「親子のコミュニケーション」は、子どもの対人関係にも強く影響します(写真:kapinon/PIXTA)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。


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「親子のコミュニケーション」は、人生のなかで最初にスタートする人との関わりです。それは、人格を形成するにとどまらず、その先の対人関係にも強く影響します。なぜなら、人と関わるための基礎パターンがそこで確立するからです。

実家を離れて自立しても、結婚して自分が親になっても、幼少期からの親子関係はよくも悪くも、ずっと子どもの人生に影響をおよぼします。それほど親の言葉や関わり方は子育てにおいて重要なのです。

拙著『よけいなひと言をわかりあえるセリフに変える 親子のための言いかえ図鑑』では、親子関係に悪影響を与えてしまう「よけいなひと言」を、信頼関係を深める「わかりあえるひと言」に言いかえる例を集めています。本書のなかから、親子のコミュニケーションにおける「ほめる・励ます」シーンについていくつかの言いかえ例をご紹介します。

大きな影響をおよぼす「きょうだい間の比較」

きょうだい間の比較は 子どもの人格形成に大きな影響をおよぼします。

「お兄ちゃんは勉強ができたのに」「妹はかわいいのに」と比較されて育ったことを、大人になっても恨んでいる人は少なくありません。実際、社会人対象のカウンセリングでも、この悩みがよく出てきます。

なかでも多いのは、長男・長女として生まれて「しっかり者」でいることを求められ、ずっと「しっかり者」を演じ続けてきた人の悩みです。そんな呪縛で子どもを苦しめないためには、きょうだいこそ平等に公平に接することを心がける必要があります。長男(長女)が何か手伝ってくれたときも「さすがお姉ちゃん(お兄ちゃん)」とうっかり口にしないこと。

「手伝ってくれて助かったよ」「準備してくれてありがとう」とだけ伝えればいいのです。行為や行動に対する感謝やほめ言葉だけを伝えれば、「自分だけを見てくれているんだ」と安心できます。

×よけいなひと言 「さすがお姉ちゃん(お兄ちゃん)だね」

◎わかりあえるひと言 「手伝ってくれて助かったよ」

「さすが男の子だね」「やっぱり女の子だね」という言い方も、性差で評価していることになるので気をつけて。「力持ちだね」「よく気がつくね」と、性差に関係なく、やったことをストレートにほめてあげてください。

きょうだいに限らず誰かと比較されて育った子は、大人になってからも他人と比較することでしか自分のことを評価できなくなります。つねに誰かと比べ続ける人生なんてストレスがたまるだけ。そんなことにならないよう、子ども自身をそのまま認めてあげましょう。

ほめるときは「ほめっぱなし」が鉄則

親の理想というのは、なぜか高くなりがちですよね。「うちの子、天才かも?」「もしかしたら才能あるんじゃない?」と一度くらいは思ったこと、ありませんか?

「今はがんばってないだけで、本気出せばできるはず」と思い込んで、わが子の才能に期待している人も多いと思います。心でそう思うだけならまったく問題ないのですが、子どもにその期待を丸ごとぶつけると、計り知れないプレッシャーを与えてしまうことも。

ほめるときは「ほめたらほめっぱなし」が鉄則。子どもがピアノのコンクールで入選したら、「練習をがんばっていたから、結果が出るとお母さんもうれしい」と言うだけでいいのです。

×よけいなひと言 「やればできるじゃない。次はもっとがんばりなさい」

◎わかりあえるひと言 「練習をがんばっていたから、結果が出るとお母さんもうれしい」

「次もがんばって」「がんばればもっとできるはず」とよけいなことまで言ってしまうと、子どもは「期待に応えられなければ評価されないんだ」と脅えるようになります。同時に、「どんなにがんばっても親は自分のことを認めてくれない」というあきらめや不満が募って、何もかもどうでもよくなる可能性もあります。

子どもの自信や自己肯定感を育むためには、ほめるときは「ほめるだけ」にして、ほかの欲求をしないこと。どれだけがんばっても親が満足してくれない、認めてくれない、という無限ループにおちいると、子どもは何をやっても不毛に感じます。そんな状況はつらくなるだけですので、ほめたら「ほめっぱなし」を忘れずに。

「過小評価」せずに、ポジティブな励ましを

子どもにプレッシャーをかけたくない。成績のことは気にせずがんばってほしい。

そんな思いから、子どもを励ますつもりで、「ビリでもいいからがんばって」と言うのは、「期待していない」「あなたはその程度」というニュアンスにも受け取れますよね。「あなたには無理」と決めつけているように聞こえてしまいます。

学校へ行きたがらない子に、「退学にならなければいいから」と言うのも、習いごとをやっている子に「試合(発表会)に出してもらえるだけでいいじゃない」といった言葉も、子どもに期待していないように伝わります。


×よけいなひと言 「ビリでもいいからがんばって」

◎わかりあえるひと言 「いつも応援してるよ」

子どもに過剰に期待すると負担をかけますが、逆に低い評価を親が決めつけてしまうと、「自分のことはどうでもいいんだ」と思ってしまうもの。たとえ勉強ができなくても、習いごとが苦手でも、「いつも応援してるよ」「楽しんできてね」とポジティブな言葉で送り出してあげたほうが、子どもの励みになります。

子どもの成長の早さは人それぞれ。子どもの可能性も無限大です。それなのに、親が最初から枠組みを決めたり、限界を感じさせたりしてしまうと、これから育っていく才能も花開くことがないまま枯れてしまうかもしれません。

親が一番の応援隊でサポーターでもあるという気持ちを伝えて、見守っていれば、子どもは安心して努力することができるのです。

(大野 萌子 : 日本メンタルアップ支援機構 代表理事)