改元の祝福ムードいっぱいの日本の皇室とは対照的に「王子の不仲説」に関心集める英国王室 - 小林恭子
※この記事は2019年05月01日にBLOGOSで公開されたものです
日本では新元号「令和」の時代となった。海外に住む筆者にとっても、新しい時代が始まることへの期待感は大きい。
王室(ロイヤル・ファミリー)があるイギリスは日本の皇室に対する関心がとりわけ高いが、4月末までの報道を見ると、新元号の採用自体については日本のようなフィーバーぶりは生じなかった。それでも、BBCや新聞各紙は新時代の到来と名前の由来を比較的大きな紙面・時間を使って紹介していた。
中心となったのは、新元号が採用されることになった理由(現陛下の退位がきっかけ)、中国の書物からではなく日本の書物(万葉集)から見つけた言葉であったことを「保守主義」安倍政権と結びつけた説明、ハーバード大学とオックスフォード大学で学んだ雅子妃が、一時は体調を崩されたものの、いよいよ皇后さまとして表舞台に出ることになったことへの期待(デイリー・テレグラフ紙)など。 将来への楽観的な見通しを示したのが、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の社説(4月7日付)だ。
1989年に始まった平成は日本が最高の好景気を経験したときに始まったが、すぐにバブルが崩壊した、と社説は振り返る。日本は「失われた10年」に入った。しかし、平成は「平和の時代」で、日本はこの時、「花開いた」と評価する。「政権が何度か交代し、女性の職場進出が進み」、規制緩和も行われたからだ。
令和時代の日本には、3つの新たな課題があるという。1つは「世界における日本の地位」だ。アメリカと中国の間で、どこに日本を置くのか。「自由と民主主義で平和に」歩を進めてほしいとFTは願う。2つ目は移民問題で、3つ目は高齢化だ。「若者層が将来図を描けるように支援すること」が最も重要、と指摘した。
日本は長い間、外国をお手本としてやってきた。令和の時代は「日本がお手本になるときだ」という。「令和の時代が来た」、と締めくくる。随分と日本をほめているなあと思うが、新時代到来への日本国内の熱気を反映しているのかもしれない。
国民の関心は93歳現役のエリザベス女王より「孫2人の不仲説」
日本の皇室とは異なり、一向に「新規交代」の兆しが見えないのが、イギリスの王室だ。
25歳で元首となったエリザベス女王は、4月、93歳の誕生日を迎えた。王室のほかのメンバーに公務を回すようにはしているものの、バリバリの現役だ。
国王・女王が亡くなった後に、次の国王・女王がこれを引き継ぐのが何世紀も前からの慣習で、エリザベス女王は息子のチャールズ皇太子のために生前退位をする気配はない。責任感が人一倍強く、伝統を重んじる性質なので、最後の最後まで頑張りそうだ。
王室の目下の話題は、チャールズ皇太子(王位継承順位第1位)を引き継ぐウィリアム王子(長男)とその弟ヘンリー(ハリー)王子(次男)の不仲説だ。
2人の王子の母親は、チャールズ皇太子と離婚後、1997年に36歳の若さで交通事故により命を落としたダイアナ妃だ。若くして母を失った王子たちは互いに支えあう存在であり、その仲に水を差すような話はこれまではほとんど話題に上ってこなかった。
しかし、ウィリアム(継承順位第2位)がキャサリン妃との間に世継ぎを作り、その子供たち3人が間に入ることで、弟ハリーの継承順位が6位になった。
これ自体が問題視されることはこれまでなかったものの、ハリー王子が米国人女優のメーガン・マークルと昨年結婚し、ハリー人気、メーガン人気が高まる中で、まずはメーガン妃(サセックス公爵夫人)とキャサリン妃(ケンブリッジ公爵夫人)との間の確執が次第に浮上した。これが、最近はウィリアム(ケンブリッジ公)対ハリー(サセックス公)との不仲説にまで発展した。
メーガン妃の人気を王室関係者が「恐れる」理由
報道はかまびすしいものの、キャサリン妃対メーガン妃、あるいはウィリアム対ハリーの確執あるいは不仲説にどれほどの信ぴょう性があるかは、わからない。
いろいろな説があるが、メーガン妃に対するエリート層あるいは低所得者層の一部から批判・バッシングが起きたことについては、事実のようだ。
何せ、メーガン妃は「アメリカ人(外国人)」、「離婚経験者」、「アフリカ系の血を引く」人物。排他的な人から見れば、バッシングしたくなる条件がそろっている。
また、これまでは王室の人間ではなかったので、いろいろなしきたりが十分には身についていない。例えば、「乗っていた車から降りた時に、思わずドアを閉めてしまう」。これは王室のメンバーなら、ご法度だ。自分で車のドアを閉めてはいけないのである。
昨年5月の結婚式は、ハリー王子とメーガン妃は米俳優ジョージ・クルーニーを始めとする世界的な著名人を多く招待し、何ともきらびやかなイベントとなった。メーガン妃はファッション・アイコンとなり、女性の社会進出についても発言することをいとわない、現代的な女性として好感度を上昇させた。メーガン妃登場前に王室のファッション・アイコンとなり、「一歩下がる」姿勢を維持してきた、つつましいキャサリン妃の影がちょっとかすんでしまった。
対決姿勢丸出しの写真公開合戦
元女優のメーガン妃とハリー王子のカップルは、どこに行っても目立つし、華やかさがダントツだ。一部の王室関係者は、「メーガン妃が、エリザベス女王よりも国民に愛された、ダイアナ妃と同じぐらいの人気者になるのではないか」と恐れる。つまり、次の次の国王のウィリアムやキャサリン妃をしのいでは、困る、と。
4月2日、ハリー王子とメーガン妃が夫婦としての公式インスタグラム(@sussexroyal)を開始したところ、開設からわずか5時間45分でフォロワー数が100万人を突破。下旬までに500万人まで増えている。恐れが現実になりそうだ。
そんな中で報道されたのが、ハリー王子とメーガン妃の「アフリカ移住計画」。二人を国外に出し、海外での公務で忙しくさせるという案だ。実現するかどうかは分からない。単に「長期出張」という提案だったという人もいる。
4月23日、ウィリアム王子とキャサリン妃は第三子ルイ王子の1歳の誕生日を記念する写真を公開した。これまでもそうしたように、母となるキャサリン妃が撮影した写真である。この日はルイの写真の話題で一杯になるはずだった。
ところが、同じ日、ハリー王子は撮りためていた自然の風景写真を公開。
保守系デイリー・テレグラフを見ると、1面にはルイの写真が出たものの、中面の複数の紙面を使って掲載されたのがハリー王子の撮影写真だった。
ふたりの王子の間でコミュニケーションがうまくいかなかったせいでこんなことになったのかもしれないが、対決姿勢丸出しの写真公開合戦となった。
日英で異なるロイヤルファミリー報道
イギリスは日本のような元号制度を採用していないものの、その時々の元首の統治時代には元首の名前が付けられて呼ばれることが多い。例えば、ビクトリア女王(在位1837年―1901年)の時代は「ビクトリア時代」あるいは「ビクトリア朝」と呼ばれるし、息子のエドワード国王(1901-1910年)は「エドワード朝」と呼ばれ、それぞれの時代の特徴がある。
在位が60年以上となるエリザベス女王の場合も、後に「エリザベス朝」と呼ばれるようになる可能性がある(あるいは、17世紀にはエリザベス1世が統治したので「第2エリザベス朝」になるかも)。
イギリスの王室と日本の皇室についてのメディア報道や国民の受け止め方を見ると、イギリスでは一歩踏み込んだ報道ができる点が大きな違いとして目に付く。エリザベス女王や王室のメンバーは、笑い・風刺の対象になってしまう。
エリザベス女王を筆頭に、王室のメンバーは公に政治的発言を行うことは許されない。女王自身は、一切メディア取材には応じない(ただし、1969年に家族でテレビのドキュメンタリー番組に出たことはある。それ以来、懲りてしまったようだ)。
所得税の支払いを負担する英国王室
王室の公務と宮殿の維持は「王室助成金」で賄われている。これは「クラウン・エステート(国家元首が所有する公の不動産)」からの収益の一部だ。いったん収益は国庫に入り、15-25%が女王に戻される形を取る。最新の年次決算書(2017-18年)によると、王室助成金(この年は2年前の収入の25%)は合計7610万ポンド(約109億円)にあたる。これとは別に、広大な所領(土地や不動産)から得る独自の収入源を持っている。ちなみに、日本の皇室費は18年度で約98億6000万円である。
王室の経費遣いについて、イギリス国民の目は厳しい。王室は長年にわたって、所得税を払ってこなかったが、1992年秋に発生したウィンザー城の火災が状況を変えた。当初、修復には6000万ポンドかかると予想され、税金を充てる計画が出た(ちなみに、実際には3650万ポンドかかった。2016年時点では約5800万ポンド、現在のレートでは約83億円)。
しかし、イギリス国民からの大反対にあった。この年、チャールズ皇太子とダイアナ妃や、チャールズ皇太子の弟にあたるヨーク公夫妻の不仲が頻繁に報道され、6月には英「サンデータイムズ」紙にダイアナ妃が皇太子を批判した暴露本「ダイアナの真実」の連載記事が掲載された。イギリス王室の権威、信頼感が落ちていた時であった。
国民からの批判を受けて、メージャー政権は王室と交渉。1993年、王室はバッキンガム宮殿を一般公開すると発表し、閲覧料と女王自身の個人資産の一部を拠出することで修復費に回すことになった。同時に、収入に対する所得税を払うことを決定。宮殿の修復の費用を自ら負担したばかりか、国民同様に所得税の支払いを行うことで、信頼回復への一歩を踏み出したのである。
ちなみに、ハリー王子とメーガン妃の新居フログモア・コテージの改装費が約3000万ポンド(約4億円)以上の巨額となり、これも国民から眉をひそめられた。どんなに人気のある王室のメンバーでも、お金に関する限り、国民の目は厳しい。
岐路に立つ王子たちと王室はどこへ向かうのか
ウィリアム王子とハリー王子が本当に不仲なのかどうか、筆者には分からない。しかし、メーガン妃と結婚したことでハリー王子が脚光を浴びたことは事実で、これが関係をぎくしゃくさせた可能性はあるだろう。
ゆくゆくは国王になる将来が約束されているウィリアム王子とは違い、ハリー王子にはこれに匹敵するほど重みのある国民的な使命がない。まもなくメーガン妃が子供を産む予定で、ハリー王子にしてみれば、自分の家族を持って初めて、改めて自分の使命を考える時期に来ているのだろう。
歴史を振り返れば、ビクトリア女王の夫アルバート公、エリザベス女王の夫フィリップ殿下も、「国家元首のパートナー」として、自分の「持ち場」を得るために奮闘した。ハリー王子もメーガン妃とともに「持ち場」を探す旅の途中なのかもしれない。