人生で後悔しないためには、どうすればいいのか。営業コンサルタントの大塚寿氏はビジネスマン1万人以上に「50代を後悔している理由」を聞いた。その結果、後悔の理由は大きく12個にわけることができた。大塚氏は「すべての根っこは『定年後の人生設計をしていなかった』ことにある」という――。

※本稿は、大塚寿『50代 後悔しない働き方「勝ち逃げできない世代」の新常識』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

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■50代の後悔を「1万人」に聞いた

50代を後悔している人たちは、どんな「もっと〜〜すればよかった」「あれはやめておけばよかった」という思いを抱えているのでしょうか。

「1万人インタビュー」で頂いた様々なメッセージは、大きく「12」に分けることができます。その後悔の大きさから「12の後悔ランキング」として、ご紹介します。

【50代を後悔している理由12位】守備範囲が狭すぎた

これは、「役職定年以降、あるいは60歳定年以降の活路を中小企業やベンチャー企業に求めようとする場合」というのが前提の話です。

そうした人材を雇う側にとって、ずっとネックになっているのは、とくに大企業出身者の守備範囲の狭さです。たとえば、人事を含めた総務全体を任せたいのに、「実はファシリティー関連しかできません」では選んでもらえないのです。

そうならないためには、専門の両サイドにある業際的な業務を、準専門レベルまで引き上げる勉強や経験を積んでおかなければなりません。そのことに役職定年後に気づいても、厳しいようですが、遅すぎるのです。

【50代を後悔している理由11位】「年金は夫婦で月24万円」など、一般論を信じ込んでいた

私たちは、

「年金は夫婦で月額24万円ぐらい」
「60歳からの再雇用は、時給1200円程度が普通」
「60歳以上の再就職は、年収300万円に満たないのが普通。高望みは厳禁」

という一般論を信じてしまいがちですが、これらはあくまで平均的な話です。

当たり前のことですが、市場価値というのは相対的なものです。希少性までいかなくても、採用ニーズさえあれば、何歳になろうが時給1200円とか年収200万円台とは比較にならない金額で、新たな職を得ることができます。

具体的には、技術者、設備系、施工系、製造系、生産管理系人材、あるいはドライバーは不足しているので市場価値は高いです。方法さえ知っていれば、年収300万円レベルではない再就職が可能になります。

一方、事務方は貿易実務や財務、経理、総務、人事といった明確な専門性の有無によって明暗が分かれます。

微妙なのは営業系です。特定の海外に精通していたり、国内でも事業経営、営業戦略の立案までできる人材は別として、プレーヤーとしてとなると、新規開拓で億単位の売上増に貢献できそうなスキルや人脈でもない限り、「年収300万円レベルではない再就職」は難しいのが現実です。

■「自分の限界」は決めなくていい

【50代を後悔している理由10位】自分の可能性を過小評価していた

多くの方が、「『自分はどうやらこの辺りまでだな。50過ぎたし、今更スキルアップや人脈拡大のために必死に頑張らなくてもいいや』と、限界を勝手に決めていた」と、後悔しているのです。

組織の中で思うように出世できなかった人は「無力感」というものを学習しています。そのため「これまでだって大して報われなかったんだから、50過ぎた今から必死に頑張ったところで、自分には大したことできないだろうし……」と、自らを過小評価してしまう傾向にあります。

しかし、私がこれまでの30数年間で出会った経営者や、大手・中小企業の管理職から聞いたのは、「誰が昇進するかというのは、実力よりも『時の運』で決まった」といった話ばかりでした。

「仕事ができれば出世できるというわけではない」
「一人に認められたら7人の敵ができる」

といった話から総合すると、昇進するかどうかの決め手は、実力やスキルよりも運が大きかったのです。上司の好みや、たまたま所属していた事業部が主流か傍流か、だったりするのです。

だからこそ、リタイアした後にその事実に気づいて、後悔するわけです。

たとえば、K田さんは55歳での役職定年時にグループ会社の取締役に就任するのが既定路線のポジションにいたのに、20年以上前に直属の上司に楯突いたことが仇となり、フイになってしまいました。運悪く、たまたまその上司が常務になっており、回ってきた人事案を見て当時を思い出し、握りつぶしてしまったのです。

K田さんがその事実を人づてに聞いたのは定年退職後、自力で再就職先を探していたときでしたが……。

「グループ会社の取締役になっていたら、再就職先を探している現在のような形では“自分の限界”を決めてはいなかっただろう」と、K田さんは語りました。

■「自分の年収は適切なのか」を考えよ

あるいは、出世競争のような背景があったわけではないけれど、「長年働いてきて惰性を感じ、いつのまにか『自分の限界はこの辺りだな』と線を引いて、さらなる成長やアップデートの追求、人脈づくりをなんとなく止めてしまった」という後悔も多くありました。

自社への帰属意識というのは厄介なもので、50代以降は、自分の市場価値を知る上での障害になりかねません。

「自分の価値は、本当にこの年収分なのか?」と、疑わなくなってしまうのです。

市場価値以上の年収をもらっている人もいれば、逆に過小評価されてずいぶん低い年収に甘んじている人も少なくありません。

同じ50代でも、年収450万円の人よりはるかに生産性の低い人が年収900万円以上もらっている、なんて話はザラにあります。

逆に、斜陽産業となってしまった上場企業や業績不振の有名企業では、管理職でも年収700万円程度というケースは珍しくありません。成長市場の中小企業や外資に移れば年収が1000万円になるのに、その機会や可能性を知らない人がいかに多いことか……私は皆さんに、ここをお伝えしたいのです。

■「もっとやりたいことにチャレンジすればよかった」

【50代を後悔している理由9位】「やりたいこと」と「やりたくないこと」のバランスを考えていなかった

長年組織の中にいると「何がやりたくて、この会社に入ったか」ということすら、思い出せなくなるといいます。

上司に指示されるまま仕事をして10年、20年たつと、「やりたいことが何かなんて、考えても仕方ない。どうせ上の指示通りにやらないといけないんだから」と思うようになってしまいます。

当然、「やりたいこと」の方がモチベーションも高まるし力も発揮できるのですが、「そんなこと考えてもムダ。がっかりするだけで、むしろ精神衛生上よくない」と割り切って、月並みな手腕で仕事をこなすようになり、成長が止まってしまうのです。

そのことに後で気づいて、「あきらめずにもっと『やりたいこと』にチャレンジすればよかった」と、後悔するのです。

■再雇用の条件、退職金、年金……

【50代を後悔している理由8位】低い条件の再雇用に甘んじてしまった

定年間近になり、「再就職・転職や起業は面倒だし、社会保険もあるし」という安易な気持ちから、新入社員より低い条件の再雇用に甘んじてしまい、「別の選択をすればよかった」と、後悔している人がたくさんいます。

転職などのアクションや情報収集すら行わなかったことを後悔している人もいれば、アクションを起こしたり、これまでの人間関係からオファーをもらったものの、踏ん切りがつかなかったことを後悔している人もいます。

60歳の時点で年収500〜600万円の再就職先があったのに、時給1200円程度の再雇用に甘んじてしまい、仕事量と待遇のギャップに気づいて後悔に発展するというケースです。

【50代を後悔している理由7位】退職金、年金があまりに少なくシュンとしてしまった

しばらく前から、企業が50代や40代後半の社員に向けて「セカンド・ライフ研修」を実施するなど、定年後の人生設計を応援するようになっています。

研修の中身は、まず受講者が定年時にもらえる退職金と、定年後の年金支給額を個人ごとに明示します。そしてそこから現実的に生きがい、家庭、健康といった面を含めて、どのように定年後を過ごしていくか、計画を練るというものです。

金額を見た瞬間、思っていたよりもあまりにも少なくて「シュン」としてしまうので、暗い雰囲気の研修となるそうです。退職金や年金の額にあまりに無頓着すぎたという点で、このあと出てくる「1位」につながる後悔でもあります。

■思考停止という“生活習慣病”

【50代を後悔している理由6位】「ちょっと充電してから考えます」……“思考停止病”になっていた

長年、組織で生きてきた結果、「思考停止という生活習慣病」に罹患している50代は、軽く8割を超えるのではないでしょうか。

「思考停止病」とは、何かを考えるとき脊髄反射的に、

「会社はこう考えてるだろうから、私としては〜」
「部長はこう思うだろうから、私は〜」

と、なってしまうことです。

「役員はどう思うか」、「本部はどう判断するか」、「(顧客の)A社はどう判断するか」、と斟酌し、慮る日々が何十年も続いてしまうと、そこから解き放たれた自由な発想ができなくなります。

日本はとくにこの傾向が強いので、「自由に考えていい立場になったんですよ」と言われても、「そもそも『自由』ってどういうことだっけ?」と、戸惑ってしまうわけです。だから、「50代を卒業したら、何をしたいですか?」という質問に、組織人としてではなく個人として答えられる人が少ないのです。そのため、「えーと、ちょっと充電しながら考えますよ」なんて答になるのですが、これが「思考停止病」の顕著な例です。

なお、先に見てきた「9位」、「10位」は、この亜種と言えるでしょう。

■自分こそが「妖精さん」だった

【50代を後悔している理由5位】「働かないオジサン(オバサン)」になってしまった

これは、現役の50代の後悔の話になります。

歴史の長い大手企業では、下の世代や若手社員から「働かないオジサン(オバサン)」と揶揄される50代が増えています。20代向けのキャリアプラン研修などでは、朝しか存在を確認できないことから、「妖精さん」という奇妙な呼び方まで登場する始末です。

若手の間では、「ITリテラシーが低く、新しい技術についていけないシニア社員のおかげで、自分たちの負担が増えている」という不満が募っています。

「そういう生産性の低いシニアの年収が、自分たちよりずっと高いのはどういうわけだ」と、平然と言います。

「俺は『働かないオジサン』ではない」と自分に言い聞かせる反面、心のどこかでは、「そう思われても仕方ないな、もっとキャッチアップしておけばよかった」という後悔をしている人も、数多くいるようです。

■「暇つぶし」は、所詮「暇つぶし」でしかない

【50代を後悔している理由4位】地域デビュー、妻と旅行、学び直しや趣味は暇つぶしにしかならなかった

巷の「定年後」の本では、

・地域デビュー
・妻と旅行三昧
・趣味に生きる
・学び直し

といったことが薦められています。

私も大賛成ですが、時間つぶしが主な目的になってしまうと、うまくいかないことが多いようです。

「それまで地域とまったく接点がなかったので、地域デビューしようにもきっかけがない」
「ボランティアサークルにいくつか入ってデビューしてみたものの、人間関係がうっとうしくて、どれもイヤになってしまった」

という声をよく聞きます。

そもそも、人とのコミュニケーションや付き合いが嫌いだったり、苦手だったりする人だって相当数いるはずです。

「妻と旅行三昧」にしても、そう思っていたのは夫だけで、妻は友達との方がよっぽど楽しく、「夫と旅行なんて冗談じゃないわ」という感じだったり、そもそもしょっちゅう旅行できるだけの資金がないという残念すぎる結末も耳にします。

「学び直しに励む」とか「趣味を究める」というのも、「暇つぶしでやるとなると、やりがいも感じないし、楽しくもない」と言う人が多いのです。

「定年後はゴルフ三昧!」と考えていた人に聞いたところ、「いつでもできる立場になってみたら、現役時代に忙しい中やりくりして出かけたゴルフの方が楽しかった」と言うではありませんか。

結局、「暇つぶしを目的に始めても充実感は得られなかった。人生の柱にはなりえなかった」というのが現実ということでしょう。

■今の50代は「逃げ切り世代」ではない

しかし、現在の50代の定年後は、そんな「優雅な暇つぶし」さえなかなかできない時代になるかもしれません。

ご存じのように、すでにリタイアしている世代は、「逃げ切り世代」です。持ち家も多く、1社への勤続期間も長いので、それなりの資産があります。退職金と、それなりに生活できる年金が支給されています。

ところが現在の50代はどうでしょう。

2020年に50歳の人は、1970年生まれです。大卒者の就活はバブル時に行われましたが、入社した年にバブルが崩壊。そこから「失われた20年」がスタートしています。

59歳の人は、共通1次世代です。20代でバブルを経験したものの、ビジネスパーソンとして過ごした期間の半分以上が、成長を終えた日本の「失われた20年」と重なります。

この世代は晩婚化も進行したので、子供に一番お金のかかる時期が、役職定年後や60歳をすぎて新入社員並みの年収となった再雇用の期間になってしまうという問題も、起こりつつあるのです。

50代にとって、退職金と年金だけで定年後の暮らしが成り立つかどうかは不透明です。

■「会社名のない自分」を確立できているか

【50代を後悔している理由3位】組織の名前ではないアイデンティティを確立できていなかった

3位は「アイデンティティの喪失」です。

「○○銀行の大塚です」
「◎◎商事で部長をしております大塚です」

といった名刺や組織というバックボーンがなくなると、「自分にはこういう価値がある」と思えなくなってしまうのです。

とくに、財閥系と呼ばれる企業や大手有名企業出身者に多く見られます。

定年後に名刺を作り、裏に出身企業名や「元部長」などの肩書、はたまたご丁寧に出身大学・学部まで入れているシニアがいますが、これも「アイデンティティの喪失」を恐れた典型と言えるかもしれません。「会社の名刺がなくなっても消えないアイデンティティ」を確立できなかったという後悔も見え隠れします。

もちろん、独立・創業して新しい仕事を始めるさいに、名刺の裏に出身企業や出身校を入れるのは戦略的ですから、大いにやるべきと思います。

■年収が下がり、モチベーションも下がった

【50代を後悔している理由2位】モチベーションがどうしても湧かなくなってしまった

2位はモチベーションの低下です。「55歳の役職定年が射程圏内に入ったとたん、モチベーションが維持できなくなった」という後悔です。

まず55歳の役職定年で年収がガクッと下がり、さらに60歳からの再雇用で新入社員並みか、時給1200円程度の待遇になる企業が多いのです。900万円から1200万の人が300万円になるといった、「4分の1」、「3分の1」あたりが、よくあるケースだと思います。

役職の高い人ほど年収の下げ幅が大きく、モチベーションが保てなくなるのです。

たとえば、54歳で年収1800万円だった本部長が、55歳の役職定年で900〜1200万円程度に、さらに60歳で300万円になるイメージです。これは取締役や執行役員の一歩手前だった部長のケースですが、30年以上働いてきて、わずか数年の間に年収が6分の1になれば、誰でもモチベーションは危機に瀕するでしょう。

年収だけでなく、役職定年になったとたんに上司が年下になったり、経験やキャリアをあまり生かせない部門に異動になるのも、モチベーションダウンの原因になっています。

■「50歳から人生設計をすべきだった……」

【50代を後悔している理由1位】定年後の人生設計をしておくべきだった

「1万人インタビュー」における「50代を後悔している理由」の栄えある(?)1位は、他でもない、「定年後の『人生設計』をしておくべきだった」です。

ここには、

・「『人生に定年はない』と気づけなかった」という後悔
・「『80歳以後も人生は続く』と自覚しておくべきだった」という後悔
・「何も考えず、無為に過ごしてしまった」という後悔

も、含まれています。

「お金」や「人脈」、「やる気」も上位になりましたが、トップはこれでした。仕事に忙殺されて、それどころではなかった人も多いでしょうし、なんとなく漫然と過ごしているうちにいつの間にか60歳に、という人もいます。

意外に多かったのは、「定年になったら、まずはゆっくり充電しながら、その先のことを考えよう」と、思っていたタイプです。

しかしその充電中に、「現役時代、せめて50歳から、定年後の『人生設計』をしておくべきだった」と後悔するというのです。

役職定年や雇用延長が射程に入ってきた世代は、教訓にしたいものです。

■「4つの心構え」で対策できる

「12の後悔」、いかがでしたか?

大塚寿『50代 後悔しない働き方「勝ち逃げできない世代」の新常識』(青春新書インテリジェンス)

こんなに一気に見せられると、「どこから潰していけばいいのか、もう分からん!」と、すでに心が折れそうな人もいるかもしれませんが、気を落とされることはありません。

「12の後悔」それぞれに対策を講じる必要はありません。

まずは本書『50代 後悔しない働き方』でふれる「4つの心構え」を押さえてから、本書で説明する「自分にできそうなこと」を実行するだけで、拍子抜けするくらいサクサクと対処できるのです。

すべての根っこは「定年後の人生設計をしていなかった」ことにあります。逆にいえば、先々の設計をしておけば、12のうち多くの後悔は防止できるのです。

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大塚 寿(おおつか・ひさし)
営業コンサルタント
1962年群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。オンライン研修「営業サプリ」を運営する株式会社サプリCKO。著書にシリーズ28万部のベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)など20数冊がある。
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(営業コンサルタント 大塚 寿)