「パラサイト」ロケ地探訪を推すソウル市観光公式サイト「visitsoul.net」

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 アジア映画で初の米・アカデミー賞作品賞を含む主要4冠を受賞した、韓国映画『パラサイト・半地下の家族(原題:寄生虫)』。非英語映画としても初の作品賞受賞、韓国のメディアはこぞってその快挙を称えている。

 AFP通信によればこの度の受賞を機に、映画のロケ地巡りが韓国の新たな観光コースとして人気だそうだ。話題の映画の、いわゆるロケ地巡りはこの映画に限ったことではなく、かつての韓流ブームの際には「冬のソナタ」のロケ地巡りに日本人ファンが大挙押し寄せたり、日本でも「ロケ地」ではないが、アニメ作品の舞台となった地域の「聖地巡り」が変わらずブームであったりと、話題作品には付き物の経済的な副産物であるが、この「パラサイト・半地下の家族」のロケ地観光を巡り、韓国ではなぜか反発の声が広がり始めている。

 韓国・ハンギョレ新聞によれば、今回の米・アカデミー賞での4冠と受け、ソウル市とソウル市観光財団は、映画の撮影地の観光コースを作る計画を明らかにした。

「映画専門家と巡るファンツアー」と銘打ち、映画の主要ロケ地4か所を巡るという。またソウル麻浦区も孫基禎路にある半地下の家族の息子であるキウが、最初にアルバイトの誘いを受けるお店の周辺を、観光コースとして開発する予定である。

 市街地ばかりではなく、映画を撮影した京畿道のアクア特殊撮影スタジオ(浸水シーンを撮影)も、既に取り壊した映画のセットを復元し、体験型の観光施設を設置することを明言している。

◆外貨狙いの”貧困ポルノ”化に半地下出身者は不快感

 自治体や映画関連施設がこぞって『パラサイト・半地下の家族』を観光資源化しようとする背景には、近年、日本との外交摩擦による日本人観光客の激減や、新型コロナウィルスによる中国人観光客の入国制限等がある。今回の受賞を機に、アジアばかりではなく、欧米の観光客をより多く呼び込みたい、背に腹を変えられぬ事情もあるのだろう。

 国を挙げての映画の撮影地巡り。しかしこれが、韓国の一部では「貧困ポルノ」ではないのかという批判に繋がっているのだ。

 ハンギョレ新聞では、幼い頃に半地下での生活を余儀なくされたという人たちのコメントを掲載している。

「これはそのまま貧困ポルノだ。誰かにとっては思い出したくもない貧困の記憶が、誰かにとっては商品になる。地方自治体がこぞって『商品化』する行為が理解出来ない」

「(観光地化を進める)今の状況自体が皮肉だ。映画では貧困層が支離滅裂な一日を過ごす反面、富裕層は大雨が過ぎ去ったあと優雅にパーティーを開くように、貧困層にとってはリアルな生活であっても、そうでない人たちにとっては展示物にしかならないというのが切ない」

 観光される側の声は切実だ。

◆貧困の商品化は映画の主旨に反している可能性

 そもそも映画の舞台にもなった半地下という特殊な生活スペースは、古くは北朝鮮との戦争に備え、都市部の建物に防空壕や非難所にもなる地下室の設置を国の政策として推し進めた歴史があり、東西冷戦構造が崩壊した後は、通常の住居スペースとしては建築上の法的基準を満たさないために、主に貧困層の人々に格安で貸し出されたという経緯がある。

 今でも韓国の都市部には、映画のような半地下アパートは多く存在し、今でも30万を超える世帯が地下もしくは半地下で生活している。

「パラサイト・半地下の家族」自体が韓国の格差社会に対する批判的視点で製作されており、その視点こそが世界中の観客の共感を得た重要なポイントである。貧困の風景を商品化することは、映画の主旨にも反するし、韓国が国策として進める都市開発からもロケ地が取り残されてしまう憂慮もあるのだ。

◆過剰反応であるという声も

 一方でこのような映画ロケ地の観光開発は一般的なマーケティングに過ぎないという反論もある。

 映画のファンが、映画のロケ地を巡りたいと思うのは普通のことであり、貧富の格差を目の当たりにして自身の幸福感を得る事が目的ではないので、「貧困ポルノ」という批判は過剰反応であるとの声。

 アメリカのみならず日本でも「パラサイト・半地下の家族」を上映する映画館が急激に増え、とうに上映期間が過ぎていた韓国でも今回の受賞により、ポン・ジュノ監督が自らチェックしたモノクロ版の再上映が始まるという。

 多角的な議論や考察を呼ぶ「パラサイト・半地下の家族」を巡るシンドロームは、なんにせよ当分続くのであろう。

<文/安達夕>

【安達夕】
Twitter:@yuu_adachi