富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)の「FMV LIFEBOOK MH」シリーズは、14型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。家の中での持ち運びを想定したモデルで、“使う場所を選ばない”をコンセプトに掲げている。

見やすい大画面ディスプレイを採用し、サイズとレイアウトに余裕のある使いやすいキーボードを載せ、高い処理能力を持たせながらも、本体の重さを軽くして部屋の外にも持ち出しやすくするなど、「どんな用途にもひと通り対応できる」汎用ノートPCという位置づけの製品だ。

使いやすいキーボードに注力したLIFEBOOK MH


店頭モデルのラインナップには、CPUにIntel Core i7-1165G7を採用する「MH75/F3」と、AMDのRyzen 5-5500Uを採用する「MH55/F3」を用意する。

Web直販の富士通WEB MARTにおける価格はMH75/F3が17,0280円、MH55/F3が131,780円だ。

それぞれのスペックはCPU以外にストレージの容量(MH75/F3が512GB、MH55/F3が256GB)、無線LANの仕様(IEEE802.11axでMH75/F3が2.4Gbps対応、MH55/F3が1.2Gbps対応)、バッテリー駆動時間(MH75/F3が約14.8時間、MH55/F3が約12.5時間)などが異なる。

しかし、システムメモリの容量、ディスプレイ解像度、本体搭載インタフェース、キーボードレイアウト、本体サイズに重さなど、ほとんどの主要仕様は共通だ。

今回のレビューでは、上位構成のLIFEBOOK MH75/F3の使い勝手を評価していこう。

落ち着いたピクトブラックを施したボディカラーでビジネス利用でも違和感ない


打ちやすさのために工夫を凝らしたキーボード

MH75/F3の本体サイズはW323.8×D216×H19.9mm、重さが約1.3kg。14型ディスプレイ搭載モデルとしては競合他社製品とほぼ同等だ。

例えば“グループ企業”の同価格帯モデルで比較するとレノボ・ジャパンのThinkPad T14sでW327.5×D224×H16.1mm、NECパーソナルコンピュータのLAVIE N14でW327×D225.7×H19.2mmなので、これらと比べると幅×奥行きといった“フットプリント”は一回り小ぶりだ。

重さをそれぞれ比べると、LAVIE N14の約1.47kgより軽く、ThinkPad T14sの1.28kgよりわずかに重い。エントリー価格帯の14型ディスプレイ搭載モデルの多くが1.4キロ台であることを考えると、MH75/F3はコンパクトなボディで軽めのモデルといっていいだろう。

今回使用した評価機の重さは実測で1,292gだった


ディスプレイサイズは14型で最大解像度は1,920×1,080ドット。光沢パネルなので色彩は明瞭だが周囲の映り込みが気になるかもしれない


コンパクトなボディ、となると気になるのがキーボードの使い勝手だ。幅を詰めた見返りにキーピッチサイズを狭めにする、もしくは、キーピッチを確保する代わりにレイアウトがトリッキーになってキー運指に無理がでる、というケースも少なくない。

幸いにしてMH75/F3のキーボードレイアウトで特に無理な配列は見当たらない。一部のキートップの幅を極端に狭めることもなく、アイソレーションタイプのキーボードにありがちな(特にボディパーツを世界共通で調達することが多いPCベンダーにありがち)1つのキートップ枠を複数のキーで分割していることもない。

カーソルキーを配置した右下エリアは、半段分はみ出して配置することで、ブラインドタイプにおける他のキーとの識別を容易にしている。それでいてキーピッチは19ミリ(キートップサイズは実測14.5ミリ)を確保する。

キーピッチ19ミリを確保しつつ無理のないレイアウトを実現したキーボード


キーストロークも1.7ミリを確保しており、実際にタイプするとキーを押し下げる動きを明確に認識できる。

FCCLの説明によると、高レスポンスタイプのキーボードを採用しており、最下部まで押し切る前の段階でタイプを検出して、軽い力によるタイプや十分にキーボードを押し切れないことが多い高速タイピングでも、確実に入力を認識できるとしている。

実際に評価機をタイプしてみると、その感触は軽めで、(自分としては)高速でタイピングしても押したキーは確実に認識されていた。それだけに、他のキーボードなら「あっぶねー、打ち間違えるところだった」と押し切る直前に力を抜いて誤入力を回避できたであろう場合でも(繰り返しになるが自分としては)「軽く触れただけなのに拾うなよ〜」となってしまうことが稀にあったことは触れておきたい。

さらに、FCCLの説明によるとキートップの押し下げ力設定は、使うであろう指の種類に合わせて2種類に分けているという。具体的には小指で使うことが多い左右両端のキーと日本語入力における変換動作で多用するスペースキー、Enterキー、そして、無変換キーと変換キーを、他のキーと比べてタイプに要する力を軽くしている。

こちらも実際にタイプしてその違いを確認してみると、たしかにこれらのキーは軽くタイプできる。ただ、元々軽い押し心地であるのに加えて、先に述べたような高レスポンスタイプのキーであることもあって、集中してタイプをしているとその違いを認識することはほとんどなかった。

キーボードでは、この他にもキートップに傾斜(奥側が下がるように)をかけてキーボードの段列を認識しやすくしたり、凹状の球面にして疲れにくくしたりと、快適なキータイプへのこだわりが感じられる。

キートップには傾斜を設け、かつ、表面を凹面形状としている


日本の利用環境を考慮したインタフェース

本体に搭載するインタフェースは、USB 3.2 Type-Cを1基としている代わりに、USB 3.2 Type-Aを3基も用意している(1基はパワーオフUSB充電機能に対応)。

このほかにも、最近のノートPCでは採用例が少なくなってきたHDMI出力(Standard A)やSDカードスロットも備えている。ただし、有線LAN用のRJ45は載せていない。無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6(2.4GHz対応)とBluetooth 5.1を利用できる。

左側面にはHDMI出力、USB 3.2 Type-A、USB 3.2 Type-C、SDカードスロットを設けている


右側面にはヘッドホン&マイク端子、USB 3.2 Type-A×2を備えている


正面


背面


ディスプレイの最大開度は机面に対して実測で約150度。ディスプレイを開くとキーボード側本体が浮き上がるリストアップ機構を備えている


本体にはディスプレイ上側にカメラを内蔵。720p対応で有効画素数が約92万画素、ステレオマイクを組み込んでいる。

また、他のFCCLノートPCと同様にAIエンジンを活用したノイズキャンセリング機能を導入して、テレビの音やキーボードのタイプ音、ペットの鳴き声など周囲の環境雑音を取り除きつつ、内蔵マイクの指向性を、周囲にいる人の声を抽出するモードと、PCの前にいる人(内蔵マイクに向かって左右30度の範囲)の声だけを抽出するモードに切り替えることが可能だ。

ディスプレイの上脇にカメラとステレオアレイマイクを備えている。カメラには物理カバーを備えていない


新たな「家ナカ」14型ノートPC、実力はいかほど?

今回評価した試用機はCPUにCore i7-1165G7を載せた上位構成となる。この上位構成の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 7.0.0 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。

なお、比較対象としてCPUにRyzen 5 PRO 4650U(6コア12スレッド、動作クロック2.1GHz/4GHz、L3キャッシュ容量8MB、統合グラフィックスコア Radeon Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 256GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

CPU-Zで表示したCore i7-1165G7の仕様情報


CPUに統合したグラフィックスコア「Iris Xe Graphics」の仕様情報をGPU-Zで表示する


PCMark10において、ともにCPU処理能力のウェイトが高いEssentialとProductivityのスコアでは、EssentialでMH75/F3が優勢ながらProductivityで下回り、グラフィックス処理のウェイトが高いDigital Content CreationのスコアではIris Xe Graphicsを組み込んだMH75/F3が、Radeon Graphicsを統合したRyzen 5 PRO 4650U搭載モデルを上回った。

CINEBENCH R23では、12スレッド対応のRyzen 5 PRO 4650U搭載モデルが上回るものの、シングルスレッド測定では、動作クロックで優れるCore i7-1165G7を搭載するMH75/F3が高い値を示した。

また、ゲームベンチマークテストの3DMark、ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズのスコアはいずれもMH75/F3が大きく上回った。

一方でストレージの転送速度を評価するCrystalDiskMark 7.0.0 x64では、シーケンシャルリード、シーケンシャルライトともに比較対象ノートPCを下回った。これは、ストレージの接続規格がどちらもNVM Express 1.3(PCI Express 3.0 x4)であるものの、比較対象ノートPCで載せているSSDがMicronの高速モデル「MTFDHBA512TDV-1AZ15AB」であったのに対して、MH75/F3で載せているSSDがSAMSUNGでミドルレンジモデルの「MZVLQ512HALU-00007」であったことが影響していると思われる。

なお、FCCLの公式データでは、MH75/F3のバッテリー駆動時間はJEITA 2.0の測定条件で約14.8時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値で49,190mAhだった。

バッテリー駆動は8時間半、動作音はほどよく静か

バッテリー駆動時間を評価する、PCMark 10 Battery Life benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは8時間25分(Performance 4692)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。

また処理能力の評価と合わせて、本体から発生する騒音と、使用中に影響するボディ表面の温度も確認してみた。

表面温度の評価では、電源プランをパフォーマンス優先に設定して、3DMark NightRaidを実行。CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パームレスト左側、パームレスト右側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した。

騒音の評価も同様に、3DMark NightRaidを実行中に騒音計で測定した。

ホームポジションのキートップとパームレストの表面温度では、Fキーが35.7度まで上がった程度で、総じて体温より低い温度に収まっている。

底面では、最も温度の高いところで45.5度と、低温やけどのリスクがあるとされている45度前後(日本創傷外科学会のHPより)まで上がったが、ごく狭い範囲(背面に近い中央部)にとどまった。衣服の上から本体を載せて使うなら、長時間にわたっても問題ないだろう。

ファンが発する音量も、測定値としては45dBAとなったものの、その時間は短くすぐに40dBA前後に下がっている。音域もあまり高くないので不快な音ではない。静かな図書館やカフェなどでも、電源プランを「パフォーマンスに最適」にした状態で使用できそうだ。

ACアダプタは左側面奥の専用端子に接続する。標準付属のACアダプタのサイズは105×44×29ミリ。重さはコード込みで実測289グラム。出力は9Vで3.42Aだ


ノートPCの画面サイズをどう選ぶのか? といったとき、14型ディスプレイのノートPCは、使い勝手を重視したディスプレイサイズとキーボード、多様なインタフェースを搭載しつつ、外に持ち出して使う携帯性も考慮した汎用多目的ノートPCとして選ばれるケースが多い。

その観点で評価すると、LIFEBOOK MHシリーズは14型ディスプレイ搭載モデルとしては平均的な重さながら処理能力は高い。かつ、使いやすさを訴求するキートップ形状と、十分なキーピッチ・ストロークを確保したタイプしやすいキーボードを備えている。

日本のビジネスシーンでは依然として需要が多いUSB Type-Aを潤沢に搭載するMH75/F3(そしてボディ仕様が共通するMH55/F3も)は、家を中心としたハイブリッドワークで使えるノートPCとして、有力な選択肢といえるだろう。