マイクロソフトの2画面スマートフォン「Surface Duo 2」は、SF小説『デューン 砂の惑星』を読むには最適である。このデヴァイスを使っていたほとんどの時間を、この小説を読んで過ごしていた。それに自分の年齢の割には、「TikTok」の動画もたくさん観たように思う。Surface Duo 2の画面全体に広がるこの中毒性の高いアプリのおかげで、2画面であることの価値が“あと少し”で証明されそうだった。

「マイクロソフトの2画面スマートフォン「Surface Duo 2」には、海に投げたくなるほどのわずらわしさがある:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

ある日のディナーの席では、Surface Duo 2の片面でメニューのQRコードを読み込み、もう片方の画面でワインのボトルを調べた(このときはウェイターが興味深そうに「これは何か」と尋ねてきた。マイクロソフトの新しい折り畳めるスマートフォンだと答えたあと、価格は1,500ドル[日本では18万4,580円から]と付け加えると興味を失ったようだった)。

Surface Duo 2が会話のきっかけになることは間違いない。そしてこれは、折り畳みスマートフォンの未来を垣間見せてくれる存在でもある。だが、インターネットを閲覧したり、電話を受けたり、「Slack」でやりとりをしたり、「Zoom」で会議したりといった普段はスマートフォンでしていることが、このヒンジ付きの2画面スマートフォンではうまくできなかった。

Surface Duo 2を最も自然に使えたのは、くつろいだ姿勢で小さめの本のように手に持って読書していたときだろう。形状が小さめの本によく似ているからである。そう、Surface Duo 2は非常に素晴らしく非常に高価な「Kindle」の代替品になるのだ。ただし、それ以外の用途には向いていない。

スマートフォンらしさが出た

Surface Duo 2は、ふたつの画面を360度動かせるヒンジでつないだ手帳型スマートフォンである。2020年に登場した「Surface Duo」の後継モデルだが、初代の評価は散々なものだった。その後、マイクロソフトにはあらゆる欠点を修正する時間があったと言えよう。そして実際に一部は修正された。

一例を挙げるなら、Surface Duo 2が紛れもなく「スマートフォン」になった点だ。初代Duoを発表したとき、マイクロソフトはこの製品をスマートフォンという名で呼びたがらなかった。新しいカテゴリーのデヴァイスとして位置づけたいと考えていたからだろう。

しかし、新しいSurface Duo 2は5G通信に対応したほか、初代にはなかった背面カメラも搭載された。それに必ずとは言えないものの、たいていの場合はポケットにも収まる。

サムスンなどの他メーカーが出している折り畳みスマートフォンは、ディスプレイの物理法則を無視している。スマートフォンを広げてタブレット端末のような形にしたとき、ポリマー層がヒンジを覆うように伸び、(凹みはあるが)ひとつの途切れのないディスプレイになるのだ。これに対してSurface Duo 2は、ひと目見ただけでディスプレイが分割されていることがわかる。マイクロソフトがこのデザインにこだわった点は称賛に値する。

Surface Duo 2のOSは「Android 11」(20年リリース版)なので、グーグルの主要なアプリは最初から入っている。「Google Play ストア」のアプリもすべてダウンロードできるが、マイクロソフトは自社の「Office」シリーズを最も推しているようだ。

アプリのなかには両画面に広がるものもあるが、ほとんどの場合は異なるふたつのアプリを1画面ずつ表示することになる。例えば、片方にはカレンダーを表示し、もう片方にはSlackを表示する。あるいは片方でメールの受信箱を開き、もう片方でメール作成のウィンドウを開く。「Twitter」の画面の反対側に、ツイートする前に読んでおいたほうがいいニュース記事を表示する。「Google ドキュメント」にはこの悩ましいスマートフォンのレヴューに関するメモを書きとめ、もう一方の画面に表示された「Microsoft Teams」でマイクロソフトの幹部たちに7つの質問を投げる。ワーク・アンド・プレイ、ワーク・アンド・ライフのバランスをとれるわけだ。

スマートフォンアプリの外側に存在する現実世界では、仕事と生活の境界線が不快なほど曖昧になっている。こうしたなか、Surface Duo 2は明確さやフロー状態、画面の下からスワイプしてアプリをいちいち切り替えるわずらわしさからの解放を約束しているのだ。とはいえ、ときに反応が鈍くなるタッチスクリーンさえなければ、ストレスを感じることもないだろう。

PHOTOGRAPH BY MICROSOFT

初代からの改良点

19年に初代Surface Duoを披露した際、マイクロソフトは「生産性向上」を2画面の利点として強調した。それが当然だと言える理由は山ほどあるだろう。

マイクロソフトは過去数十年にわたって企業向けのクラウドサーヴィスを販売し、仕事に使うPCのためのOSを開発し、PowerPointやExcelのスプレッドシートを愛用する顧客相手のビジネスを続けている。一方で、当時のマイクロソフトはスマートフォンの波に完全に乗り遅れていた。だからこそ、Surface Duoという存在と、この”完全なスマートフォンではないモノ”にOSを提供してくれるグーグルとの提携は興味深いものだった。それは、クールな再出発だったと言えよう。

初代Surface Duoではバグも散見された。それは『WIRED』US版のレヴューの通りである。しかも、それらのバグは新しいスマートフォンを使い始めたばかりなら許せるようなささいな欠陥ではなかった。スマートフォンのユーザーの関係を壊してしまうほどの大問題だったのである。それでもマイクロソフトは、さらなる改良に挑もうと決断した。少なくとも、やってみようと決めたのだ。

Surface Duo 2にはかなり高速なプロセッサー(クアルコムの「Snapdragon 888」)が搭載され、旧モデルと比べてほんの少し分厚くなり、本体は頑丈になっている。また、新しいデザインでは3つのレンズ(12メガピクセルの広角レンズ、16メガピクセルの超広角レンズ、12メガピクセルの望遠レンズ)を備えたカメラモジュールも背面に搭載された。これは初代Duoからの堅実なアップグレードと言える。初代Surface Duoでは、11メガピクセルのカメラが自撮り用カメラと背面カメラ(スマートフォンを裏返して使う)を兼ねていたからだ。

初代Surface Duoと同様、Surface Duo 2も人目を引く。フロントカヴァーには光り輝くマイクロソフトのロゴが付いていて、ガラスでコーティングされているのだ(とはいえ今回テストしたSurface Duo 2にはすでに傷が付いてしまった)。ふたつの5.8インチの高解像度ディスプレイは、90Hzというそこそこ高いリフレッシュレートで、「Surface ペン」という別売りのスタイラスペンにも対応している。

“輝きを放つ”側面もあると言えるだろう。そのひとつが、通知があると閉じたデヴァイスの「背骨」が文字通り輝くことだ。初代Surface Duoでは、折り畳んだ状態で通知を確認する手段がないことがユーザーの不満の種になった。そこでマイクロソフトは、Surface Duo 2の背骨部分に「概要バー」と呼ばれる細長いディスプレイを設けている。ここでデヴァイスの充電状態や電話・メッセージの着信を確認できる仕組みだ。

このバーは妙に楽しかった。概要バーが点灯するところを見たくて、近くにいる同僚にメッセージを送信するよう頼んだほどである。個人的にこの機能を気に入ったが、同僚はそうでもなさそうだった。

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使いづらさが残るカメラ

カメラは悪くないが、1,500ドルという高額なスマートフォンにしては性能が低い。今回のSurface Duo 2のテストでは、アップルの「iPhone 13」(799ドル、日本では86.800円から)とグーグルの「Pixel 6」(599ドル、日本では74,800円から)も一緒に持ち歩いたが、たいていの場合はSurface Duo 2のカメラの相対的な性能の低さにがっかりさせられた。

例えば、標準的な設定で撮影した人物はぼやけて見えた。海岸で撮った夕日の写真は色が流れて混ざり合い、砂丘の端は新しいiPhoneで撮影した画像に比べて鮮明さに欠けていた。Surface Duo 2で同僚の写真を撮ったところ、人物より向こう側のオフィスは真っ暗に写っていた。

さらに注目すべきことは、「ただ写真を撮ること」ですらひと苦労という点だろう。それは「スマートフォンを広げる」という手間が必要だからだ。スクリーンショットを撮るには電源ボタンと音量ダウンボタンを同時に押す必要があるが、これも押しづらい。一方、自撮りをしたいときにスマートフォンを立ててセルフタイマーで写真を撮れる点は長所と言える。スタンドを別に用意する必要がないからだ。

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動作の問題

折り畳みスマートフォンの重要な要素のひとつが、ソフトウェアの動きだ。新しい形状が導入されたとき、人はそれまでの制限のある考え方に戻りがちである。それが生活の大部分を占めるスマートフォンのことであれば、なおさらだ(アプリの表示方法がいままでと違うデヴァイスは、ユーザーに行動の変更を強いるので「悪いもの」に違いない、というわけだ)。

個人的には、Surface Duo 2のアプリの表示方法が本質的に悪いわけではないと思っている。Surface Duo 2向けに最適化され両方の画面に広がるアプリは、使っていて楽しい。ただ、このデヴァイスが抱える問題は必ずしもUIの問題ではなく、アプリの実行に関する問題なのだ。

テストしていた数週間で、アプリは繰り返しクラッシュした。特に目立ったのは「Gmail」や「Google マップ」など、Surface Duo 2向けに最適化されているはずの一部のグーグルアプリだ。ほかのアプリはただ遅いだけである。

それに加えてSurface Duo 2は全体的に反応が悪く、タップしてスリープを解除する機能は搭載されていない。なお、後者の問題についてマイクロソフトはちょっとした説明をしている。Surface Duo 2を反対側に折り畳んでディスプレイ面が外を向いていることがあるほか、人によっては通話するときにその状態でスマートフォンをもつ場合があるので、間違って起動しないようにする目的でタップによってスリープを解除する機能を無効にしたというのだ。しかし、大半のスマートフォンユーザーは手帳型スマートフォンを耳に当てる機会より、画面をタップして起動して時間や通知の有無をチェックする機会のほうが間違いなく多いだろう。

Surface Duo 2を持ち上げればスリープは解除できる。だが、ロックの解除が必要だ。そして、ここでうまくいくかどうかは運任せである。というのも、タッチスクリーンが必ずしも反応するとは限らないからだ。ホーム画面のスクロールはスムーズに動かない。Surface Duo 2のテスト中、鍵のアイコンを何度もスワイプしないとパスコードの入力画面にならないことも珍しくなかった。

電源ボタンの指紋認証でもロックを解除できるのは便利だ。しかし、1,500ドルのスマートフォンが「アルコール消毒済みの指にまったく反応しないことがある」という事実を見て見ぬふりをするのはやめよう。

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複数もちをしないと使えない

Surface Duo 2を使い始めて1週間も経っていないころ、この思い通りにいかない厄介なスマートフォンをテストするエネルギーと希望が負の方向へ向かうようになり、Surface Duo 2を海に投げ込みたい衝動に駆られた(ただし、海にとって有害だという問題はある)。ほかのスマートフォンも一緒に持ち歩くようになったのはそれ以来である。カメラテストのためではない。ただ、「本物」のスマートフォンも持っておきたかったのだ。

このテストの間、スマートフォンを複数持ち歩く人は少ないことをずっと意識していた。ほとんどの人はスマートフォンをひとつしかもっておらず、スマートフォンに費やせる金額のぶんだけ素晴らしい機能を発揮することを望んでいる。

いまもSurface Duo 2で『デューン 砂の惑星』を読んでいる。ときどきSlackの通知が来たり、どうしても返信しなければならないメールが来たりするが、そんなときはこんなふうに対応する。隣のディスプレイでメールを開き、本は一時的に片方の画面に寄せ、自分が流れるように作業をできていると思い込むのだ。あるいは、わざわざ腹の立つものに手を出さないという方法もある。

◎「WIRED」な点
2画面端末用に最適化されたアプリは(数は限られるものの)使っていて楽しい。

△「TIRED」な点
画面の数が2倍になっているにもかかわらず、電話としてもエンターテインメント用デヴァイスとしても面白みに欠ける。タッチスクリーンが反応しないことがある。タップでスリープを解除する機能がない。写真を撮りづらい。1,500ドルのスマートフォンであるにもかかわらず、カメラの性能が標準以下である。

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