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多くのマンションは駐車場を所有し、使用者が使用料を負担する仕組みにしていますが、空いているケースも見られます。駐車場からの収益は管理費に充当することが望ましいとされており、空きがでることで、管理組合の収入が減り、管理費の値上げを迫られることも。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞事例の中から、駐車場の収益改善で、管理費の値上げを阻止した成功事例を紹介します。

車所有者が年々減少。駐車場の空き問題が管理組合の財政を圧迫

公共交通機関が充実し、カーシェアリングの普及が進む都市部のマンションでは、車を所有する人が減少し、マンションの駐車場の契約者が減る傾向があり、駐車場使用料の収入減につながっています。さらに、機械式駐車場などメンテナンスコストや修繕費が計画当初よりも値上がりすれば、想定外の経費が増えることに。管理組合の財政を圧迫し、管理費の値上げを迫られる場合があるのです。

空き駐車場問題に直面したマンションの管理会社は、様々なノウハウを活かし、駐車場の維持管理費の削減や使用料金の収益改善の提案をしています。「住み心地の向上」や「建物の適切な維持・管理」の優れた事例やアイデアを募集する「マンション・バリューアップ・アワード2020」(マンション管理業協会開催)を受賞した管理会社に、経緯と成功のポイントを聞きました。

タワーマンションの空き駐車場問題を、区画改修で改善

財政部門(組合財政の健全化)の部門賞を受賞したのが、住友不動産建物サービスが管理している東京都港区のタワーマンション「ワールドシティタワーズ」の事例です。4年前より「ワールドシティタワーズ」の担当になった営業所長の友光学さんは、着任早々さまざまな課題に直面しました。

「消費税増税による支出増加や人件費の高騰などで管理組合の支出が大幅に上がってしまい、このままいけば、管理費の値上げは避けられない状況でした。管理費を上げずにいかに諸問題に対応できるか、2017年1月頃からさまざまな検討をはじめました」(友光さん)

総戸数2000戸を超える「ワールドシティタワーズ」(画像提供/住友不動産建物サービス)

マンションの駐車場の空き問題は管理組合の収入減に直結するため、理事会の悩みの種になっている(画像提供/住友不動産建物サービス)

助成金や補助金を活用し、共用部分の照明のLED化やテレビブースターなど共聴設備更新工事などの経費削減を進めながら、倉庫を賃貸化して収入を得たり、資源ごみの買取りによる収益改善策を講じました。さまざま検討を重ねるなかで、着目したのが、駐車場の待機者リストでした。

「1302台の駐車場区画には平置きと機械式駐車場があります。機械式駐車場には、車高、車幅、車長の異なる様々なタイプのパレット(1台分の駐車スペース)がありました。そのなかに人気のあるパレットと人気のないパレットがあることに気づきました。平置き及び特大駐車場は満車で、1台目の待機者が36名もいることに着目。人気なのは、車幅1950cmの大きな外車が入れられるパレット。人気のないパレットをつぶして人気のあるサイズにできないか。そこから、駐車場の区画改修の検討が始まりました」(友光さん)

機械式駐車場のメーカー、住友不動産建物サービスの技術担当者と何度も打合せを重ねた結果、設備的な問題点をクリアし、1つの駐車場の設備あたり5000万円の改修費用が発生する見積りが出ました。

「待機者リストには2種類ありました。現在、マンションの敷地外に借りている人で一台目を駐車するため待っている人、マンションの駐車場を借りてはいるが、大きなパレットに移動したい人です。マンションの駐車場を借りてくれれば、その分が管理組合の収入増になります。その場合の使用料を計算すると、5000万円が8年位で回収できると試算。管理組合にメリットがあると判断し、理事会に提案しました」(友光さん)

理事会はすぐに提案を承認し、駐車場の区画改修プロジェクトが開始しました。

友光さんは、2年前から担当に加わった岩佐淳史さんと協力しながら、コツコツとデータを集め、わかりやすいプレゼン資料を作成。居住者のメリットが伝わり、総会ではスムーズに可決されました。プロジェクト開始前の検討期間を入れると、工事完了までに3年がかかりましたが、1302台のうち元々321台あった空きを、改修後は、201台の空きに減らすことができたのです。

「年間約1600万円の駐車場使用料の増収が見込まれています。改修工事だけで120台減ったとは言えませんが、空き問題を解決するだけでなく、待機者のニーズを満たせて、居住者の利便性向上にもつながったと思います」(友光さん)

管理会社の経験を信頼して、一緒にマンションの資産価値を守る

今回の事例が成功した背景のひとつとして、友光さんは、4年前からはじまった住友不動産建物サービスの「現場密着型の管理」を挙げます。

「担当者は基本的にマンションに常駐するようになり、居住者の方と近い感覚を持てるようになりました。雑談のなかで、マンションの困りごとを直接聞けるようになったんです。理事会との関係性も格段に良くなりました。今まで引き出せなかった問題を知ることで、会社にストックされたノウハウや個人の経験から改善策が導かれていく。良い循環が生まれるようになりました」(友光さん)

友光さんと岩佐さん。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞で、「居住者からの感謝の言葉が何よりうれしかった」と言う(画像提供/住友不動産建物サービス)

契約者が年々減少。機械式駐車場の平面化で解決

駐車場の空き区画問題の解決策のひとつとして、「平面化工事」があります。平面化工事とは、機械式駐車場を砕石等で埋め戻し、アスファルト舗装等で仕上げをしたり、機械式駐車場を撤去したあとに鋼板スラブを設置する工事のこと。機械式駐車場の利用者の減少に合わせて台数を減らすことができ、メンテナンスコストや修繕費用を削減する目的で行われています。

大和ライフネクストが管理する総戸数42戸の大阪市内のマンションは、「平面化工事」の成功事例として、「マンション・バリューアップ・アワード2020」財政部門で佳作を受賞しました。担当したマンション事業本部の竹ノ下巧さんに平面化に至るまでの経緯を聞きました。

当時、築24年を迎えたマンションは、年々駐車場の空き区画が増えている状況でした。そして、2020年4月に、ある所有者が複数の駐車場区画を全て解約したため、駐車場35区画のうち空きが14区画に。マンションの収入が著しく減少する事態になりました。

「解約の書面を受け取ってすぐに、理事会に報告し、管理費を値上げするか、それとも他の方法があるのか検討しました。実は、マンションは、その前年に、修繕積立金の改定を行ったばかり。さらに、管理費を上げるのは居住者の理解を得られないと思い、何とかしなければという気持ちでした」(竹ノ下さん)

駐車場を借りたい方がいない状況を受けて提案したのが、機械式駐車場の平面化です。マンション所有の二段式機械式駐車場のうち一部を平面化することで、無駄な区画を削減し、機械式駐車場の維持費用の削減を試みました。

駐車場の解約による収入減は、約60万〜75万円/月で、その分が管理費の値上げになってしまいます。理事会に提案したのは、35台分ある機械式駐車場の一部18台を800万円の工事費用をかけて埋め戻し、平置き駐車場9台に改修するというもの。その結果、機械式駐車場の維持メンテナンス費用を40%ほど削減できる計算です。

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大和ライフネクストの事例では、2段式駐車場の一部である18台を平面駐車場9台に変更した。写真と本文とは関係ありません(PIXTA)

プロジェクトが始まり、竹ノ下さんは、大和ライフネクストの工事部と相談しながら提案資料を作成。保守費用、機器類交換、撤去・平面化の費用など今後30年間のシミュレーション等をつくりました。

そして、埋め戻しをするスペースの契約者で改修後は場所を移動する予定の居住者の家を訪ね、一人一人に説明。さらに、総会の前に住民アンケートを実施しました。このままでは、管理費の値上げになること、そのために、800万円を使って改修工事をすることについて賛否を問うことに。結果は8割が賛成でどちらともいえないが2割。反対者はいませんでした。埋め戻しと料金改定の2つの軸をしっかり切り分けた提案が理解され、事前説明のかいもあって、1回の総会で無事可決。工事までにかかった期間は約1年でした。

2021年に実施された改修工事により、将来見込まれていた機械式駐車場のメンテナンス費用が減り、金額にして今後30年間で約3000万円のコスト削減ができました。8年ほどで800万円の工事費用を回収でき、修繕積立金の負担が約2200万円軽減されることとなったため、管理費値上げ分とほぼ相殺できました。

竹ノ下さん。いちばん苦労した点は、「総会をスムーズに通すための下準備」。居住者の不安を解消する提案を心がけた(画像提供/大和ライフネクスト)

管理組合、管理会社両方にメリットがある提案を常に探る

経営企画室の金坂将史さんは、機械式駐車場そのものが悪ではなく、時代のトレンドにあった収益改善・経費削減が必要と言います。

「そもそも40年前は、平置き駐車場が多かったんです。その後普及した機械式駐車場は、狭いスペースでも数を確保でき収益が出る計算で取り入れられた商品でした。しかし、時代が変わり、住民の高齢化や社会的な車離れによって、駐車場利用者が減り、空き駐車場に悩むマンションが増えてきました。大和ライフネクストが管理している全国のマンションでも5年ほど前から平面化の波が来ています。更新工事は、長期修繕計画に入っていますが、平面化はそこにないイレギュラーな工事。建物担当が注目していないとできない提案です」(金坂さん)

大和ライフネクストでは、2021年10月に空き駐車場課題解決に特化した組織を立ち上げ、11月より「駐車場診断」「駐車場サブリース」のサービス提供を開始しました。大和ライフネクスト管理受託マンションを中心に、管理受託外マンションやビル等建物の駐車場にも対応しています。

「収益化をやりたいという声は居住者からはなかなか出ないので、管理費の改善をするなかで、提案することが多いですね。経費削減や収益が上がる提案をしないと管理会社として生き残っていけないと考えています。管理組合、管理会社双方にメリットがあり、管理組合にとってリスクの少ない提案が、他社との差別化にもつながります」(金坂さん)

管理組合が抱える空き駐車場問題に、管理会社は、マンション管理のプロとして挑んでいました。管理組合と管理会社が垣根を越えて、お互いをパートナーとして信頼できれば、様々な問題の解決が早まりそうです。あなたのマンションでも、もしかしたらここ何年かで駐車場利用率に変化が起きているかもしれません。着目し話し合ってみてはどうでしょうか。

●取材協力
住友不動産建物サービス株式会社
・大和ライフネクスト株式会社
●参考
マンションバリューアップアワード(一般社団法人マンション管理業協会)


(内田優子)