「あの人には注意したほうがいい」部下をメンタル不調に追い込むヤバい上司がよく使う言葉3つ
■信頼? 実は単なる無責任
「いい上司かヤバい上司か」は、見た目だけでは判断がつきにくいものです。しかし、メンタルヘルス不調を抱える部下の上司には傾向があります。その傾向が一番表れやすいのが、言葉です。次の3つの言葉をよく口にする上司には、注意してください。
(1)「君に任せるよ」
上司にこう言われると、信頼され、認めてもらっている印象を持ちますし、仕事の裁量権を与えてもらってうれしくなるかもしれません。もちろん、任されて何の問題もなくうまくいけばいいのですが、問題なのは、うまくいかなかったときです。
本当に信頼して任せている上司もいるかもしれませんが、中には「君に任せるよ」と言うことで、すべての責任を部下に押し付けようとする上司もいます。その場合は、部下がつまずいたりピンチに陥ったりして相談すると「いや、全部任せているんだから、最後まで自分やって」と、まったく助けてくれないことがあります。
トラブルで謝罪する時にも、「うちの○○がミスをして申し訳ありません」と、部下の責任を強調するような謝り方をしたりします。つまりこうした上司にとって「君に任せるよ」という言葉は、部下に全部丸投げして責任転嫁するためのものなのです。これでは部下はたまりません。
いい上司というのは、部下がどんな結果を出しても、すべて自分の責任と受け止めて、いっしょに乗り越えていこうと言える人のはず。しかし、「任せるよ」という言葉を安易に受け止め、「いい上司だな」と油断していると、最後に手のひらを返される可能性があるわけです。
対策としては、とにかく“報・連・相”をした証拠を残しておくことです。電話や口頭で指示されたことも、あとで「先程、指示された○○については、○日までに終えて確認していただくようにします」など、指示された内容、自分が取ろうとしている行動の方向性や内容を記録し、メールやチャット、文書にして残しておくことです。あとから「そんなことは聞いていない」と上司に言わせないために、しっかりと対策をとっておきましょう。
■励ましがプレッシャーに
(2)「このつらさを乗り越えたら成長できるから」
これも一見、聞こえのいい言葉です。励まされている気もしますし、これで頑張れる人もいるかもしれません。言っている方も、まったく悪気はないかもしれません。しかし、これを聞いた部下のなかには、「じゃあ、このつらさを乗り越えられなければ、成長できないダメな人間ということになるのか」と受け取り、プレッシャーを感じてしまう人もいるのです。
こういった言葉を簡単に口にしてしまう上司は、おそらく過去にいろいろなことを乗り越えてきた優秀な人、仕事ができる人なのでしょう。だからこそ、上司になれたのかもしれません。しかしその一方で、部下のキャパシティや得手不得手、プレッシャーやストレスへの耐性がどれくらいなのかについて、考えが及ばない上司がたくさんいます。「自分ができたのだから、この部下もできるだろう」と、ふつうに思ってしまいます。まだ自分ほどには力を持っていない人たちに対する、想像力や共感力が欠けているわけです。
こうした、想像力が欠けた上司にあたってしまうと、部下としては非常につらい。自分の許容範囲の限界に達していて、これ以上はもう頑張れないほどなのに、上司の方では、それ以上に頑張って乗り越えるのが当たり前だと思っている。部下の逃げ道をふさいでしまい、メンタルヘルスの面でもちょっと危険です。
■常に自分の状態を把握しておく
対策は、まず自分の心身の状況を把握し、キャパオーバーになっていないか常に気を付けておくことです。このタイプの上司は、悪気があって言っているわけではないので、相手を変えるのは難しい。自分の受け止め方を変えるしかありません。
常に、自分がどれくらいストレスを感じているかを把握し、いつアクセルを踏み、いつブレーキを踏むのか、自分で判断しましょう。
その判断基準となるのが「食べる」「寝る」「遊ぶ」の3つです。食欲が湧かない、反対に過食になっている、夜になっても全然寝つけない、眠りが浅くて夜中に目が覚めてしまう、遊びに行く気がしない、または遊びに行っても全然楽しくない、普段の状態と比べて、そういった変化が起きていると感じたときは、ブレーキを踏むべきときです。
上司が想像力欠如型の場合は、決して励ましの言葉に流されず、自分の体調を優先させてください。この手の上司は熱心で真面目な人が多いので、自分で行動を起こさないと、休むことすら難しくなります。「期待には応えられそうにありません。ちょっと体調が悪いので休ませてください」と伝えないと、ますます調子が悪くなってしまいます。すでに体調をくずして仕事に影響が出ているなら、躊躇なく精神科や心療内科の扉を叩いてください。
■人間関係のトラブルに巻き込まれてしまう
(3)「あの人には注意したほうがいい」
社内の人間関係には、派閥があったり、裏ボス的な存在がいたり、ぱっと見ただけではわからないことがたくさんあります。そこで身近な上司から「あの人には注意したほうがいい」と教えてもらえると、確かに助かることも多いでしょう。
しかし、よくよく聞いてみると、単に噂好きだったり、ライバルの評判を落とそうとしているだけだったり、自分の派閥に引き込もうとしているだけだったりといった理由でそうした情報を伝えている人も少なくないようです。
まったく悪気がなく、親切心から言っているだけのこともあるかもしれません。しかし、それをあまり真に受けてしまうと、あなた自身もそうした派閥の一員と取られたり、一緒に悪口を言っているかのように見られ、職場での立場が悪くなる可能性もあります。社内の人間関係を複雑にしてしまい、トラブルに巻き込まれることもありますし、ストレスを生んでしまいます。
■耳打ちにはノーリアクションで
こうした上司に対処するには、興味のないふりをするのが一番です。上司が部下のあなたに求めているのは「そうなんですか。知りませんでした」「教えてもらってありがとうございます」といったリアクションです。「相手が知らないことを教えてあげた」という優越感や、「感謝してもらえた」という満足感がほしいのです。ですから、相手に肩透かしをくらわせるぐらいに、関心を見せないでいるのがよいです。
上司が話し始めても、パソコンの画面から視線を離さず作業を続けたり、スマホを見たりしながら、「へえ、そうなんですね」ぐらいの反応にとどめておきます。期待していたリアクションがないことがわかれば、相手もいずれ、「打っても響かないやつだな。こういった話をしても意味がないな」とあきらめるでしょう。
3つのタイプの上司を紹介しました。いずれも悪気はなく、一見いい上司に見えますが、うまく対応しないとストレスの源になり、自分の心身の健康を損なうことにもなりかねません。また、こうした上司は仕事ができる人であることも多く、部下から指摘して行動を変えてもらうのも難しいでしょう。ですから、いかに自分が防御力を高めて、うまく立ち振る舞うかといった発想が大事になります。ぜひ参考にして、メンタルヘルスの不調に追い込まれることのないよう、気を付けていただきたいと思います。
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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)