KDDI、楽天ローミングで通信料減収をカバー、値下げでも増収増益の構図（石野純也）
KDDIは、1月28日に第3四半期の決算を発表しました。
21年は大幅な料金値下げに踏み切ったこともあり、業績の落ち込みも予想されましたが、第1四半期からの合計では増収増益を記録しています。値下げ影響が直撃しそうな「モバイル通信料収入」の営業利益も、プラス70億円とかろうじて増加しています。一方で、内訳を見ていくと、理由が特殊要因であることがよく分かります。
その要因とは、楽天モバイルからのローミング収入にほかなりません。モバイル通信料収入全体では上記のように確かにプラスになっていますが、au、UQ mobile、povoの3ブランドを合わせた「マルチブランド通信ARPU収入」は564億円の減収。これが値下げの影響を端的に示した数値と言うことができます。
代わりにプラスになっているのが、「グループMVNO収入＋ローミング収入」です。グループMVNOとは、BIGLOBEモバイルやJ:COMモバイルといった、KDDI傘下のMVNOが稼ぎ出している収益のこと。ローミング収入とは、楽天モバイルや海外ローミングを受け入れた際に得られる収益です。コロナ禍で訪日外国人はほとんどいないため、実質的にここは傘下のMVNOと楽天モバイルから得られた収益と考えることができます。
この「グループMVNO＋ローミング収入」が、634億円と大幅な増収になり、マルチブランド通信ARPU収入の落ち込みをカバーしています。自社のサービスから得られる収入が少なくなったぶんを、傘下のMVNOや楽天モバイルからの収入で補ったという構図です。
差し引きすると、上記のように70億円の増収になり、その影響の大きさがうかがえます。グループMVNOへ貸し出す際の接続料も合わせて値下げしていることから、このほとんどがローミング収入と見てよさそうです。
実際、KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏も、「具体的な内容は開示していない」としながら、「その多くがローミング収入」と語っています。楽天モバイルは、21年10月にローミングを終了させる地域を一気に拡大し、39都道府県を自社回線で提供しています。にも関わらず、10月から12月の第3四半期も「ローミング収入は増えている」（同）といいます。
原因の1つは、「楽天のエリアが70%に達していない（ためにローミングが続いている）県が8県ある」ことです。
この8県以外でも、地下街やビル内などは、一部ローミングを提供しているため、楽天モバイルのユーザー数の増加にローミングエリアの減少のペースが追いついていない可能性もあります。
一方で徐々に、楽天モバイルの自社回線のエリアが広がっているのは事実。その意味では、第3四半期もしくは次の四半期を境に、ローミングは徐々にピークアウトしていくことになりそうです。
高橋氏も同様の見解で、「ローミングは25年に向かって徐々に落ちていく」と語っています。楽天モバイルのKDDIローミングは26年3月31日までと定められているため、遅かれ早かれ、4年後にはこの収入がゼロになるのは間違いありません。
KDDIにとっては、期間限定の“臨時収入”と言えるでしょう。高橋氏は、ローミング提供決定時に、「仮に我々が断っても、他社と提携してしまうんだろうなという思いがあった」と語っていましたが、この判断が奏功した格好です。
KDDIにとっては収入ですが、楽天モバイルの立場から見ると、これはすべてローミングコストということになります。ユーザー数の伸びに従ってローミングコストは増していくばかりなので、いち早く打ち切りたいと思うのは自然な流れと言えるでしょう。同社の第4四半期決算発表は2月14日の予定でまだ詳細は判明していませんが、ローミング費用がかさんでいるため、今期も楽天モバイルは大幅な赤字になっているはずです。
ローミング収入の下支えがあったことで、KDDIは「3Gの終了を他社よりかなり早く実行できた」（同）といいます。3月いっぱいで3Gを終了させることで、「償却費用やオペレーションコストが減る」（同）ため、トータルでコストを削減できます。
結果として、「楽天からのローミング収入を十分補える」形に着地する予定だといいます。ローミングで臨時収入を稼ぎつつ、3Gの終了を巻き上げて、それを補うだけのコストダウンを図るというのがKDDIの戦術だったと言えます。
元々楽天モバイルは、KDDIのローミングを2GBに制限する予定でしたが、ユーザーから不評の声が多かったこともあり、本格参入時にはこれを5GBに拡大しています。
また、容量超過時の速度も、128Kbpsから1Mbpsに高速化しました。KDDIのエリアでより多くのデータ容量を使える環境を、自ら整えてしまったというわけです。
ユーザー視点ではその施策で楽天モバイルの魅力が増したのは事実ですが、自社エリア拡大ともにローミングの容量を段階的に減らしていくといった対策を打った方がよかったのかもしれません。
