「日本がトランプ現象から学ぶべきことは何か。今の日本に、アメリカと同じような“活断層”があるのではないか」と語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本がトランプ現象から学ぶべきことについて語る。

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日本でも有名になったQアノンの信奉者を含む、トランプ米大統領の"熱烈支持層"の暴走がいよいよ末期的なモードです。アメリカのために大統領選挙の不正をただし、トランプの大逆転を実現する――そんな世直し衝動に駆られ、あらゆるデマや陰謀論をごちゃ混ぜにした毒々しいカクテルを信者同士で回し飲みしているような状況。

2000年代に穏健保守から共和党を乗っ取った「ティーパーティ運動」以降、保守層が現実から乖離(かいり)して支持層内での"祭り"だけを求めてきたことの成れの果てといってもいいでしょう。

多くの日本人はこのアメリカの惨状に対し、一定の距離を取って傍観しているようですが、昨今の右派ブームの喧騒(けんそう)を思えば、日本にとっても決して人ごとではないというのが僕の考えです。

まず、日本の右派層の一部には、どういうわけかQアノンに同調し、「トランプ大逆転」に望みを託す人たちがいます。

しかも、そのなかには近年の右派論壇を牽引(けんいん)してきた"知識人"もいて、本気なのか商売上の理由なのか、愚にもつかない陰謀論を丸のみし、SNSなどで必死にシェアしているうちに引っ込みがつかなくなってしまった様子です。

今のところ人数としては大したボリュームではありませんし、日本全体への影響力もさほどないでしょうが、日米双方の保守派の劣化過程をウオッチしてきた僕の感触では、両者には重なる点も多いのです。

昨今の日本、特にネット論壇における「リアリズム」を標榜(ひょうぼう)する右派ブームは、3・11の後に表出した左派の矛盾や非現実性を小ばかにすることで存在を確立してきました。

第2次安倍政権の発足後、この流れに一部の放送局や出版社がビジネス目的で便乗すると、嫌韓や反中を含んだ「日本すごい論」が盛り上がり、右派にとって不都合な事実は徹底的に叩き潰(つぶ)すネット右派層がアクティブ化していったように思います。

しかし、ご存じのとおり安倍政権は最後までロシアと中国に対して弱腰で、改憲も頓挫しました。期待は喪失感へと変わり、かつては冷静に反原発論争などに関するファクトチェックをしていたような人たちですら、自分が信じたいフェイクニュースを手繰(たぐ)り寄せ、「これが真実だ」と叫んでいる状況です。

あたかも論理的であるかのように見える"包み紙"で現実を覆い、都合のいい話は真実、都合の悪い話はフェイクと決めつける傾向も加速しています。

僕の予測では、日本の右派ブームは早晩、いったん終わるでしょう。しかし、社会がなんの反省もないままでは、やがて大きなしっぺ返しを食らうことになると思います。"ネトウヨ"はただの愚かな人たち? 本当にそうでしょうか。

3・11以降、あらゆるところで「復興」の錦の御旗(みはた)の下、愛国の物語が紡がれました。「日本すごいマーケティング」が大々的に展開され、それを疑いもなく受け入れたのは、いわゆるネトウヨだけではなかったはずです。

日本がトランプ現象から学ぶべきことは何か。今の日本に、アメリカと同じような"活断層"があるのではないか。とりわけリベラルと呼ばれる人たちは、その事実から目を背けたまま、右派ブームの終焉(しゅうえん)をただ喜んでいてはいけない。心からそう思います。

モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!