玄関前に季節外れのクワガタがいたら、SNSに写真をあげたくなるかもしれない。しかし、それは危険だ。ITジャーナリストの高橋暁子氏は「そのクワガタは空き巣犯が意図的に置いたものかもしれない。SNSは悪意を持ったユーザーにも見られている」という――。
写真=iStock.com/Raul Baldean
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Raul Baldean

■思わぬところに落とし穴が……

「玄関前にクワガタがいた」「カエルがいた」。そんな写真付き投稿は危険だ。誰かがあえて玄関前にクワガタやカエルを置き、SNSの投稿からターゲットの自宅を特定。投稿時間から生活時間帯を把握され、留守宅に空き巣に入られてしまう恐れがある。

最近相次いでいるトレーディングカード盗難では、実際にこの手法が実行されたと見られている。11月4日にはトレーディングカードやブランド品で総額400万円相当の被害があったというツイートが話題となった。さらに11月9日には別の人がトレーディングカードやブランド品、現金、骨董品など総額1億円あまりを盗まれたとツイートしている。

当該のツイートはどちらもすでに削除されているため真偽はわからないが、少なくとも一人の被害者は玄関扉の前にいた「クワガタ」や「カエル」といった生き物の写真をTwitterに投稿した後に盗難被害にあっている。

どのような投稿が危険であり、どのような点に注意して投稿すればいいのだろうか。

■身元を特定する数々の手口

今回の空き巣の被害者はTwitterユーザーだ。以前からTwitterで所持するトレーディングカードのことなどを投稿しており、被害後にも被害状況についてツイートしている。該当ツイートのスクリーンショットを見ると、カードが飾られていたガラスケースが壊され、遊戯王などの高額なトレーディングカードなどが大量に盗まれたようだ。

被害額の大きさに驚かされるが、トレーディングカードというものは、カードによっては数十万円から数百万円という高額の値で取引されることも珍しくないという。

被害者の一人は、「もう自殺するかもしれません」などとツイートしていたが、その後アカウントを消してしまった。いまは他のユーザーがそのアカウントを使用しており、過去の投稿を見ることはできなくなっている。

その被害者は過去に自宅の玄関前にいたクワガタやカエルの写真を投稿しており、それによって自宅や帰宅時間を特定されたのではないかと推測されている。

これはよく知られたアカウント特定法だ。2019年2月、漫画家のおおひなたごうさんは、京都市内の地下鉄通路に落ちていたパック入りの蟹の画像をTwitterで投稿。「道端に意外なものを置くことで写真を撮らせて、ストーキングする相手のSNSアカウントを特定するっていう方法だよね」とフォロワーから指摘を受けた。

写真をよく見ると隠れている不審な人物も映り込んでおり、この指摘は事実だった可能性がある。

■“うまい棒”からアカウントを特定されることも

ある企業に勤務する50代男性から、こんな話を聞いたことがある。

「新入社員研修の時に、うまい棒をたくさん配ってみた。写真に撮ってTwitterとかにアップしている新入社員がたくさんいて、アカウントが特定できてしまった。『この会社は本命じゃなかったけど仕方ない』という投稿を見かけてしまい、複雑な気持ちになった」

自宅の前や道端に落ちているもの、もらったものなどの写真を安易に投稿すると、自宅やアカウントが特定されてしまうリスクがあるというわけだ。

■高須院長も“特定”の被害にあっている

SNSに留守の期間を投稿したことによって空き巣被害につながる例も、実は珍しいことではない。2019年のゴールデンウィーク中、「高須クリニック」の高須克弥院長の愛知県の別宅に空き巣が入った。この被害は、Twitterでの投稿が関係していると見られている。

高須院長はTwitterでその日、病院でがん治療で点滴を受けていること、翌日から台湾に行き留守となることなどを明らかにしていた。しかも過去には、玄関の扉の写真が写った写真を、位置情報とともに「帰宅なう」という文章をつけて投稿していたこともある。

つまり、自宅の場所と留守の期間が分かる危険な状態だったというわけだ。

高須院長のTwitterアカウントのフォロワーは被害時点で46万人以上であり、それだけの人が情報を見られる状態だった。不特定多数が見られる場にさまざまな情報を公開したことで、被害につながってしまった可能性がある。

■「高級品」の安易な共有はリスクを高める

トレーディングカード盗難のもう一人の被害者は、Twitterで過去に所持しているカードの写真を何度も投稿しており、レアなカードを多数所持していることが誰からも分かる状態だった。

それを「自慢している」「羨ましい」と感じた人もいたようで、被害後に心ないメッセージを送り、不快な思いをさせたユーザーもいたようだ。被害者には気の毒だが、投稿によって狙われやすくなっていた可能性がある。

Instagramに持ち物の写真を投稿している人は多いだろう。しかし、あまり高価なもの写真を投稿すると、強盗などのターゲットとされる危険性がある。

筆者はNHKの報道番組「クローズアップ現代+」で、こうした手口を解説したことがある。2019年1月21日に放送された「SNSで思わぬ被害! 犯罪集団に情報筒抜け▽すぐに対策を」では、ある男性が、Instagramにレア物のルイ・ヴィトンの衣服や高級外車の写真を投稿したことで、強盗犯にターゲットとされてしまったという事例が紹介された。

加害者は、過去の多くの書き込みと男性の背後に写り込んでいた公園の位置から、Googleアースを使って場所を特定している。さらに他のSNSで、確実に留守の期間を調べた上で空き巣に入っている。その結果、現金やブランド品など約200万円以上の金品が盗まれてしまった。

■10億円の被害を受けた海外セレブも

海外でも、お騒がせセレブのキム・カーダシアンが、パリでダイヤモンドなどを含む1000万ドル(10億円)の強盗の被害にあっている。キムのInstagramのフォロワー数は執筆時点で1.9億人以上だ。

キムは、SNSで身につけたダイヤモンドの写真を公開したうえで、自身がパリにいることを明らかにしていた。この投稿によって高価なものを所持していることが筒抜けとなり、強盗被害につながったのではないかと言われているのだ。

Instagramはキラキラしたいわゆる「リア充」写真を投稿する場となっている。そのようなものを投稿すれば多くの「いいね」がもらえるが、悪意を持ったユーザーにも見られていることは忘れてはならないだろう。

■なんでも共有すればいいわけではない

いま多くの人がSNSで気軽に生活を共有している。便利な面もあるが、一方でリスクもある。行きつけの店や自宅の窓からの景色、周囲の建物の外観など、不用意な投稿から、自宅などが特定される恐れがある。

投稿内に書き込まれた固有名詞で地域を絞り、投稿した写真への映り込みから場所を特定することは難しくない。複数のSNSを使うことは、自分が気づかないうちに知られたくない情報を不特定多数に公開することに等しい。

クワガタの写真を共有したことから強盗にあったという今回の事件は、「出来事を共有する」というSNS時代の根本的な振る舞いに警鐘をならしている。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
ITジャーナリスト
情報リテラシーアドバイザー、元小学校教員。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、コンサルタント、講演などを手がける。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。
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(ITジャーナリスト 高橋 暁子)