過去の研究により、「タコの8本足には脳とは独立して足を制御する神経の集まりがある」ことや、触れたものの「味」を確かめる能力を有していることが判明しています。新たな研究により、タコが吸盤で対象の味を確かめるメカニズムが解明されました。

Molecular Basis of Chemotactile Sensation in Octopus: Cell

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31149-1

Octopus’ suction cups hold its taste and touch sensors - Harvard Gazette

https://news.harvard.edu/gazette/story/2020/10/octopus-suction-cups-hold-its-taste-and-touch-sensors/

When It Comes to Octopuses, Taste Is for Suckers - The New York Times

https://www.nytimes.com/2020/10/29/science/octopus-arms-taste.html

これまで、タコの足には触れた物体がエサなのかそうでないのかを見分ける能力があることが分かってしましたが、その仕組みの詳細は明らかになっていませんでした。そこで、ハーバード大学の生物学者であるLena van Giesen氏らの研究チームは、小さな隙間が空いた板で区切られた水槽の一方にタコを、もう一方にタコのエサであるカニを入れて、タコが隙間からエサに足を伸ばすのを観察する実験を行いました。

その実験の様子が以下。カニが入っている水槽には、なにもない吸着カップと、カニが固定されている吸着カップがありますが、隙間から差し込まれたタコの足は何もない吸着カップを素通りしてしまっています。



カニが固定された吸着カップも、1度は素通りしましたが……



エサに気付いたのか、タコは再びカニに足を伸ばし、吸盤を使ってカニを絡め取りました。



カニがなかなか吸着カップから外れないため、タコはさらにもう1本の足を使い、どんどんカニを引き寄せました。



この実験から、「タコの足についている吸盤には、化学的なセンサーの役割があり、エサとそれ以外を区別しているのでは」と考えた研究チームは、タコの吸盤から細胞を採取し、どの細胞がどんな刺激に反応するかを詳しく分析しました。その結果、タコの吸盤には「接触のみを検知する細胞」と「化学物質に反応する化学受容器を持つ細胞」があることが分かりました。

研究チームは次に、タコの吸盤の細胞から分離した化学受容器を、カエルやヒトの細胞に組み込みました。カエルやヒトの細胞には、もともとタコの化学受容器のような機能はないため、タコの化学受容器の反応を見るのに向いているのだとのこと。研究チームは、こうして作った細胞をタコのエサとなる魚介類から抽出したエキスや塩、糖、アミノ酸などさまざまな物質にさらすという実験を行い、タコの化学受容器がどの化学物質に対して働くのかを調べました。

研究チームは当初、水中に住むタコは「水に溶ける化学物質」を感知していると予想していましたが、この実験によりタコの化学受容器は「水に溶けにくい化学物質」に反応することが分かりました。

論文の共著者であるNicholas Bellono氏は「水溶性の化学物質は、発生源から遠く離れた場所まで移動するため、生き物の中にはこれを利用して遠くから獲物の匂いを嗅ぎ取ることができるものもいます。しかし、触れたものの味見ができるのであれば、水に溶けず海中を移動しない化学物質を検知する方が理にかなっています」と話しました。



また、研究チームはタコの吸盤から採取した感覚細胞は、タコの墨にさらされると機能が停止することも突き止めています。これについて、van Giesen氏は、タコが危険を察知した際に墨を噴射することを念頭に、「特定の状況で、生命にとって重要な情報をフィルタリングしているのかもしれません」とコメントしました。

研究チームは今後、タコの吸盤がどのような天然分子に反応するかについて、さらなる研究を進めていく考えだとのことです。