高年齢化する男性の引きこもり問題 ″いい女″に会いに行く場が必要 - 毒蝮三太夫

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※この記事は2019年04月28日にBLOGOSで公開されたものです

中高年の引きこもりが増えてるんだろ。先月、内閣府が初めての調査結果を発表してたね。引きこもりって若い人の問題だったけど、それが年々エスカレーター式に持ち上がって中高年になったって話だな。ちなみにこの調査での引きこもりの定義は、「半年以上にわたり家族以外とほとんど交流せず、趣味の用事やコンビニに行く以外に自宅から出ない人」だそうだ。

調査結果によると40歳~64歳でこの定義にあてはまる「引きこもり」の人が全国に約61万3千人。そのうち男性が76・6%だって。こりゃほとんど男だな。そうなるきっかけとして最も多かった回答が「退職したこと」。次が「人間関係がうまくいかなかった」「病気」。

うーん、退職、人間関係、病気・・・これはどれもが密接につながっているんだろうな。とくに現在40代の世代って、平成に入ってバブルがはじけて経済が長期低迷、社会に出ようって時期に企業の採用も激減、就職に苦しんだ就職氷河期の世代なんだよな。

安い酒で酔っぱらって寝るしかない社会

苦労して正社員で就職できても労働時間ばかり増えて給料は低いまま、正社員になれず非正規のアルバイトだとさらに低賃金。みんな貯金もろくにできないし、月々の家賃と光熱費と食費払って精一杯。たくわえられないから結婚や子育てにも踏み切れない。老後に貰える年金もどんどん削られて、将来が不安だから大きな買い物なんかしない。消費しないから経済が回らない。経済を回そうとアベノミクスで市場に金を注ぎ込むけど大企業が貯め込んじゃう。金が下まで落ちてこない。落ちて来ないからますます使わない・・・。

昭和と平成、単純には比べられないかもしれないけどさ、昭和は働いた分が稼ぎになってた。ボーナスとか出るたびに「何を買う」って話が出てさ、庶民が家を建てたり車を買ったりっていう現実に手が届く夢があったよな。それから平成になって、右肩下がりの不景気で働いても賃金は上がらず、家も車も手が出ない。自分が持っている一番高いモノがスマホだって人が多いんだろ。なんだか、スケールが小さくなっちゃったな。

最近のテレビを見てると、流れてるCMは携帯電話のCMばかりだもんな。あと、仕事探しの派遣会社。車はね、小さい車のCMはそこそこ見かけるけど、カッコイイ車のCMって見かけないね。身近に毎日使うもののCMばかり。とくに目につくのがビール・発泡酒・レモンサワーのCM。庶民は安い金で酔っぱらって寝ちゃうしかないのかな。CMは社会の映し鏡なんて言うけど、そうなんだろうな。

平成は平和だったけど活気のない時代

平成は大局で見れば、戦争のない平和な時代だった。これは歴史的にも大きな意味があると思う。だけど、不景気、自然災害、人災、そういう息苦しさがあった。昭和世代は「昭和は問題も色々あったけど活気があった」なんて言うかもしれない。でも平成世代はその活気がない時代に、手足も伸ばせず窮屈に縮こまって、平成疲れを感じてる。かつての日本が持っていた活気から置き去りにされたって感じだな。

外の世界で手に入るものが少ないから、内へ内へと向かうようになるのかな。引きこもりが増えたのはそういう社会の在り方とつながっているんだろうな。

内閣府が引きこもり調査を発表した半月後に、「就職氷河期世代の支援策」なんてのを言い出したね。出元は経済財政諮問会議、これ、安倍首相の方針だろ。今の日本は人口減少で深刻な労働者不足に突入している。そこで、この世代の中途採用に助成金とか入れて、あの手この手で労働者として掘り起こそうって政策だ。

「人生再設計第一世代」言い換える姿勢はいい

「就職氷河期世代」を「人生再設計第一世代」って名称にしようとか言ってんだろ。なんだか聞こえのいい言い換えだな。それにしても安倍さんの周りって言い換えるの好きだよな。公文書やデータを書き換えて改ざんするのも好きだしな(苦笑)。安倍さん周辺を「言い換え書き換え第一世代」とでも呼んでおくか?

でもね、行政が仕事の機会を増やそうとしていることは、いいことだと思う。そこに俺が望むのは、働いたら働いた分、人生をまっとうに生きることのできる賃金や労働条件を、雇用する側が保障しようよってことだ。中途採用だから低賃金とか、そういう場当たり的な扱いにならないようにな。

人生再設計は仰々しいけど、政策が動き出して、多くの人が今まで以上に好条件の仕事に就くことができたり、働かずに引きこもっていた人が外に出たりするきっかけになったなら・・・と切に願うよ。

現在の中高年の引きこもり問題を「8050問題」って言うんだっけ? 80代の親が実家に引きこもってる50代の子の面倒を見る、親からしたら、赤ん坊のときは「子守り」して、大人になったら「引きこもり」って、世話が焼けるね。でも、人間死ねば誰もが土の下にずーっと引きこもるんだぜ。生きてるときぐらいお天道様をできるだけ拝んどきなよって、俺は思うよ。

お年寄りの引きこもりに多いのは男性

俺もラジオの現場でね、お年寄りの引きこもりについてはよく聞くよ。お年寄りの場合、家にこもりがちなのは総じて男。男は孤立しがちなの。男は本質的にタテ社会で、先輩後輩、上司部下、自分自身が誰かよりも上だとか下だとか、たいがい上下関係で生きてる。

だから退職して、かつてあった地位から離れてもそれが拠り所になっちゃう。自分はかつてどこそこの企業でどんな役職でどんな仕事をしたとか、そういう過去の地位で自分自身を保とうとするんだ。中にはそれを自慢げに言って威張るやつもいる。そんなの周りは聞きたかないよ。ハイハイ、そうでしたかゴクロウサン、ってなもんだよ。そういうタテ社会体質が抜けない連中は、ヨコの関係で広がる仲間作りが下手。相手を人間性や趣味で認めるヨコのつながり、それが作れないと外の居場所がなくなって家にこもることになっちゃうんだ。

比べて女性はヨコ社会だよな。楽しい、美味しい、きれい、かわいい、好き、嫌い、とかの感性でつながる。そこから話が始まると、ずーっと話が終わらない。傍で男が聞くとどうでもいい話なんだけど、仲間同士でああだこうだって共感しあってる時間が楽しいんだな。

「ついて来い 言ってたオレが ついていく」

あとね、高齢夫婦は、奥さんが旦那を置いて独りで外出しがち。男は社交下手が多いから、奥さんが外で友達と会う場に連れてっても話があわなかったりしてさ、面倒だから旦那を連れて歩かないんだ。そうすると旦那は家に置き去り。これが重なると外出がおっくうになっていく。だから高齢の夫婦もので旦那が引きこもりがちになるのは、奥さんにも原因があるんだよ。

これを仕方なしと諦めないでさ、お互いに努力しないとな。奥さんは旦那を表に連れて歩きたくなるような明るいファッションを用意するとかね。旦那は女性達が喜ぶ会話に耳を傾けて、話の輪に笑顔で加われるよう意識してね。夫婦で外出を楽しくしていくんだ。

高齢夫婦をお題にした川柳にこんな名作があったっけ・・・、< ついて来い 言ってたオレが ついていく > アハハハハ、これはよく言い当ててるよ。クスっとしつつ身につまされる人も多いんじゃないの?(笑)

引きこもりが「外に出たくなる場所」が必要

中高年やお年寄りで、引きこもってる男連中が表に出たくなるにはどうしたらいいか。日本が避けられない切実な問題だってことは確かだ。まあ話半分で聞いてほしいけど、単純な話、外に出たくなる場所があれば、っていう考えがあるよな。

例えば古い話だけど、江戸にはね「鞍馬天狗」や「丹下左膳」なんかの映画にも出てくる「矢場(やば)」って場所があったんだ。要するに娯楽場だね。客が座って弓を打って、的に当たってカラカラカラって鳴ると景品くれたりしてね。銃ではなく弓の射的だな。

そこにいい感じのお姐さんがいてさ、矢が当たると「お兄さん、当たり~」なんて言うんだ。「矢場の女」ってのは粋な女が多かったって。ちょこんと座って三味線なんかつま弾いたりしてさ。だからついつい「矢場の女」に会いたくて、通ったりなんかするというね。

それが、時代が変わって明治大正、ミルクホールの時代になるとビリヤード場なんかになる。「何点何点~」って点数を読む女が出てきたりね。ビリヤードだから「撞球の女」だ。古いねどうも。結局、男が外に出て行きたくなる場所ってのは、昔からいい女が付きものってことだよ。

今の時代ならなんだい? 秋葉原のメイド喫茶? アイドルの握手会? あんまり金がかかるのは勘弁だよ。いい女をいかにして社会に活用するか。ハローワークの受付にいい女を並べたら、世の中動くんじゃないか?(笑)

引きこもり体質は日本人が太古から受け継ぐ個性?

ちなみに引きこもりの問題って海外ではどういう状況なのかな。そこにつながりそうな話があるんだけどね。日本ではさ、子どもがワルさをしたときに家から表に締め出してカギかけちゃって家の中に入れない、っていうお仕置きがあるよな。すると子どもは「エーン!」って泣いて「ウチに入れてー」と謝るんだ。そういう習慣が古くからあるよ。

これを聞いた欧米人が不思議に思ったって。そんなことで子どもを家の外になんか出したら、そのまま子どもは喜んで、とっとと遊びにいっちゃう、ちっともお仕置きにならないよって・・・。

この話から、日本人はもともと家の中にいることが主なことで、欧米人は家の外にいることが主なことなんだって分けられるよね。するとこれ、定まった場所から動かない農耕民族と、移動を常とする狩猟民族のDNAがそれぞれに脈々と・・・みたいな話になってくる。

もし、日本人に「引きこもり体質」があるとしたら、そういうことにもちなんでいるのかな? って考えちゃうんだ。そうすると、どっちがいいワルいの問題ではなく、これは太古から受け継ぐ民族の「個性」なのかなって。

そう考えると、日本人の引きこもりって昔っからあるよ。ほら、「男はつらいよ」で寅さんが啖呵を切ってたろ、「物の始まりが一ならば、島の始まりが淡路島。泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、博打打ちの始まりは熊坂の長範(ちょうはん)。引きこもりの始まりが天照大御神(あまてらすおおみかみ)ときたもんだ」って。あ、最後の天照大御神は言ってねえや、俺が付け足したんだ、アハハハハ。

かの「古事記」をひもとけばだな、太陽の神様である天照大御神が色々あって怒っちゃって、天岩戸(あまのいわと)という洞窟に引きこもる。するとこの世から太陽が消えて真っ暗になる。食べ物が育たない、病気がはびこる、大変になる。八百万(やおよろず)の神が集まって策を講じる。天鈿女命(あめのうずめのみこと)が舞い踊って、神々は宴会でどんちゃん騒ぎをする。外が楽しそうだと天照大御神が外の世界を覗く。そこを引っ張り出して世に太陽が戻ってくる、というね。

古事記に学ぶなら、引きこもりをどうにかするには、やはり表に出たくなる楽しい場を作るってことだな。古典は奥が深いよ。令和で万葉集に注目が集まってるけど、古事記も再注目だな。

(取材構成:松田健次)