マンガ版は、イントロからアニメとほとんど同じ展開。つまりアニメはマンガを元に制作したようですね。マンガでは、アクションやギャグを強調して描いていて、その分、小説で僕が面白いと思った「優しさ」の印象が少し減っている。さらにそれがアニメになると、テンポが強調されたせいか、その味はほとんど消えてしまっていた。これが惜しかったかな。
もちろんアニメにも、残ってはいるんですよ。アイキャッチにクレヨン画を使ったり、エンディングを切り紙アニメにしたのもたぶん、そんな感触を表現したものなんじゃないかな。

楽しんで作っているのがいい!

それにしてもアニメのうまい人たちです。なにより、スタッフ全員が楽しんで作っている感じが作品から伝わってくるのがいい。もし僕が監督をやってて、こういう元気のいいスタッフがついていたら喜んじゃいますね。ただ。僕ならもうちょっと「壊して」もらうかな。というのは『コスモス荘』は、テンポのいい会話とか、悪人たちの登場シーンやそのリアクションとか、よく見るアニメの集大成で、パロディになっているんだけど、もう一歩、アニメ表現としての常識を打ち破る「破壊力」がプラスされたら……。その時には、今までにない作品が生まれるんじゃないかな。これだけの技術を持っている人たちですから、面白いものができると思うんですよ。
監督のまついひとゆきさん、作画監督の柴田淳さん、それからアニメ制作のユーフォーテーブル(ufotable)っていうスタジオも、僕は聞いたことがなかったんです。不思議でしたね。ちょうど、大阪からガイナックスが現れて『(王立宇宙軍)オネアミスの翼』を作った時と似た驚きですよ。「こんなグループがいたの!?」という。だから僕は、いろんな人に聞いてまわったんです。「この人たち知らない? 若い人らしいんだけど……」って。でも、僕の周囲の人たちは知らなかった。あれだけの腕を持っている人たちが、あまり知られていないはずがないんだけどな。アニメージュで、徹底的に調査してほしいくらいですよ!

(初出=アニメージュ2003年11月号)

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