HISモバイルは、ただ「安い」だけではないMVNOを目指す! 業界最安値を堅持しつつも挑む新たな戦略

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●低価格に挑戦し続けるHISモバイル
みなさんは仮想移動体通信事業者(MVNO)の通信サービスを利用したことがあるでしょうか。

NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)から通信回線を借りて事業を行うMVNOは、
必要十分な通信品質を低廉な価格で利用できる点をメリットとして、2017年頃に大きなブームを作りました。

しかしその後、NTTドコモなどが20GBで3,000円未満となる格安料金プランや通信サービスを始めたことで大きな打撃を受けました。
MVNOは、MNOが用意する格安料金プランよりもさらに安い価格や容量単価でしのぎを削っています。

そのような中、一際「安さ」にこだわりを持つMVNOがあります。HISモバイル(H.I.S.Mobile)です。

HISモバイルは旅行会社のHIS(エイチ・アイ・エス)と通信会社の日本通信が設立したMVNOで、MVNO業界の中でも比較的若い企業です。

MVNO各社が限界ギリギリの低価格路線であえぐ中、ひたすらに業界最安値を目指し続けるその目的や信念とは一体どこにあるのでしょうか。


HISモバイル 代表取締役社長 猪腰英知氏


●チャレンジャーだからこそ必要だった「色」
「旅行業界からの新規参入だったため、際立たないといけなかった」

自社の超低価格路線について自信と誇りを感じさせる眼差しでそう語るのは、HISモバイル代表取締役社長の猪腰英知氏です。

HISモバイルは2018年のMVNO参入当時より、料金の安さを武器にしてきました。
そもそも低価格が売りのMVNOにおいて存在感を示すには「さらにインパクトのある料金が必要だった」と語ります。

猪腰英知社長
「MVNO市場が成熟している中、後発なので新規獲得はとても難しい。そこで『色』を出さなければいけないとなった」
「まともに正面から他社と戦っても勝てない」
「とにかく価格だよね、となった。プライシングでは他社に負けないという自負もあった」

旅行会社のHISが低価格の旅行プランを武器に成長してきたように、通信業界でも同様に価格で勝負したいという企業社風もあったと言います。

実際、現在HISモバイルが主力商品として展開している料金プラン「自由自在290プラン」は、音声通話とデータ通信がセットになっているにも関わらず、
利用データ通信量が100MB未満の場合は月額290円(以下、全て税込み)しかかからないという従量制プランとなっています。

最低価格が安いだけではなく、
1GBまでは550円、
3GBまでは770円、
7GBまでは990円
このように各利用容量での料金も非常に低く抑えられています。
さらに5分かけ放題や完全かけ放題といった通話向けオプションも低価格を実現しています。


大容量プランも用意されているが、やはりユーザーが期待しているのは低容量帯のお得感だ


●ライバル企業の戦略が追い風となった
NTTドコモなどの低料金プランや楽天モバイルの月額0円スタートのプランについては「散々やられた」と苦笑いしながら語る一方、
その後楽天モバイルが月額0円スタートを廃止したことやユーザーの反応については非常に前向きな印象だったと語ります。

猪腰英知社長
「(楽天モバイルが0円スタートを廃止すると発表してから)公式サイトのPVがそれまでの5〜6倍に跳ね上がった」
「ユーザーの反応が新プランの反響も含めて非常に良く、契約数にも反映されてきている」

楽天モバイルが月額0円スタートのプランを打ち出したことで苦境に立たされていたことから「マイナス分が戻ってきた感じ」と言いつつも、

猪腰英知社長
「楽天モバイル様のおかげでユーザーのリテラシーが上がってきたという点はある」
「(ユーザーの)意識改革のムーブメントを作ってくれた」

このようにも語り、楽天モバイルの料金プランによってそれまで通信料金にあまり関心がなかった層にも料金への関心と興味を持たせることができた点を高く評価するなど、
単純なライバル企業としてではなく、業界全体としてメリットがあった点を強調する姿が印象的でした。


ライバル企業の戦略や業界動向を冷静に分析する猪腰英知社長


さらに、楽天モバイルの戦略は同社にとって追い風となったとも語ります。

猪腰英知社長
「メディアに取り上げてもらえる機会が増え、認知度もぐっと上がった」
「楽天モバイル様が月額0円を廃止したタイミングで(MVNOとして)最安値を打てていたのはたまたまだったが、ユーザーの乗り換えの動機につながった」

常に業界動向を注視し業界最安を堅持し続けてきたからこそ巡ってきた運気だとも言えます。

新たな料金プランの発表や料金改定などは、常に「人が動くタイミングを狙って調整している」と言います。

例えば「自由自在290プラン」が発表されたのは今年3月で、5月より運用がスタートしましたが、
今年3月にあったモバイル通信業界の大きな出来事と言えばKDDIによる3Gサービス「CDMA 1X WIN」の終了(停波)です。

これによって古い携帯電話(フィーチャーフォン)のユーザーの多くはスマートフォンとスマートフォン向けの通信契約への切り替えを余儀なくされましたが、
スマートフォン向けの料金プランはフィーチャーフォン向けの料金プランに比べて高めであることから、
低コストでの維持を望むユーザーに対して訴求するために用意したのが自由自在290プランだったのです。


データ通信だけではなく、音声通話でもメリットをアピールし顧客獲得を狙う


●「安い」だけではない、5G時代のMVNOへ
しかしながら、どんなに通信料金や通話料金の安さをアピールしたとしても、採算割れでは企業として失格です。

猪腰英知社長
「採算性は十分に取れている。他社と比較して損益分岐は低いとも感じている」
「赤字にはならないが、他のプランやサービスへの導線としての自由自在290プランという位置付け」
「安くした分、サービスに対しての料金はちゃんと頂き、細かく収益性を上げていく」
「飽くまでも顧客ベースでサービスやサポートを充実させていきたい」

猪腰英知社長自らヘルプデスクのメールすべてに目を通し、日々改善案を練っていると言います。

猪腰英知社長
「(HISモバイルの)公式サイトも見づらいという声があった時にすぐ修正した」
「お客様から質問が来るということは、分かりにくいということ。そこを日々直していくことこそ大切だと考えている」
「MVNOとしてできることは限られているが、お客様と向き合ってサービスを提供していけるMVNOにしていきたい」

現在は契約者数50万人を目指して精力的に営業活動を行っている最中。
HISモバイルは法人契約に強みのある企業でもあり、旅行会社のHISとともにキャンペーンを打つなど積極的な顧客獲得戦略を展開しています。


旅行に絡めたキャンペーン施策は同社ならでは


MNOの低料金化はMVNOへ厳しい北風となって吹き付けましたが、一方で通信業界と通信料金へのユーザーの関心が喚起されたことで、ユーザーの流動性も生みました。

このような激変の中、3G停波といった機も逃さず常に業界最安値を武器に顧客獲得を狙ってきたHISモバイルには、
さらに今、旅行需要の復活という大きなチャンスも巡って来つつあります。

7月に入り再び新型コロナウィルスの感染者が増加しているのが気がかりではありますが、
国内旅行だけではなく海外からの渡航者や海外へ向かう日本人旅行客も徐々に回復していくことは間違いありません。

最後に、猪腰英知社長はこのように語ります。

猪腰英知社長
「MNOの低料金化でMVNOは食べられない業界になってしまった。これからは料金を下げるだけではなく、さらなる新サービスや料金据え置きでの中〜大容量化なども検討したい」
「MVNOは通信速度の遅さがネックとされてきたが、5Gなどで通信速度の問題が解消されてくれば、ユーザーの意識(MVNO業界への印象)もそのうち変わってくると思う」

ただ「安い」だけではないMVNOへ。
4G時代に花開いたMVNO業界は、5G時代の到来によってさらなる飛躍を目指しています。
HISモバイルもまた、そこに新たな商機があると確信しているようでした。


執筆 秋吉 健