2022年6月、ロシアのプーチン大統領と会談したアフリカ・セネガルのサル大統領。サル大統領はアフリカ連合(AU)の議長でもある(写真・EPA=時事)

今回のロシアのウクライナ侵攻に対して、意外と多くの国々がロシアの方を支援していることに、日本人は気づくべきかもしれない。積極的な支持から消極的な支持とさまざまだが、注目すべきはEUと日本、アメリカ、そしてその関係国を除く多くの国がその中に含まれることだ。

例えばアフリカ諸国は、ウクライナへのロシアの侵攻を是認しているわけではない。むしろ非難しているのだが、それはアメリカのイラク侵攻が許されているのに、ロシアだけがことさら批判されることへの暗黙の抗議でもあるのだ。いわゆる国連のダブルスタンダードへの批判である。

アジア・アフリカが西欧諸国に抱く恨み

BRICsの国々は、G7の先進国連合に対して敵意をむき出しにしている。上昇してくる新しい勢力と旧い勢力との戦いはつねのことである。これまでは、圧倒的な力でG7の国が世界を支配してきた。しかし、最近ではその様相が変わりつつあることに注目すべきだ。

確かに世界地図を見るとわかることだが、よく狭い西欧地域がこれまで広いアジアやアフリカ地域を支配できたものだと、不思議に思わざるをえない。これにアメリカやカナダを入れたとしても、人口や面積でみて、西側は小さな地域である。

2022年2月24日にウクライナで戦争が勃発したとき、インド人や中国人、アフリカ人の留学生がポーランドなどとの国境付近で入国について差別されたことが報道された。もちろんウクライナ人がポーランドに自由に入国できるシステムがあったことから起こる問題であり、即差別ということにはつながらない。しかし、積年の差別意識によって、厳しい抗議がそれらの国から寄せられたのは事実である。

積年の差別とは、19世紀から始まる植民地支配である。今回ロシア側を支援している国のほとんどがかつて西欧に植民地支配された国々であることが、重要な意味を持っている。

2022年6月に、セネガルの大統領がプーチンに会いにモスクワに出かけた。理由は、小麦を確保するためである。アメリカとEUによる厳しい経済制裁は、アフリカのような弱い国を直撃している。世界市場で小麦が高値でとり扱われれば、困るのはアフリカなどの国である。2008年のコメ価格高騰の際、一番影響を被ったのは西アフリカの諸国であったことは、まだ記憶に新しい。

セネガルといえば、西アフリカのフランスの旧植民地である。西アフリカの諸国は1960年代初めにフランスのドゴール大統領の政策で、植民地から独立した諸国である。アルジェリア紛争が混迷化していく中、フランスは植民地の独立政策を実行する。独立戦争が起こるより前に独立させ、フランスの支配を永続化させようという考えであった。

旧宗主国が偽りの独立を与えた理由

独立した西アフリカの国々は、セネガル、コートジボワール、中央アフリカ、ブルキナファソ、ベナン、マリ、ニジェール、チャド、カメルーン、トーゴなどである。これらの地域では、戦後すぐにドゴールによって、西アフリカ紙幣のCFA(アフリカ植民地フラン)が採用されてきた。そもそも一国の独立は通貨発行権、外交権、独立軍によって決まるが、通貨発行権は植民地から独立した後、現在まで失われたままである。さてこのアフリカ植民地フランとはどういうものなのか。

まず、この通貨の発行権はフランスにあるということである。そのため、西アフリカ諸国はフランスに、自分たちの外貨をすべて預託する必要がある。そしてこの通貨は、フランスのフラン(今ではユーロ)に交換率を固定されていて、国際的為替変動の影響を受けていない。これはフランスにとって極めて都合のいい話である。西アフリカは原料、燃料などの産出国である。フランスはこれらの国の通貨に対してユーロが優位を保つことで、安い価格で燃料や原料を独占的に確保できるわけである。

固定された交換率が変更されたのは、戦後2回だけだ。1945年当初、1植民地フラン=1.7フランスフランであったのが、1948年に1CFA=2フランスフランになり、1994年には100CFA=1フランスフランになった。現在はユーロであり、1ユーロ=655.957CFAである。植民地フランは、ユーロに対して極めて安く設定されている。

しかも、西アフリカ諸国は海外に輸出すればするほど、その外貨がフランスの中央銀行に自動的に入っていくシステムであり(最初は100パーセント、今では50パーセントをフランスの銀行に預託しなければならない)、その外貨はフランスという国家の重要な収入源となっているのである。

まさにこれは植民地体制そのものだが、これはアルジェリアのように戦って得られた独立との違いというか、その早すぎた独立による代償ともいえる。つまり、フランスは西アフリカの地域を独立させる代わりに、それまで投資した額の支払いを要求したのだ。その代償がこの植民地フランというわけだ。もしそれを拒否すれば、フランスが投資した学校も、道路も、病院もフランスにすべて没収されてしまうので、彼らは従うしかなかったのだ。

今でもアフリカの地図を見ると、悲しい現実が見える。まず鉄道だが、積み出し港から主要都市への鉄道はあるが、それ以外の都市を結ぶ鉄道や海外と結ぶ鉄道などはない。道路もアフリカ諸国を結びつけていない。それは偶然ではない。フランスやイギリスは、西アフリカを分離するために、あえて建設しなかったのだ。

しかし今、アフリカは変わろうとしている。西アフリカも東アフリカにも、フランスやイギリスがつくった狭い国境を越えて、ひとつの大きな国をつくりたいという願望がある。そして自らの軍隊と外交権、そして通貨を発行したいという希望があるのだ。こうした希望を今支えているのが、残念ながらロシアや中国だということを忘れるべきではない。

ロシア、中国がアフリカの希望を支えている

中国やロシアのアフリカ進出は、少なくともアフリカ人の希望を充足しているのだ。とりわけ、植民地的な宗主国との腐れ縁を切るために、中ロはルーブルや元での輸出入を可能にし、鉄道や道路などのインフラを着実に建設している。西アフリカの大統領が、フランスのマクロンのところではなく、自らプーチンに会いに行くというのは、西側離れが加速していることを意味している。

GDPというおなじみの経済指標がある。この指標は「国内総生産」だが、ある国内がどれだけの生産を1年間に産み出しているかという指標である。これをドルで計算すれば、先進各国が上位を占める。しかしその内容についてみると、状況はかなり変わる。つまり実物経済の占める割合を求めると、先進国といわれる国は金融・商業・サービスが多いことに気づく。

もっと正確にいえば、グローバル化によってサプライチェーンが発達したおかげで、先進国は原料や燃料のみならず、多くの生産物を海外に頼ることができるようになったために自分でつくっていないということだ。その代わり、先進国はこれらの国に資金提供をしているのだ。

しかし、サプライチェーンが崩壊すれば、途端にGDPの実質的価値が問われる。先進国は、物質的富(アダム・スミスがいうところの使用価値だが)を、あまりにも後進諸国に依存していることがわかる。EUやアメリカなどの先進国で起きているインフレ現象は、まさに実体経済の弱さを暴露している。燃料、原料、工業生産物を自国でつくらなければ、先進国のGDPなど意味がないということだ。「王様は裸」なのだ。いくら金があっても、買えるものがなければ意味などない。

経済制裁という先進国の切り札は、両刃の剣であることを知るべきだ。金融によって後進諸国を締め付けることで、後進諸国は次第にそれに対応する経済をつくってしまうのだ。金融制裁に慣れはじめ、今ではドルやユーロでもない別の通貨で売り買いを行うようになったのである。

しかも西アフリカのように、宗主国の通貨であるユーロそして植民地通貨CFAを拒否し、生産物の輸出の拒否さえしかねないのだ。その背景には、彼らを支持するロシア、中国、インドなどの国がいる。これらの国がNOというのを手助けしてくれているのである。

このような状況は、もうローマ奴隷の反乱に近いのかもしれない。マルクスはこういう言い方をしている。「ブルジョワ階級は自らを死に至らしめる武器を研ぎ澄ましただけでなく、この武器を使う人々―すなわち近代的労働者、プロレタリアをつくり出したのである」(的場昭弘訳『新訳 共産党宣言』作品社、49ページ)。プルジョワを先進国、プロレタリアを後進国に入れ替えれば、その意味が自ずとわかるというものだ。

(的場 昭弘 : 哲学者、経済学者、神奈川大学経済学部教授)