YouTubeで暴力的なムービーをチェックする監視スタッフの健康被害が問題になっている
by Rachit Tank
YouTubeには毎日大量のムービーがアップロードされますが、その中には規約に違反したものもたくさん含まれています。YouTube上を監視して規約に違反したムービーを見つけ次第削除する「コンテンツモデレーター」と呼ばれるスタッフが、その過酷な仕事内容で精神に大きなダメージを受けていることを、技術系メディアのThe Vergeに激白しています。
Google and YouTube moderators speak out on the work that’s giving them PTSD - The Verge
テキサス州オースティンにあるGoogleのコンテンツ管理施設では、何百人ものコンテンツモデレーターがYouTube上のコンテンツを監視しています。Googleは、児童虐待やテロリストなど、暴力的で過激なムービーをまとめた「VEキュー」を取り扱うチームを設立しており、同チームの業務はコンテンツモデレーターとしての業務の中でも最も過酷なものと言われており、日常的に暴力や虐待を含む映像をチェックすることとなります。
VEキュー対応チームは十数名の中東系移民の派遣社員で構成されており、1日に120時間以上ものムービーを5時間という業務時間でチェックするように要求されるとのこと。2018年にYouTubeのスーザン・ウォシッキー氏が「コンテンツモデレーターの業務負担を1日4時間に減らす」と宣言しましたが、業務時間は変わっていないそうです。休憩時間は15分の休憩が2回、昼食休憩が30分、ウェルネスタイム9分が認められていますが、The Vergeによれば、休憩中の勤務を強制されたり膨大なムービーを処理する必要から休暇の取得を拒否されたりすることもあるとのこと。なお、コンテンツモデレーターの時給は18.5ドル(約2000円)、年収はおよそ3万7000ドル(約405万円)で、2年は昇給していないそうです。
そんなコンテンツモデレーターの多くが、うつ病や不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を訴えているとのこと。Googleはこうした健康被害に対処するため、フルタイムで働く正社員のコンテンツモデレーターに手厚い医療サポートを提供しており、数カ月の有給医療休暇の取得も認めています。しかし、派遣社員には有給医療休暇の取得がなかなか認められず、正社員と同じグレードの医療サポートは提供されていないとThe Vergeは報じています。
by Leon Bublitz
VEキュー対応チームのコンテンツモデレーターとして2年近く働くピーターさんは、同僚が職場で倒れて苦しんでいるところや、不安やうつ病で食事を取らなくなった別の同僚が栄養失調で入院する場面を目撃しています。ピーターさん自身も、VEキュー担当に回されてから精神的にも肉体的にも健康が悪化。体重が増え、髪の毛が抜けるようになり、気性も荒くなった上、休日でも胸の動悸(どうき)が止まらなくなることがあると述べています。
「毎日誰かが誰かの首を切ったり、誰かが自分のガールフレンドを銃で撃つのを見ています。この世界は本当にクレイジーです。気分が悪くなり、生きる価値がないと感じます」とピーターさんは語りました。
同じくVEキュー対応チームで児童性的虐待のムービーをチェックしていたデイジーさんは、幼稚園児のグループが歩いているのを見た瞬間に、ロープで縛られている子どもたちやレイプされている子どもたちの映像がフラッシュバックしてしまい、パニック発作を起こしてしまったとのこと。デイジーさんはPTSDおよび慢性不安症を診断され、数週間の医療休暇を取得しましたが、結局半年間を療養に費やし、最終的にGoogleを退職しました。
by Szabo Viktor
2019年10月にGoogleは、コンテンツモデレーターへの健康被害を軽減するための実験を論文で発表しました。Googleによれば、チェックしなければならないムービーをグレースケール(白黒)で表示することで、コンテンツモデレーターの精神的負担を抑えることができたと論じています。また、機械学習によって血の色を緑に変えたり、自動で画面内の一部にぼかしをかけたりする方法も研究されているそうです。
「コンテンツの監視には、可能な限り多くの人が必要です。しかし、システムそのものやこの作業を行う方法を全体的に考え直す必要もあります。コンテンツモデレーターとして活躍する人をどのようにサポートするのか、そしてこれに対処するためのツールとリソースをどのように確保するのか、それらを無視してしまうと、コンテンツモデレーターの健康被害という問題は悪化するばかりです」とデイジーさんは語りました。