1/12マット・へネックは、この写真をウィーンで撮影した。2013年に開始した自身のプロジェクト「Silent Cities」のなかの1枚だ。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK2/12標高約6,900フィート(2,100m)のゴッタルド峠は、スイスアルプスを越えてスイス北部と南部を結ぶ道になっている。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK3/12へネックは中国の広州市で、誰もいない公共スペースの写真を撮影した。これらの写真は新型コロナウイルス感染症のパンデミックを思い起こさせるが、どれも2013〜19年に撮影された。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK4/12上海市内にある小さな公園。へネックが写真家として追い求めるのは、有名な観光地ではない。巨大都市のどこかにある、人に知られていない一角だ。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK5/12台湾の台北で撮影。この写真のように、どこの都市か識別できないシーンも多い。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK6/12中国の西安市で撮影。へネックは“普通ではない”風景を見つけるため、何日もかけて町中をランダムに歩き回った。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK7/12フランスのエクス=アン=プロヴァンスで撮影。へネックの狙いは、都市の人工物にも、自身が撮影する自然写真と同様の、時代を超越した感じを与えることだ。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK8/12ローマで撮影。へネックの手にかかれば、見慣れた都市もいつもと違って見える。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK9/12へネックのレンズを通すと、大阪にあるこの工場も、地層のように揺るぎなく変わらないものに見える。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK10/12東京で撮影。「大通りから2〜3ブロック外れるだけで、このような手つかずの静かな、驚くべき場所に足を踏み入れることができます」と、へネックは語る。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK11/12ニューヨークのように混雑の激しい都市では、人がフレームアウトするまで何時間も待たなければならないことも多々あった。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK12/12テキサス州ダラスで撮影。さまざまな都市を何度も足を運ぶうちに、へネックはそれぞれがもつ個性を深く知るようになった。PHOTOGRAPH BY MAT HENNEK

ひとけのない通り。そのままに放置された町の広場。静かな空港──。

「「誰もいない都市」は“コロナ禍”の前から予見されていた? ある写真家が7年前からとらえていた12のシーン」の写真・リンク付きの記事はこちら

ドイツ生まれの写真家マット・へネックが撮る写真は、世界の大半をシャットダウンに追い込んだ新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を思い起こさせる。だが実は、へネックが自身のプロジェクト「Silent Cities」に取り組み始めたのは、2013年のことだ。

へネックによる同名の写真集が20年4月にドイツの出版社Steidlから発売されたのは、単なる偶然だった。このプロジェクトには何年もの歳月が費やされてきたのだ。

「偶然から生まれた“予言の書”のようなものなんです」と、へネックは語る。「おかしな話なんですけれどね」

自然写真に対する愛

へネックは過去7年にわたり、世界各地のさまざまな都市で撮影を続けてきた。行く先々で自由時間があると、彼は愛用の「ライカM9 」を持って町に出た。有名な場所は避け、新鮮な風景や偶然の発見をひたすら追い求めたのだ。

「でたらめに歩き回ったほうが、いつでもいい結果が得られるんです」と、へネックは語る。「左に行く、右に行く、そのまままっすぐ歩き続ける。すると突然、何かが目に飛び込んできます。この作品を通して発見した、すべての場所に感謝しています。どれも観光コースにはないものばかりですから」

写真のなかに人間の姿を入れないというルールは、へネックの自然写真に対する愛から来ている。彼の手にかかると、高層ビルや幹線道路は、山や川と同じぐらい永遠性を備えたものに見える。もし人の姿を入れていたら、その構成は乱されてしまっていただろう。

とはいえ、ニューヨークや東京のような大都市で人がいない街並みを見つけることは、口で言うほど簡単なことではない。なかには、完璧な瞬間が訪れるまで数時間も待って撮影された写真もある。

「ある光景を見たとき、自分のなかに湧き上がってくる感情を捉えようとしてきました」と、へネックは語る。「色、素材、少しの自然、ここに板、そこに緑……これらすべてが混ざり合うとき、自分のなかで何かが起こるような気がするんです」

見たことのない場所を求めて

言うまでもないことだが、最近はパンデミックによって「誰もいない都会の写真」をいたるところで目にするようになった。写真家たちが外出制限を利用して、ひとけのないタイムズスクエアやシャンゼリゼ通り、ピカデリーサーカスなどの一生に一度の写真を撮影しているからだ。

しかし、へネックはその仲間には加わっていない。普段の大都市のなかで静かな一角を見つけることにこそ興味を抱いている彼は、いまの危機が去ってからプロジェクトを再開するつもりだ。

「わたしがやっていることとは180度違います」と、へネックは言う。「ほかの写真家たちが足を運ぶのは、ひとけのなくなった有名な場所です。わたしが行くのは、見たことのないような場所ですから」

わたしたちと同じように、へネックも世界が再び開かれるのを待っている。そのときが来たら、彼はライカを持って再び路上に出るだろう。未知なるものを求めて。

※『WIRED』によるドキュメンタリー写真の関連記事はこちら。