう。
「ダメ出し」は簡単です。正直、誰でもできます。「よかった探し→前向き改善」は面倒くさくて難しい。それをやらなくてはいけないのが「上」という立場なのです。
ポイント:いいところを探してほめる。改善はそこから
「困ったことがあったら、いつでも言って」はNG
フォローする
× 「何かあったら言ってね」と声をかける
〇 「○○しようか?」と具体的に声をかける
「何かあったら言ってね。俺でよければ、いつでも相談に乗るから」
「困ったことがあったら、いつでも言ってよ」
大変そうな部下・後輩・年下に向かって、こういうふうに声をかける人がいます。ですが、これは不正解です。
こちらは親切心で言ったとしても、言われたほうとしては、意外とうれしくない。表面的には「あ、はい。ありがとうございます」と返しつつも、内心は救われていないのです。
「社交辞令で言われているのか、本当に頼りにしていいのかわからない……」
「困った。けど、何をどう相談したらいいかわからない……」
若手・新入社員だったときのことを思い出してみてください。上司や先輩への相談はとてもハードルが高いものでしたよね? 「ほんとにこんなこと聞いていいのかな? 頼っていいのかな? いやさすがにダメか?」と躊躇してしまったものです。
これがもっと落ち着いた状況なら「そういえば、いつでも相談に来いって言ってくれてた!」と思い出すこともあるでしょう。ですが、テンパっているとき、ピンチの時はなかなか難しい。
結果、トラブルになってしまってから、「下」は「誰にも相談できなかった」と孤独を抱え、「上」は「あれだけ『抱え込むな』と言ったのに……」と不満をためることに。お互いにとっていい結果になりません。
部下・後輩・年下に対して、本気で「困ったことがあったらいつでも相談してほしいし、力になりたい」と思うなら、具体的に「できること」を提案するのが正解です。
「大変そうだね。リサーチでも手伝おうか」
「A社の担当さんから連絡あったけど、代わりに折り返しておく?」
もちろん、ピンポイントで見極め、手を差し伸べることができれば理想です。しかし、仮にズレていたとしても、かまいません。最初にアクションを起こしてもらえれば、相手はSOSを出しやすくなります。
「リサーチは終わってるので、これを手伝ってもらえると助かります!」
「ありがとうございます! 折り返しは大丈夫なんですが、見積もりがまだで……」
最初はうまくいかなくても、次第に勘どころもつかめてくるはず。そうやって、目の前の人の「困りどころ」を見極めるのも「上」のお仕事。今後、もっと多くの部下をマネジメントするときに生きてくるはずです。
ポイント:「何か」ではなく、具体的な助け舟を出す
「仕事に向いていない」相談を受けたら?
相談を受ける
× 「仕事ってそういうもの」となだめる
〇 「どんな仕事がしたい? 」と引き出す
「うちの会社がやってることって、意味あるんですかね?」
「まぁほら、仕事ってそういうものだから」
「私、向いてないんですよ、根本的に……」
「そんなことないって。それぐらいの年頃はみんな悩むものだし」
部下・後輩・年下に仕事の悩みを打ち明けられたとき、「そういうものだよ」「あるある」と慰める人がいます。
自分自身が経験した悩み。あるいは、そういう人をたくさん見てきた。だからこそつい「我慢してればいつか終わるよ」「あなただけじゃないよ、ためこまないで」とフォローしたくなる(そして、ナイーブな若者に社会の現実を教えてあげたくもなる)……。ですが、それは不正解です。
悩み相談をする人は、自分の悩みをそのまま受け止めてほしいと思うものです。
「よくあること」と簡単に片づけられたくないし、「我慢するしかない」という正論を聞きたいわけでもありません。
これもだいぶ浸透した知識ですが、悩み相談は、「大変だね」「困ったね」「それはつらいね」と、共感のあいづちを打ってそのまま受け止めるのが常道です。相手の言葉をオウム返しするなども効果的。
どれだけそのジャンルについて詳しくても、どれだけ相手のことを心配していても、さくさくとアドバイスはしない。とうとうと自分の経験は語らない。それが「上」の立場に求められる我慢です。
部下・後輩・年下に対して、悩みを否定せず、決めつけず、正論で片づけず、さんざん聞くだけ聞いたあとできることは「相手の中から答えを引き出す」です。
「意味ねえ、大事だよなー。どんな仕事だと意味を感じられるかねえ?」
「……もともと、僕って、海外の貧困を救うような仕事をしたかったんですよ」
「向いてない、かあ。どういうときに向いてないと思うの?」
「……私、昔から細かい作業が苦手で。あ、でも企画考えたりするのは楽しいんです」
そうやって、悩みの裏返しである前向きな意志まで引き出せれば、言うことなしの大正解。当然、それには時間がかかります。「サクッとクレバーに課題解決」は、「下」との悩み相談においては禁物中の禁物と心得ましょう。
ポイント:サクッとまとめずに、広げる・引き出す
とにかく話が長い!
語る
× 話が長い
〇 話が短い
「じゃあ、最後にひと言だけ。まずは……ってところかな。あ、あと……だと思います、はい。……あ、そうそう、これは言っていいのかどうかわからないけど……じゃあなんでこうなったかって話で……」
「総括としてはそうだなあ、要するにさ……。結局のところ……だと思うんだよ。でね、そもそもの話……なわけよ。あ、それで言うと……ってこともあるか……」
部下・後輩・年下からひと言求められたり、まとまった話をしたりするとき、とにかく話が長い人がいます。
せっかくの機会だからあれも言いたい、これも言いたい。あんまり短いと格好がつかないし。「上」の立場にふさわしい意義のあることを言おう、「下」に感銘を与えよう……。ですが、これは不正解です。
部下・後輩・年下は、そもそもそれほどまじめに上司・先輩・年上の話を聞いてくれません。悲しいことですが、それが現実です。
小学校のとき、朝礼で聞く校長先生の話、長く感じましたよね。今から考えれば、それなりにいい話をしてくれていたはずです。ですが、児童たちの耳にはまったく届かない。「早く終わらないかな」しか考えられない。オトナになっても、その感覚は変わりません。
「上」の人が言ってくることはたいてい、めんどうなこと、うるさいこと。相手がそう思っている以上、長々と話すのは得策ではありません。
部下・後輩・年下の前で話すときには、なるべく短く話すのが正解です。
「じゃあ、ひと言だけ……◎◎の点がすばらしかったです。おつかれさまでした」
「今回のキーワードは●●です。詳しく聞きたい人はあとで個別で話しましょう」
こうすることで、関心のない人は「早く終えてくれた」と好感を持ち、関心のある人は「続きが聞きたい」とさらに興味を持つでしょう。
そもそも「めったにない機会」だから、つい「あれもこれも」と詰め込んでしまうわけです。「印象づけたい」と思うなら、「長さ」よりも「頻度」で勝負するのがいいでしょう。
大きな会議だけでなく小さな打ち合わせにも頻繁に参加して、こまめにコメントする。個別できちんと雑談し、メールやLINEにも快く対応する。
もちろん、それには手間がかかります。なるべくなら、どんと一気にすませたい……。
ですが、そういう一手間を惜しまない姿勢こそが、相手を「下」と軽んじていないメッセージとして伝わるのです。
ポイント:話は短く、何度もする
(五百田 達成 : 作家、心理カウンセラー)