(C)2021 日本すみっコぐらし協会映画部

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すみっこが落ち着く、ちょっとネガティブだけど可愛い人気キャラクター『すみっコぐらし』の劇場アニメ第2作『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』が11月5日に公開される。
2019年に公開された前作『とびだす絵本とひみつのコ』がSNSを中心にこどもから大人まで幅広く支持され大ヒットを記録したことから、早くも大きな期待が寄せられている本作は、『地獄少女』『夏目友人帳』『海月姫』の大森貴弘監督、そして脚本に『聲の形』『若おかみは小学生!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などを手がけた吉田玲子が参加していることも大きな注目ポイントとなっている。
新たなすみっコたちの物語はいかなる感動を届けてくれるのか、本作の魅力について大森監督に話を伺った。
▲大森貴弘監督

――スタッフの中に大森監督の名前を見て驚きました。これまで手掛けられてきた作品とはテイストが違うイメージを持ったのですが、『すみっコぐらし』はご存じでしたか。

大森 キャラクターは見たことがありましたが、前の劇場版が大ヒットしたくらいのことしか知りませんでした。今回監督のオファーがあった時、おっしゃるとおりこのジャンルのアニメは手がけたことがなかったので、「自分にできるだろうか?」という不安はありました。

――1作目の『とびだす絵本とひみつのコ』はご覧になりましたか。

大森 はい、面白かったですね。特にナレーションがあるとはいえ、セリフが一切ない中キャラクターの動きだけで物語を伝えていくというスタイルは、今回僕の中でも大きなチャレンジになりました。

――子供に絵本を読み聞かせているようなスタイルですよね。

大森 そうですね、物語も、誰でも知っている童話のモチーフを使っているのが、初めて触れる人にも伝わりやすくて巧いと思いました。

――大森監督から見て『すみっコぐらし』のキャラクターの魅力はどこにあると思われましたか。

大森 やはりネガティブなところじゃないですか(笑)。隅っこを居場所にしながら自分自身と会話しているようなところが、観ている人に共感を抱かせるんでしょうね。

――こういう少し影のあるキャラが人気を集めているということに関して、何か思うところなどありますか。

大森 誰でも自分の欠点だったり、「あの時、ああしていれば……」みたいな思いは持っていますが、そういうアンビバレントなものを子ども向けの作品にできるとは思っていなかったんです。けれど、『すみっコぐらし』はその辺りをしっかり掘り下げている。様々な欠点にスポットを当てながらも、それは外から見たら案外悪いものでもなかったりして、そういう気分を共有している人たちには刺さるのかな、と思っています。

――今回は魔法使いをテーマにしていますけれど、このアイディアはどこから?

大森 「こんなことをやらせたいね」といういろんなアイディアがあったのですが、前回はすみっコたちが絵本の中に入って冒険をしてまた元の世界に戻るという話でしたので、今回はすみっコたちの普段の生活を見せたい、と僕の方から提案しました。

――彼らの日常を?

大森 はい。そこにいろんなテーマを載せようかと考える中で、吉田(玲子)さんから「魔法使いでいきましょうか」と。吉田さんから最初に貰ったプロットの中に、5人が仮名でわん、つー、すりー、ふぉー、ふぁいぶと書かれていて、僕も含めてスタッフ満場一致で「この名前、可愛いからこのままでいきましょう!」ということになり、そこで(仮)が外れました(笑)。吉田さんとしては後でちゃんと考えたかったのかもしれませんが、これで個性が十分に感じられましたし、翌週にはデザインチーム(原作のサンエックス)からキャラデザインが出来てきて……。
▲すみっコたちの前に現れる魔法使いのわん、つー、すりー、ふぉー、ふぁいぶ。

――トントン拍子に事が運んだわけですね。ストーリーの骨格に関してはいかがですか。

大森 最初にデザインチームからもナイトパーティーやすみっコたちが町の上を飛んだりするような場面を出してほしい、という提案がありまして、それらに並行して提案された共通キーワードが「夢」だったんですよ。ただその時の会議では、夢が叶ってしまったら彼らは「すみっコ」じゃなくなる、それは成立しないんじゃないか、となったんです。でも後でよく考えてみたら、それがすみっコたちを表現するための大事な要素だと表現できるのでは、と気付いて、その方向で提案させて頂きました。

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――今回、吉田玲子さんも初参加とのことですが、実際に組んでみていかがでしたか。

大森 吉田さんは前からすみっコはご存じで、前作も劇場で観ていらっしゃるし、携帯アプリのゲームも楽しんでらしたそうで、心強かったですね。

――まさに適任ですね(笑)。ということは、吉田さんの中に既にすみっコにこういうことをさせてみたい、みたいなイメージもあったのかもしれませんね。

大森 そうですね。デザインチームとも話し合いながら膨らんでいったものが大きいんじゃないでしょうか。

――望むことが何でも叶う魔法使いには夢がない、という設定にはドキリとさせられました。本作の中でも大きな鍵になったのではないでしょうか。

大森 そうですね、そこから引き起こされる出来事で改めて夢の意義を知ることになる、というのは吉田さんのアイディアで、これはひとつのトピックになると思いました。

――先ほど、この作品は大きなチャレンジとおっしゃっていましたが、実際に作業に入られてみての苦労は?

大森 一番大きいのはやはり、セリフがないというところですね。今まで自分がいかにセリフに依存してキャラクターを動かしていたかということが理解できました。当初なかなか取っ掛かりがつかめなくて苦労したところもあったのですが、逆に体をくっつけたり顔を見合わせるだけで伝わるものがある、ということが分かりました。そういうことを全て演出で利用していこう、と頭を切り替えてからはだいぶ楽になりました。

――とはいえ、キャラクターの演技づけなども大変だったのでは。

大森 当初はコンテで描いたポーズが3Dモデルではつけられない、なんていうことも結構ありましたね。でも、スタッフの工夫でデータを上手くいじってもらって、僕の希望通り、もしくは希望以上に動かしてもらえたと思います。

――3Dモデルならではの悩みですね。

大森 もっと自由に動かせるんじゃないか、と思ったんですが、いざやってみると手足や口も結局人間の手で、良い感じの形になるように動かしていくんですよ。そういう部分は手描きのアニメと変わらないんですね。今回はちょっとした細かい描写もすみっコたちの世界観に寄せたいという希望がありまして、例えば光の表現も実写的なものではなく、漫画のような表現で良いと。その統一を図ると、そちらでも手描きの作業が増えてしまって、結構大変でした。
▲スタッフの苦労が生んだ、優しくて温かい、すみっコの世界観。

――その作業で特に大変だったものは?

大森 今回、回想や夢を表現するために吹き出しを多用したんですが、その形や散り方には苦労しました。

――ナレーションで進めていく物語なので、言葉の選び方も慎重に取り組まれた感じでしょうか。

大森 前作のベースもありましたので、そこは大丈夫でした。今回はすみっコには井ノ原(快彦)さん、魔法使いには本上(まなみ)さんと、キャラクターに寄り添うナレーションの棲み分けを行っていて、なるべく彼らの気持ちを代弁するのはやめよう、画面で起こっていることからそれを想像させるようにしよう、ということは意識しました。

――誘導するのではなく、ニュアンスをくみ取ってもらうということですね。さて、前作と違って本作はコロナ禍の中で制作されることになった訳ですが、監督の中でそういう状況を意識して制作された部分はあったのでしょうか。

大森 あまりコロナだからこれを表現したい、と言うような押しつけがましくはしたくありませんが……実際に動くことができなかったり、会いたい人に会えないと言う事を、誰もが実感して来た事と思います。自制せざるを得なかったそれらの気持ちを失わずに日々の生活を送る、ということをキチンと届けたいという思いは、制作する中で膨らんでいきましたね。

――では最後に、子どもたちは勿論なんですが、大人のファンも楽しみにしている作品だと思います。ファンに注目してもらいたいポイントなどはありますでしょうか。

大森 すみっコたちの物語は、自分と重ねられる部分が多いと思います。叶う叶わないはともかくとして、夢を持っていればそれは自分を支えるためのものになるんだよ、と。そんなことに共感を感じて観て頂けると嬉しいです。どうぞ宜しくお願い致します。

>>>すみっコたちが可愛い魔法使いに! 『青い月夜のまほうのコ』場面カットを見る(写真10点)

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