人間が生きる上では水が不可欠ですが、地球上の液体の96%以上が海水なので、人間の水分補給に適した真水はごくわずかしかありません。しかし、イルカやクジラなど海中で暮らす哺乳類がいることや、「髪以外の体毛がほとんどないのは人間が海辺で進化したからだ」という説があることを考えると、人間に海の水が飲めても不思議ではない気もします。そんな「なぜ人間は塩水から水分補給ができないのか」という疑問について、科学系ニュースサイトのLive Scienceが解説しています。

Why can't we drink saltwater? | Live Science

https://www.livescience.com/32454-why-cant-we-drink-saltwater.html

人間に海の水を飲むことができない理由は単純で、海水は塩分が濃すぎて腎臓が機能不全になってしまうからです。ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館で学芸員を務めるロブ・デサール氏はLive Scienceに、「ほとんどの動物は、腎臓で水から不純物を取り除きます。海水を飲むと、体から排出しなければならない塩分を大量に摂取することになってしまうのです」と話しました。

腎臓は、余分な水分や血液中の老廃物から尿を作り、体外に排出する重要な役割を持つ臓器です。しかし、腎臓では血液より塩分が濃い尿を作ることができないのに対し、海水には人間の血液の3倍以上の塩分が含まれています。従って、人間が海水を飲んだ後で余分な塩分を体外に排出するには、飲んだ海水と同量以上の真水を飲まなくてはならないことになるとLive Scienceは指摘しています。

一方、海で暮らす生き物はさまざまな工夫で真水が飲めない環境に適応しています。例えば、アホウドリ・カモメ・ペンギンなど海で長期間暮らす海鳥には、飲んだ水が胃に到達する前に塩分を取りだして鼻から排出する塩腺という特殊な分泌腺があるとのこと。またクジラやイルカなど、エサから水分を補給して塩分対策をしている海洋哺乳類もいます。



こうした生き物について、デサール氏は「海洋哺乳類は、体内から余分な塩分を排出するための特別な酵素や細胞構造を持っています。彼らはスーパー腎臓を持っているというわけです」と話しました。

ではなぜ人類のような陸上動物が「スーパー腎臓」を持たないのかというと、陸上動物の祖先となる動物が太古の海から陸に進出するために、淡水を飲むように進化したからだとのこと。霊長類の祖先を含む動物たちが、海辺から内陸部に向かって版図を広げるには、湖や川といった淡水が豊富にある一方で、塩水はほとんどないという陸上の環境に適応する必要がありました。

デサール氏は末尾で、「普通の動物であれ、霊長類であれ、食虫類あれ、私たちの祖先のほとんどは塩水にさらされないようになりました。そこで、これらの動物たちは自然淘汰(とうた)により塩分のない水を処理する能力に特化していったので、塩水を飲むと非常に危険で有害な影響を受けるようになったのです」とまとめました。