Spotify
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Spotifyは今年2月に、従来の圧縮音源データによる音楽ストリーミングではなく、CD音質のロスレス音源をストリーミングする高音質プラン「Spotify HiFi」を2021年内にも一部地域から開始すると発表し、「近日中に詳細をお知らせします」と述べていました。

ところが、その発表後SpotifyはHiFiプランについての情報を出すことなく現在に至ります。一応、5月にはアプリの再生画面に小さく「HiFi」のマークが付いたスクリーンショットを公開してはいたものの、その翌月にはApple Musicがロスレスおよびハイレゾ音源によるストリーミングを開始、Amazon Music HDも通常の月額プランで(追加料金なしに)ロスレスとハイレゾの高音質サウンドを提供するようになりました。

ところが、Apple MusicやAmazon Musicといったライバルがハイレゾに舵を切ったあと、なぜかSpotifyは沈黙してしまいました。一応、8月にはHiFi再生の動画がリークされたものの、公式にはなんの情報も出しておらず、近日と言っていた詳細情報はどこかへ消え去ってしまったようです。

Apple MusicやAmazon Musicがロスレスおよびハイレゾ音源のストリーミングを開始した理由は、どちらかと言えばユーザーに高音質な音源を届けたいからではなく、Dolby Atmosや360 Reality Audioといった空間オーディオ提供を開始するために必要だったとも考えられます。実際、Appleはハイレゾによる高音質よりも空間オーディオを宣伝し、独自のチップを搭載してそれを再生可能にするヘッドホンやイヤホンを売っています。

それに対して、Spotifyはあくまで現在のステレオサウンドの高音質版としてSpotify HiFiを発表していました。つまり付加価値的には立体オーディオを提供するAppleやAmazonに見劣りしてしまう状況になってしまったわけです。それだけでなく、ライバルが既存プランにそれらを含めてしまったことで、Spotify HiFiは通常の月額プラン(Premium)と金額的に差を付けることも難しくなりました。Spotifyにとっては収益向上を見込んでの高音質ストリーミングの投入ができなくなったことで、戦略の見直しを迫られることになったと考えられます。

Apple Musicは現在、最高で192kHz / 24bitのハイレゾ音源(ALAC)を月額10ドル(980円)のサービスに含めています。またAmazon Music HDはやはり192kHz / 24bitの音源(FLAC)をやはり月額10ドル(980円)、プライム会員なら8ドル(780円)で利用することができます。

これらに対し、Spotifyは最高音質に設定しても320kbpsのOgg方式での配信です。ただ、Spotifyのユーザー層はどちらかと言えば音質よりも、もっとカジュアルに音楽を楽しんでいる人が多いかもしれません。そしてSpotifyが持つ強力なプレイリスト生成アルゴリズムやユーザーエクスペリエンス、利便性といった部分が、そういったユーザーを満足させているように思えます。

ロスレス、ハイレゾといったオーディオはBluetoothを使用するイヤホンやヘッドホン、スピーカーでは結局ロッシーな音質になってしまいます。そしてBluetoothの音質(使用するコーデックにもよりますが)で充分だと思っているユーザーの数は、音にこだわるオーディオファイルと呼ばれる人たちよりもはるかに多いでしょう。むしろ、Apple MusicやAmazon Music HDが提供する空間オーディオのライブ感のほうが、人々にとって違いがわかりやすく魅力的な体験の向上になるはずです。

もしかすると、Spotifyが沈黙しているのはライバルの動向を見て、自らもDolby Atmosや360 Reality Audioのような立体オーディオの提供に舵を切り、その準備をしているのかもしれません。もしそうなら、2021年には間に合わなくとも、いずれSpotify HiFiも立体オーディオとともに提供されるようになることでしょう。もちろん、2021年はまだあと1週間ほど残っているので、滑り込みでSpotify HiFiが提供開始される可能性もないわけではありませんが、その可能性は薄そうに感じられます。

Source:The Verge

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