●「時代をゼロから始めよう」

仮面ライダー生誕50周年を記念し、関連する楽曲を網羅した「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」(55,000円/税込)が、6月22日に発売される。

さまざまな形でベスト盤が発売されてきたが、今回は昭和・平成・令和のTV主題歌、挿入歌に加え、未配信楽曲を含む映画、スピンオフ作品主題歌も収録されたまさに決定版ともいうべきBOXとなっている。NON STOP DJ MIXやカバーソングも収録。50周年記念のスペシャルボックス仕様で、初回限定版には主題歌CDジャケットをデザインしたピンバッジが同梱されている。

今回は平成ライダーをはじめ、現在放送中の『仮面ライダーリバイス』まで、数多くの主題歌、劇場版主題歌、スピンオフ作品主題歌、挿入歌で作詞を務めた藤林聖子氏に、シリーズを振り返ってもらった。

藤林聖子(ふじばやし・しょうこ) 作詞家。1995年作詞家デビュー。本人自身が造詣の深いR&B、HIPHOP系を中心にサウンドのグルーヴを壊さず日本語をのせるスキルで注目され、独特な言葉選び”藤林ワールド”にも定評がある。安室奈美恵、E-girls、w-inds.、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE、GENERATIONS from EXILE TRIBE、JUJU、BENI、ジャニーズWEST、Hey! Say! JUMP、平井堅、西川貴教、BOYS AND MEN、三浦大知、水樹奈々、May’n 、ももいろクローバーZ、 2PM、TWICE、BIGBANG、BTS、TXT等のポップスから、スーパー戦隊、仮面ライダーシリーズの特撮、『ONE PIECE』『ジョジョの奇妙な冒険』等のアニメ主題歌、「ヲタクに恋は難しい」等ミュージカル映画、その他CMソングまで多岐に渡って活躍。 撮影:大塚素久(SYASYA)

――数々の特撮ドラマの主題歌を手がける藤林さんですが、ご自身にとっての特撮ヒーローの原体験はどの作品になりますでしょうか?

ちょうど「メタルヒーロー」シリーズをやっていた世代だったんです。なので、平成ライダーだと『仮面ライダーW』にグッときたんですよ。ちょっとメタルな感じがありますよね。

――特撮ヒーローの楽曲を手がけるようになったきっかけは?

初めは『激走戦隊カーレンジャー』(1996年)の挿入歌(Merry Xmas! from カーレンジャー)で依頼をいただきました。今考えるとちょっと珍しいんですけど、プロデューサーの方と直接打ち合わせをさせていただいて、そこからどんどんアイデアが広がっていく。その作り方が楽しくて、今も続いている感じです。

――多くの「仮面ライダー」主題歌を手掛けてこられて、ターニングポイントになった楽曲などはあるのでしょうか?

実は、いつも同じ制作の手順になるわけではないので、「作り方がわかった」ということはないんです。例えば『仮面ライダー鎧武』なんかは、終盤までの展開を聞いていて、そうなるとうまくネタバレしないように気を付けながら、世界観に沿うやり方で進められます。

一方で、『仮面ライダークウガ』は詞先といって詞を先に作った曲です。それから何作かはメロディー先行になりましたが、布施明さんが歌われた『仮面ライダー響鬼』の「少年よ」では再び詞先になりました。

ですので、作り方がわかってきたというより、「作り方が毎回違うことがわかってきた」という感じですね。

――『仮面ライダークウガ』はやはり平成ライダーの一作目として、思い出深いのではないでしょうか。

当時は、プロデューサーの高寺成紀さん(高寺氏の高は「はしご高」が正式表記)と一緒に、当たりが出るまで探っていくという感じでした。新世紀の仮面ライダーをここから始めますというタイミングだったので、みんなまだ正解がよくわからないというか、何が新しいのか手探りで探しているような感じだったのを覚えています。

――いま聴くと、「時代をゼロから始めよう 伝説は塗り変えるもの」というフレーズには、これから新しいシリーズを世に送り出していく決意を感じます。

探して探して、何を言うべきなのか、ということを高寺さんが納得するまで提示していくという形でした。「時代をゼロから始めよう」というのも最初はハッキリ言わないほうがいいんじゃないかと思っていたんです。でも、最終的には、やっぱり言ったほうがいいということになりました。

●予言者について



――時代背景を反映することもある「仮面ライダー」シリーズの楽曲を手掛けるにあたって、時代時代の社会を反映する言葉を意識していることはありますか?

作詞していると、社会は変わっていくというよりも、行ったり戻ったりするなということを感じています。それを取り入れるかどうかは、題材によってもキャラクターによっても違ってきます。日本にはたくさんのヒーローがいて、そこでも変わるものと変わらないものがありますが、変わらないことは「優しさ」なんだろうなということは強く感じます。強さの裏側にある「優しさ」。これはどんなヒーローにもずっとあるものなのかなと思います。

――藤林さんは、物語の展開を先取りするような歌詞から”予言者”とも呼ばれていますね。

ストーリーは先のことまで決まっていないので、決まっているところまでの展開をお聞きして作品の雰囲気を伝えるように作詞しています。『仮面ライダーリバイス』の「liveDevil」でも、ネタバレしないように、でもヒントは散りばめて、それを聴いたみなさんが考察してくださるとうれしいなと思って作りました。

予言者と言っていただくのも、こちらでは意図していなかったところまで「予言した」と言ってくださることが多いんです。なるべく雰囲気を伝えるけど明言はしないように、ということは意識します。先の展開は決まっていないので、断言すると外れてしまうかもしれません。そうなるとよくありませんからね。

――作品によって制作過程が違うとのことでしたが、おおよそどのような手順なのでしょうか? どれくらい作品の資料を観た上なのでしょう。

だいたい多いのが、2話ほどの台本と企画書があるという状態ですね。最近では曲はコンペで選ばれているものがあって、それを聞きながらプロデューサーさんと話をしていきます。東映のプロデューサーさんたちはそれぞれにしっかりとカラーがあるのが面白いですよね。仮面ライダーの概念である「悲しき改造人間」という重ための雰囲気を大事にしつつ、塚田英明さんあたりからかな、自分たちの世代の中で血肉にしたものを再解釈したことで、ポップさが加わり、変化してきた印象です。その後も、「マーベル」っぽかったり、ゲームっぽいキャラクターの置き方だったりとかそれぞれに違いがあります。その違いが、仮面ライダーがこれだけ長く続く要因でもあるのかもしれませんね。

――作詞で特に意識することはどんなところなのでしょう。

まずは絶対に作品のノリに合うものを提供したいという気持ちがあるので、今回はどういうテイストになるのかということはしつこく確認します。それには、主人公のキャラクターを確認することもとても大事ですね。

あと、名乗りを入れる入れない問題もありました。詞先だと入れやすいんですよ。置いておけばメロディーをつけてくれるので。でも曲が先に決まっていると、なかなかピッタリする場所が見つからないので入れないこともあります。アーティストさんも、それが自分の楽曲なので、入れるかどうか方針があって、それが入るかどうかでも曲の印象が変わります。

――主人公像が曲に大きく反映されるということですが、印象として『仮面ライダー電王』あたりでかなりヒーロー像が変わった気がします。

そうかもしれないですね。群像劇的に若い青年が成長していくというのは『電王』あたりから如実になってきたのかもしれません。主題歌『Climax Jump』あたりからは、自分がJPOPやKPOPでやっているのと近い楽曲になってきたので、より平たい言葉でというか、表現として少し自由になった感じがしました。普通の歌として書いていいんだなという。『仮面ライダー響鬼』では前の流れを汲んでいましたけど、レコード会社を移ったことがガラッと変わる転機になったというのは絶対にありますよね。

――最新シリーズ『仮面ライダーリバイス』の「liveDevil」は今までとどのような違いがあったのでしょう。

実は、最初は木村昴さん演じるバイスがあれだけしゃべるキャラだとは知らなかったんです。台本の1、2話を読んだ限りでは、あのめっちゃしゃべる感じは出てきていなかったので(笑)。歌詞を口語にしておいてよかったなと思いました。『Climax Jump』では、あとから声優さんたちが歌ってくださったバージョンもありましたが、出演者の方がこれだけ最初から入って歌ってくださったのはこれが初めてだと思います。

――新しい仮面ライダーが生まれるたびに、今までのシリーズになかった新しい世界観が提示されるので、そこは作詞する側として大変なのではないでしょうか。

それが楽しいところなんです! よく、「作詞をするときにどうやってインプットするんですか?」と質問を受けることがあるんですけど、ライダーに限っては、まず誰かが熟考を重ねたものがバッチリあるので、それを理解することが楽しいんです。えっ、そんなことになるんですか!?みたいな。難しいというよりは毎回おもしろいですね。

――「二人で一人の仮面ライダー」とか。コンセプトにびっくりしますよね。

変身すると、もう一人が気を失っている設定とか最高ですよ! 『仮面ライダーW』の続編『風都探偵』がアニメ化したりと、メディアが増えると過去作も継続したりできるので、今の時代最高だなって思いますね。

――配信もありますから、すべてのシリーズをフラットに見られる時代ですよね。

そうですよね。「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」のピンバッジを見ていても、アマゾンかっこいいなとか、やっぱり電王もいいなとか思いますもんね。そうやって各時代のライダーを振り返っていただけたらうれしいですよ。でも私自身も、こんなにヒーローソングにかかわる人生になるとは思っていなかったんです。

●作詞家になった意外なきっかけ



――そもそも、藤林さんはなぜ作詞家になられたのでしょうか。

本当に偶然でした。たまたま作詞家の方と知り合いになって、「私もやれますか?」って聞いたら、「いいよ、事務所紹介するよ」って言われて。普通に作詞家を目指していたのだったら、学校に通ってとかはあったかもしれないんですけど。そんな感じでいきなり書いてみてと言われて、「どうやって書くんだよ!」と試行錯誤しながらスタートしました。

――それまでに音楽活動などはあったのでしょうか。

特にしていないんです。もちろん、本を読んだり音楽を聴くこと自体は好きだったんですけど、本当にたまたま作詞家の方と知り合えてなんですよね。作家事務所があるということ自体知らない、入口もぜんぜんわかっていなかったけれど、そこに灯が見えたので歩いていこうと思いましたっていう感じです(笑)。

――藤林さんご自身の作詞歴で見たときのターニングポイントは?

BoAちゃんの「Rock With You」(2003年)という曲があるんですけど、初めて大きいタイトルのシングルを取れたので、そこからは特撮にせよポップスにせよ、垣根が一気にはずれて、なんでもできるようになったという感覚があります。いろんなジャンルをやっていますねと言っていただけることが多いんですけど、オーダーが多いほうがうれしいんです。逆に自由にやってくださいと言われるほうが難しい。

――ジャンルの違いみたいなところは難しくないですか?

私はわりとその間口は広いんですよ。なのでジャンルの違いで困るということはあまりありませんでした。どちらかというと「少年よ」のように目線が違う楽曲のほうが難しかったですね。普段は主人公目線ですが、これは父親的な目線なんです。実は私、アーティストの方と会っても、サインをもらうことなんて一度もなかったんですけれど、布施さんとお会いしたとき初めてサインをいただいたんです。母がファンだったので(笑)。

――特に平成以降、「仮面ライダー」の主題歌は本当にいろんなアーティストの方が歌っていますね。

『仮面ライダーディケイド』の時もGACKTさんって聞いてびっくりしたんですよね。「歌ってくれるの!?」って。

――藤林さんは多くのアーティストの方の歌詞を担当している印象があるので、よくあることなのかと思っていました。

でも、シンガーさんとバンドの方ってスタンスが違うと思うんですよ。バンドの方たちはご自身の歌詞で歌われることが多いですよね。『仮面ライダー鎧武』の「鎧武乃風」さんの時もビクビクしてました(笑)。

――楽曲の楽しみ方も変わってきていて、CDから配信へと切り替わることで作詞の仕方は変化したりしたのでしょうか。

より歌詞を一緒に楽しんでいただける時代にはなったのかなと思っています。だからこそ、曲をより身近なものとして、身近な言葉で身近なテーマで共感されるものじゃないとなかなかバズっていかないというのはすごく感じます。「仮面ライダー」では世界観があるので、幻想的であったり神秘的であったりしていいと思うんですけど、普段の作詞ではなるべく身近なものとして捉えていただけるよう気をつけています。

――今日は「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」のサンプルをご用意していただいたのですが、あらためて振り返ったお気持ちは?

長くシリーズの作詞に携わってきましたが、『仮面ライダー』の主題歌、「迫るショッカー」で始まる「レッツゴー!!ライダーキック」には勝つことができないなという思いがずっとあったんです。でも、こうしてBOXとして楽曲が並び、作品も配信で同じように楽しめる時代になって、伝説的な楽曲とも並走できている気がして、それはうれしいし光栄だなと思います。

――「平成ライダー」シリーズも、最初のうちは次があるかわからない状態だったと聞いたことがあります。

そうなんですよ。「次やるかはまだわからないんだよね」って言われて、まあそういうもんだよなと当時は思っていました。それがあれよあれよと続いていったんですよね。私は「ニチアサ」というワードもずいぶん後で知ったんです。いつの間にそんなふうになっていたの!?って。私の「予言者」というのも、気が付いたらそういうことになっていました。特撮作品はとにかく現場の方々のファミリー感とシリーズへの愛がすごくて、自分としてはそれに応えたいと思って作るうちに時間がたったという感じなんです。

――でも改めてすごい楽曲数ですね。

作品に寄り添うようにというのは一番に考えてきたので、そういう気持ちは負けないぞという思いはあります。作詞をしていて一番うれしい瞬間が、オープニングの映像がついたものを見たときなんです。それを見て、ああ仕事がひと段落したなと実感します。最近はもう一つ、超英雄祭(2022年は感謝祭)などでファンのみなさんの反応を見て、曲が作品のいろんなシーンを思い出すリマインド装置みたいになっているのを感じて、それがとてもうれしいんです。「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」は担当の方の尽力で、今まで眠っていた楽曲も収録されているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

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