お買い得グレードが存在しなくなっている

 長い間自動車専門誌の多くでは、新車購入時のグレード選びの参考にと、”買い得グレードはどれだ!”的な記事や、新車アルバムでの各車種ガイドのコーナーでは”買い得グレード”というものが紹介されていた。買い得グレードの多くは”中間グレード”とも呼ばれるモデルのことであり、昭和末期や平成初期あたりでは、価格と装備内容のバランスの良いものを”買い得グレード”と呼んでいた。

 本来はできるだけ上級グレードを選びたいというのが本音なのだが、当時は”一億総中流”とも呼ばれていたころであり、価格や装備内容などが“調度良い中間グレードが買い得グレードとして人気が集まっていた。また、買い得グレードをベースとした特別仕様車も頻繁に設定されていた。

 しかし、平成になるとエアコンは標準装備となり、オーディオもカセットオーディオなどの標準装備も進んだのだが、そのうちカーナビの登場もあり、「好みのオーディオをつけたい」というユーザーの多様化もあり、オーディオレス仕様のほうが喜ばれるようになった。時代の変化とともに、買い得グレードという設定が多様化し、昭和のころほどインパクトはなくなっていったのである。

 そして時代は令和となり、コロナ禍になるかならないかといった時期あたりから、新車購入での残価設定ローンの利用というものが目立って増えてきた。そして、この動きが新車購入でのグレード選びを変えることとなったのである。

 ここのところ販売現場をまわっていると、「残価設定ローンの利用に慣れているお客様を中心に、最上級グレードやそれに近い上級グレードを選ばれるお客様が増えております」という話をたびたびセールススタッフから聞くようになった。

 あらかじめ決められた3年や5年後の残価率に基づき、当該車種の3年や5年後の残価相当額というものが算出される。そして、この残価相当額は支払最終回分として据え置かれることで、月々の支払い負担が軽減するのが残価設定ローンとなる。

 厳密には、単純に車両本体価格に残価率をかけて、残価相当額が算出されるわけではないが、お客のなかには、「車両本体価格が高いほうが、据え置かれる残価相当額も多くなる」として、最上級グレードやそこに近いグレードを選んで購入する傾向が目立っているとのこと。

残価設定ローンの拡大がオススメグレードを変化させた

 先日、別件でお客として某トヨタ系ディーラーを訪れ、新型アクアについて話を聞いていた時に、スタッフマニュアルを見せてもらいながら、グレード選びについての話となった。セールススタッフはベーシックグレードからB、X、G、Zと4つあるグレードのうち、GかZが一般的なお客にはお薦めグレードであると言ってきた。

 そこで「Zでは個人的には装備過多にも見えるので、GにZには標準装備となる装備から必要な物だけオプション選択するのはどうか」と告げると、「お支払いは?」と聞いてきたので、「残価設定ローンを使うつもり」と返答すると、「オプションの選択数が多くなるようでしたら、Zのほうがお得ですよ。残価設定ローンでの残価相当額の算出は車両本体価格ベースなので、オプション分は考慮されませんので」と説明してくれた。

 しかも、この流れはトヨタ車では全般的な傾向になっているとのこと。大人気のアルファードでは、2.5リッターガソリンエンジンを搭載するSCパッケージが売れ筋となっているが、これはエグゼクティブラウンジや3.5リッターV6ではリセールバリューがアルファードとはいえあまり期待できないので購入候補からはずれ、2.5リッターながら3.5リッターV6を搭載するSCと装備内容が同じとなるSCパッケージが選ばれるという。「リセールバリューの良い、2.5リッターの最上級グレード」ということも要因としては大きいようだ。

 確かに、トヨタ以外でも新車販売の傾向を見ていると、最近は最上級グレードがメーカーの予測を裏切る形でよく選ばれているケースが多い。コロナ禍となり、”プチ贅沢”という消費トレンドもクロースアップされ、行動自粛が要請されるなかでも、数少ない”高額な買い物”となる新車販売が活況を呈することとなった。

 そして、さらに残価設定ローンの普及が新車購入において上級グレードが選ばれる要因のひとつとなっていたのである。

 最近はメーカーを問わず、昔ほど極端なグレード間での装備差というのもなくなってきているので(モノ[単一]グレードに近いモデルも多い)、そもそも、そのなかで”買い得グレードはどれだ”は成立しにくくなってきたのだが、消費者側でもグレード選択のトレンドというものが変化を見せてきているのである。