2020年11月から品薄状態が続くPS5。「確実に稼げる格好の商品」と言う転売ヤーも(記者撮影)

1月30日、東京・秋葉原にあるヨドバシカメラのゲーム売り場は異様な雰囲気に包まれていた。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、ソニー)が2020年11月に発売した新型ゲーム機である「プレイステーション(PS)5」の店頭販売がされるとみた客たちが押し寄せたからだ。

「本日、PS5の販売はございません」。館内放送やレジ前での呼びかけでもお客はなかなか出て行こうとせず、店員が個別に説明する様子も見られた。札束を入れた封筒を握りしめた中高年の男性は、しびれを切らして店員に詰め寄る場面もあった。

ゲーム総合メディア「ファミ通」調べによるとPS5の2020年12月末までの国内販売台数は25万5150台。一方でソフトの販売本数はディスク版のみの集計ながら本体よりも大幅に少ないため、転売目的の購入が少なくないとみられる。

PS5は「確実に稼げる格好の商品」

ある転売ヤーは、「今のところ、(店頭で)5万5000円で手に入れたPS5は買取屋に持ち込めば8万円以上で即売れる。転売する側にとってみれば確実に稼げる格好の商品。店頭販売があると知れば、アルバイトを雇って現地に行かせ、大量に買わせていることも多い」と話す。

PS5の希望小売価格はディスクドライブ付きで5万4978円(税込み)。現在、品薄ということもあって、秋葉原にあるゲーム機の買取販売店では2021年1月時点で、7万〜8万円での買い取りが行われている。「PS5は高額買取対象商品で仕入れにいちばん力を入れている。価格の変動はあるが、どうしてもPS5が欲しいという購入希望者が訪れ、年末には1台10万円でも買っていった」(買取販売ショップの店員)。

人気商品を大量に仕入れ、高値で売りに出す人たちは、ネット上で「転売ヤー(転売屋)」と呼ばれる。PS5の場合、買取店に持ち込むだけでなく、フリマアプリや自身が販売登録をしたアマゾンなどのECサイトに仕入れた商品を転売し、利ザヤを稼ぐ。

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さまざまな転売が行われる中、2020年に最も問題視されたのは衛生用品の転売だった。新型コロナ感染拡大初期の1〜2月には、品薄状態からネット上のマスクの取引価格が100倍以上に高騰した事例もあった。このため、国民生活安定緊急措置法に基づいて3月にマスクや消毒液など衛生用品の転売が禁止された(同年8月に規制解除)。

また、コロナの感染拡大を背景に「巣ごもり消費」でにわかに需要が高まったのがゲーム機だ。供給が追いつかず、転売の格好の標的となったのが任天堂のゲーム機『ニンテンドースイッチ』だった。抽選販売で入手したスイッチの新品だけでなく、中古のスイッチまでメルカリやアマゾンで希望小売価格3万2978円(税込み)の1.5〜3倍の高値で売買された。

2020年11月に発売されたPS5も同様に、“需要”に供給が追いついていない。メルカリなどのフリマサイトでPS5を検索すると転売目的で購入されたとみられる新品・未開封のPS5が希望小売価格の1.5〜2倍の値段で売買される事例も多い。

ソニーは高額転売の現状について、「転売行為はやめていただきたい。品薄な状態にあることは認識しているが、できるだけ多くのお客様に希望小売価格でPS5を購入いただきたく、適切な供給量を整えられるように引き続き努力する」と説明する。

PS5発売直後はフリマサイトのメルカリへの高額出品が続出。100台で900万円という1人1台の抽選販売ではありえない出品が報じられたことから、ソニーはPS5の転売防止と協力を求めた。だが、発売から2カ月以上たった今でもメルカリでの高額なPS5出品は後を絶たない。マスクなどの衛生用品を除くと、法律で規制されているのはチケットだけ(チケット不正転売禁止法)。ルールを設けてどこまで出品を制限するかは、フリマサイト側の判断に委ねられている。

ノジマは店頭で罵倒されることも

もっとも、販売元の要請にとどまらず、小売店で明確に転売に反対する方針を打ち出した企業もある。大手家電量販店のノジマは2021年1月31日、転売撲滅宣言を出した。


ノジマは2021年1月に転売撲滅宣言を出した(ノジマHPより)

この宣言について、「当社の顧客層はファミリー層が多い。そうした方々を大切にしたいと強く思っている。個人の利益目的購入で多くの方が残念な思いをされているので、少しでも当社がまっとうな販売をさせていただきたい」(ノジマ・ゲームMD担当者)という。

2020年12月にノジマが実施したPS5の抽選販売は、応募総数12万件を担当部署が1件1件目視でチェックし転売目的での購入希望者でないかどうかの精査を行った。これも転売防止策の一環だった。PS5に限らず、店頭で転売目的とみられた場合は購入履歴を確認し、再来店した場合は会計時に商品の販売を断るケースもある。

「転売目的の購入希望者から、『法律で禁止されていないのになぜノジマが決めたことに従わないといけないのか』と店舗のスタッフが罵倒されることもしばしばある。対応に追われるスタッフに感謝するとともに、法律で転売に規制をかけることは重要と考える」(ノジマ・ゲームMD担当者)という。

販売元・小売店と転売ヤーとの間でいたちごっこが続く中、新たなツールを提供する企業が出てきた。サイバーセキュリティ企業のSpider Labs(スパイダーラボズ)が提供する転売ヤーの検知サービスだ。

化粧品や健康食品などを取り扱う通販業界では、かねて通常商品よりも安価な初回お試し商品や希少価値の高い商品が転売目的で購入されることが問題となっている。事業開発部長の宮本雄大氏は「(通販を行う)顧客から、商品を直接購入する場合にも不正検知ができないかと1年ほど前から相談を受けていた。 アドフラウド対策(広告費の詐取防止システム)の技術を転用したところ、(大量購入する)転売ヤーが検知できたことで新サービスの開発を急ピッチで進め提供に至った」と話す。

数十社が検知サービスを導入

具体的な検知の仕組みは行動パターンから割り出している。例えば、同じユーザーが複数のアカウントを使い回す、同じアクセス元から連続して注文する、ウェブブラウザを自動で動かすbot(ボット)を使って大量購入するなど、不正な購入をしているユーザーがもつ一定の特徴を把握する。


不正検知の一例。検知システムで転売目的と判定したら、購入を取り消す(画像:スパイダーラボズ)

そして、スパイダーラボズで蓄積したデータから転売目的とみられる購入を検知する。そのうち9割以上が不正購入と判定された。検知サービスは2021年1月から始めたがすでに数十社が導入しているという。

「健康食品や化粧品だけでなくネット通販事業者のほとんどに導入は可能。新型ゲーム機や有名ブランドのスニーカーなど高額転売も目立っている中、転売対策を必要とする企業への導入を積極的に進めたい」(宮本氏)としている。

本当にその商品がほしいと思う人たちへ、正規ルートで届けられる仕組みをどのように担保するのか。チケットや衛生用品以外に規制する法律がない現状において、メーカーや小売店が転売ヤー対策に頭を悩ませる状況が続きそうだ。