【佐藤 優】このままでは完全に呑まれる…アメリカが中国を恐れる「本当の理由」 日本も消滅危機に

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コロナ禍で対立はますます加速

コロナ禍によって世界は大きく変化するというのが大多数の有識者の見解だ。その中で、フランスの人口学者で歴史家のエマニュエル・トッド氏は、自著の『大分断』まったく別の見方をする。

〈二〇二〇年、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が猛威を振るいました。多くの国はロックダウン(都市封鎖)を行ない、経済活動や人の行き来を停止しました。コロナ以後(ポスト・コロナ)について、私は「何も変わらないが、物事は加速し、悪化する」という考えです〉。

コロナ禍によって、グローバリゼーションに歯止めがかかり、国家機能が高まった。

しかし、トッド氏によれば、そのような傾向は、米国におけるトランプ大統領の誕生、英国のEU(欧州連合)からの離脱のように、コロナ禍以前から生じていたものに過ぎない。コロナ禍によって、米中対立が加速するとトッド氏は見る。

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〈中国とアメリカの間で起きているのは単なる貿易戦争ではありません。

トランプが大統領に当選した一つの理由は、アメリカの労働者たちが中国との競争に苦しんでいるからということもありますが、中国が地政学的な側面においても非常に攻撃的になってきているという点にも注目すべきでしょう。

そしてこの紛争は三つの側面を持っています。一つ目は貿易、二つ目が軍事、そして三つ目が文明です。なぜならば、全体主義で警察によって監視されている中国は民主主義を脅かす存在と見なされているからです。

問題は貿易戦争以上のものであり、むしろ地政学的な問題でしょう。世界一位のアメリカが中国にその地位を乗っとられるのをただ待っているわけがありません。これは良い悪いといった問題ではなく現実なのです〉。

米中対立は「新冷戦」ではない

7月下旬に米国がスパイ容疑で在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を要請し、中国はそれに応じた。中国は対抗措置として在成都米国総領事館の閉鎖を要請し、米国がそれに応じた。米中対立は、既に外交戦争に発展している。

米中の緊張を新冷戦と表現する論者がいるが、評者はそのような見方は楽観的過ぎると思う。冷戦とは、武力衝突を避ける形で、米国とソ連が対立した状況を指す。

米中間では冷戦にとどまらず、例えば南シナ海で米軍と中国軍が武力衝突する「熱戦」になる可能性が排除されない。

米中対立に日本も巻き込まれ始めている。トッド氏は、日本にとって中国は大きな脅威であると考える。その最大の要因は、中国の人口が日本の約10倍もあることだ。

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〈国際関係には必ず、文化同士の類似性という点が重要になってきます。日本と中国の何が違うかというと、中国の人口が日本の一〇倍以上もあるという点なのです。だから中国と日本が共通の政治圏を築くということは、結果として日本の消滅を意味します。

これは単純に人口規模の違いなのです。ゆえに、ベトナムは中国の脅威を退けるため、あれだけひどい目に遭わされたアメリカとの和解を全くためらわなかったのです。

とにかく、世界人口の約五分の一を占める中国に対しては、彼らとの統一を目指すよりも、彼らから身を守ることを考えるのが当たり前だと言えるでしょう。

さらに言えば、今の中国は新たな全体主義システムを生み出したところですから、日本は今のところアメリカと同盟関係を結ぶしか選択肢がないわけです〉

日本で核武装論者が増える?

中国に呑み込まれるシナリオを避けるために日米同盟を堅持することは不可欠だ。それと同時に、日本はロシアとの関係を改善する必要がある。

トッド氏は、中国とロシアの双方と対立している現下の米国の外交政策を稚拙と考えている。中国に対抗するために米国がロシアと連携する可能性も排除されないとトッド氏は考える。

〈昔、フランスはオーストリア帝国への対抗策として、プロイセンと同盟を組んでいました。しかしそこで同盟関係の反転が起きます。フランスはオーストリアと、プロイセンはイギリスと同盟を組むのです。そして七年戦争に突入し、フランスは敗戦します。

このように歴史においてはある時突然、戦略的な変化が訪れることがあります。キッシンジャーとニクソンが共産主義圏を壊すために中国に歩み寄ったことなどもそういう例の一つです。

そして現在、どうもこの戦略的な構図が通常とは異なる様相を見せています。無責任で、経済的にも非現実路線を行く二つの権力が中国とドイツです。

そして世界は、この構図の再編成への準備を整えたように見えます。そこではアメリカとロシアが世界平和を保つために同盟を組むでしょう〉。

米ロが連携するような状況は、日本にとって北方領土問題解決の好機となる。

トッド氏は、中国に対抗するための日本の秘策についてこう述べる。

〈私は「日本は核武装をしたら良い」と考えます。もちろん、日本は被爆国として核保有に対する抵抗が強いこともよく理解しています。

しかしあの時代はアメリカが唯一の核保有国で、また、アメリカ自体が非常に人種差別的な時代であったという背景も含めて考えるべきなのです。

確かに日本では福島の原発事故がいまだ記憶に新しく、日本の核に関するリスクは地震と津波であるという点も理解できます。

しかしそれでも、結果的に日本は国家の自立を守るために核エネルギーの利用を続けています。私からしてみたら、リスクの高い核の利用法(原発)を続け、一方で国の安全を確実なものにする方の核(兵器)を避けていると見えるのです。

日本が核武装をすれば中国との関係は大きく変わり、この規模の異なる二国間の平和はほぼ永久的に約束されると思います〉。

評者は、日本は核武装すべきではないと考えるが、トッド氏のような核武装を唱える論者が今後、日本でも出てくる可能性がある。

『週刊現代』2020年8月22・29日号より