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 ディープインパクトが不慮の死を遂げたのは、昨年(2019年)の7月30日。あれから、もう1年になる。

 ただ、それほど時間が経ったのかと思うくらい、ディープインパクトはいまだに、少しも色褪せることのない存在感を放っている。

「不在」の「存在」。

 いないことがかえって、いるかのような、強烈な存在感を生む――そんな思いにさえ、とらわれる。


種牡馬になって、牧場でゆったりと過ごしていた頃のディープインパクト

 なにしろ、ディープインパクト自身はこの世にいないにもかかわらず、彼の実績として刻まれる名誉や数字的なものが、健在だった時と少しも変わらずに推移し続けているからだ。

 2012年から君臨しているリーディングサイアーの座は、昨年も難なく保持。今年もここまで、賞金額で2位のロードカナロアに倍近い差をつけて、定位置のトップを守り続けている。その座をこのままキープして、今年で9年連続のリーディングサイアーとなることは確実だ。おそらく、わずかなラストクロップがクラシックに挑む3年後ぐらいまで、その記録は伸び続けるのではないだろうか。

 しかも今年は、その産駒からコントレイル(牡3歳)という無敗のダービー馬が誕生した。ただ勝ち鞍が多いとか、獲得賞金が多いというだけでなく、待望の大物を世に送り出したのだ。

 種牡馬としてのディープインパクトは、その父サンデーサイレンスに劣らず、凄まじい実績を残している。数多くのGI馬を輩出し、ダービー馬も昨年までに5頭も出した。しかしながら、「これぞ後継馬」と言えるほどの傑出した存在は出していないことから、その輝かしい実績に対しても、ケチをつける声が少なからずあった。

 だがそうした揶揄も、コントレイルの登場で一掃。「大種牡馬は晩年に大物を出す」という格言も、きっちり証明してみせた。

 加えて、ディープインパクトの存在感を改めて際立たせたのが、先の7月13日、14日に行なわれた競走馬のセリ市『セレクトセール』。同産駒が強烈な人気を誇ったのだ。

 昨年、亡くなる前に24頭の牝馬に種付けしているが、その半数以上が海外所有ということもあって、当歳馬での出展はなかった。その分、”実質的なラストクロップ”とも言える1歳馬たちは大盛況となった。

 なかでも、圧巻だったのは、母シーヴの2019(牡)が登場した時だ。

 この牡馬は、半姉がケンタッキーオークス馬という良血で、セリの最初の価格設定がなんと1億円だった。にもかかわらず、その価格はみるみると吊り上がって、最終的な落札額は5億1000万円(税別)にもなった。国内1歳馬のセリ価格では、史上最高額を更新した。

 以降もディープインパクト産駒は、次々と高値で取引され、シーヴの2019(牡)の5億1000万円を筆頭に、1位〜6位までをディープ産駒が独占。価格上位10頭中、8頭がディープ産駒だった。もちろん、8頭すべての落札価格は1億円を優に超えた。

 まるで、その不在を惜しむかのように、ディープインパクトの残り少ない血が、熾烈な争いによって求められた。

 まさしく「不在」ゆえの「存在」である。

 だがその一方で、ディープインパクトが不在であること、その意味の重大さを、今回の『セレクトセール』で強烈に思い知らされた。ディープ産駒が争うように求められた状況もその要因ではあるが、何より大きかったのは、その場で述べられた社台ファーム・吉田照哉代表の言葉だ。

 吉田代表は、日本競馬界は数年後、「ある方程式が通用しなくなる時代が来る」と言った。

 その方程式とは、「GIやクラシックを勝つ」ためには「ディープインパクトの子を買う」ということだ。

 たしかに、その”方程式”は厳然としてあった。

 それゆえ、馬産地ではディープインパクトの”種”が求められ、セリ市や牧場では「ディープの子」というだけで売れた。そして実際、そのディープの子たちが結果を出していった。

「だが、これからはそうはいかない」

 吉田代表はそう言った。続けて、こう語った。

「(これからは)どの種牡馬の子が走るかは、誰にもわからない」

“方程式”のあった時代を、混沌の中へと引きずり込む……。 ディープインパクトとは、本当にすごい馬である。