東京ゲームショウで持ち上がった賞金問題とは? 写真は2018年9月に東京ゲームショウで開催された「ジャパンプレミア」での優勝者ときど選手。賞金500万円の目録を手渡されています(筆者撮影)

9月12日、幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2019」で、「2019年度日本eスポーツ連合(JeSU)活動報告&発表会」が行われました。ここではJeSUによる海外への取り組みなどさまざまなことが発表されましたが、その中で最も重要だったのが、eスポーツに関する法規制への取り組みについてでした。9月11日に発表されたeスポーツにおける賞金問題について書かれた「法令適用事前確認手続き照会書」についての説明です。

eスポーツで支払われる高額賞金はプロライセンスを取得することで仕事の報酬とすることができ、それにより景品表示法に抵触しなくなるという、これまでのJeSUの見解を覆すものでした。興行性のある大会であれば、プロアマの規定にとらわれず、仕事の報酬として賞金を支払うことができるようになります。

このこと自体は、筆者の記事(eスポーツの高額賞金、阻んでいるのは誰か)ですでに1年半以上前に明らかになったことですが、明文化することで、簡単に解釈を変更しにくくなったことが重要なわけです。

つまるところ、eスポーツ大会の賞金はプロライセンスの有無にかかわらず、仕事の報酬として受け取ることができ、その賞金額は景品表示法に定められた10万円もしくは商品の20倍である必要はなくなったわけです。

子どもも仕事の報酬として賞金を受け取れる

当然、仕事の報酬なので子どもであっても取得することはできます。子どもが労働して報酬を得ることに関しては、労働基準法に準拠します。労働基準法によると、満18歳未満の年少者は1日8時間、週40時間を超えて働かせることを禁止しており、午後10時から翌日午前5時までの深夜に労働させることも禁止しています。つまり、この2点さえ守っていれば、中学生であろうが、小学生であろうが、eスポーツの賞金を仕事の報酬として得ることはできると、消費者庁から確認を取っています。

ジュニアライセンスの規約にある「賞金の放棄」についての契約をしている以上、守らないのは契約違反だという意見もあるかと思いますが、不当な契約は無効にすることはできます。しかも、契約したときと、見解が変わっているので、契約内容の見直しをしてしかるべきではないでしょうか。

今さらこんな話をしなくてもいいようにJeSUが発表したわけですが、その発表した東京ゲームショウ2019で、その発表を無に帰すような出来事が2つ発生しました。

その1つが、9月14日に開催された「DRAGON BOOST presents パズドラチャンピオンシップカップ TOKYO GAME SHOW 2019」での出来事です。この大会は優勝賞金が500万円の大会で、優勝したのは中学生でJeSUの「ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス」の取得者のゆわ選手でした。優勝者のプロライセンスがジュニアライセンスであった結果、ゆわ選手は500万円の受け取りができなくなってしまいました。

JeSUの規定によるとジュニアライセンスでは、「賞金(報酬)の受領する権利を放棄するものとするが、JeSUにおいて相当と認める範囲のものに限り、商品を受領することができるものとする」と書かれています。そのまま適用されるのであれば、確かに賞金は受け取れないのはわかります。しかし、その2日前に賞金はライセンスの有無にかかわらず、仕事の報酬として受け取れることが発表された以上、ジュニアライセンスを盾に支払わないのは道理が合わないのではないでしょうか。

優勝賞金は500万円と発表されていたのに…

そして、2つめの出来事が9月15日に開催された「CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア」です。この大会では優勝賞金が500万円であることは事前から発表されており、公式サイトにも掲載されています。しかし、大会終了後の表彰式では、賞金額が大きく書かれたパネルの授与式が行われず、その場で明確な金額の提示はありませんでした。その理由は優勝したももち選手がプロライセンス取得者ではないからです。


副賞のゲーミングモニターの目録を手渡されるももち選手。この副賞があったため、賞金はさらに減額されました。そのあと、恒例の賞金の授与式はありませんでした(筆者撮影)

ももち選手は、JeSUによるプロの定義、ライセンスの発行者としての存在に疑問を感じ、プロライセンスの取得を拒否しています。現在、『ストリートファイターVアーケードエディション』のトッププレイヤーの中で、プロライセンスの取得資格を得ていながら、受け取りを拒否しているのは、ももち選手だけです。

これまでカプコンは、自社で主催する大会においては、このJeSUのプロライセンスによる規定に順守しており、プロ資格のない選手には賞金を景品表示法に則って一律10万円としてきました。その結果、昨年末に開催されたカプコンカップでは7位タイと言う好成績を残し、本来獲得できる賞金約50万円を約10万円に減額されるという事態が起きました。

これと同様に、今回優勝したももち選手には、10万円の賞金、厳密には副賞のゲーミングモニターの代価である3万9800円が差し引かれた6万200円の賞金のみが手に渡ることになったと、自身の動画配信で語っています。

ももち選手は、プロライセンスの取得を拒否しているものの、取得する基準(件の大会でファイナリストになること)は満たしています。そのため、カプコンカップで賞金が発生した時点、今回のアジアプレミアで賞金が発生した時点で、プロライセンスを取得すれば、満額もらえたことは間違いないでしょう。

しかし、賞金を受け取るためだけにライセンスをもらうことを良しとしないももち選手は、今回もライセンスの発行を断ったのではないかと考えられます。そう考えると、頑なにプロライセンスを拒否するももち選手が「プロライセンスの取得を認めてしまえばいいのに」という見方もありますが、それと同時にプロライセンスにこだわっているカプコンもいかがなものかと思う次第です。

そもそもなぜプロライセンスが作られたのか

そもそもJeSUがプロライセンス制度を作った理由は、景品表示法により高額賞金が出せなくなることを回避する手段として考えられたものだったわけです。eスポーツが日本で発展、普及することに対して、足かせとなりかねない高額賞金問題に対して解決の糸口として、策定しています。

高額賞金を出すようになったのは、海外の大会が高額賞金により盛り上がっている側面もあり、eスポーツの魅力の1つとして必要だと考えたからです。つまりゲームメーカーにとっても、選手にとっても、eスポーツ団体にとっても、プロライセンスの発行が幸せになるためのカギとなるものでした。それが、eスポーツ選手を苦しめる結果となるのは、本末転倒なのではないでしょうか。


2019年度日本eスポーツ連合(JeSU)活動報告&発表会に登壇するJeSU岡村会長(筆者撮影)

先の東京ゲームショウでのJeSUの発表会の後に行われた囲み取材で、筆者は岡村秀樹会長に今回のJeSUの発表に関して、JeSUに参加しているメーカーへ強制力があるかどうかを確認し、JeSUはメーカーに対して強制する立場でもなければ権限もないとの回答を得ています。

リアルスポーツリーグのように機構側と各チームの関係が完全に主従となっているわけではなく、あくまでもJeSUはeスポーツ発展に寄与するための団体であるわけです。つまり、今回の賞金問題についても、大会を運営するメーカーが最終的な判断をする権利を有しており、JeSUは介入することはできないわけです。

また、岡村会長には、プロライセンスがeスポーツの賞金を仕事の報酬としてもらうことができる唯一の手段としてきたことに対して、今回の発表により、最大の意義を失うことについても聞きました。「プロライセンスは形骸化してしまうものだが、ある種のステータスであると考えている」と岡村会長は言っています。

プロライセンスができて1年半経過する中でプロゲーマーの価値が上がり、それを証明する手段としてのプロライセンスが一定の価値を得ていることはJeSUが言わなくても肌で感じてきています。ある意味、調理師免許に近い感覚になってきたのかもしれません。調理師免許がなくても飲食店を開業(プロになる)ことはできますが、持っていたほうがある程度の知識と技量を持っていると、取引先や客に判断される指針の1つとして効果があるわけです。

ライセンスが賞金問題に関して何の効力もないことが発表されたにもかかわらず、以前の規定のみに準拠し続けるのは、JeSU参加メーカーとして、JeSUを尊重しているのか、していないのか、まったくわからなくなってしまいます。どちらにせよ、JeSUがメーカーに対して強制力がない以上、賞金の額や、それを支払える対象を決めているのは、メーカーにほかなりません。メーカーがゲーム業界全体を盛り上げるため、自社のコンテンツをより買ってもらうために、eスポーツをより広めたいのであれば、今回のような措置は自分たちの望みに対して正反対の行為と言えます。

自社が運営するeスポーツイベントに参加する選手をライセンスによって縛って、自分の思いどおりになるようにすることを良しとすることはないはずです。また、JeSUに対しても、国への折衝など面倒なことを押しつけ、決まったことに対して、気に入らない改変であれば無視するようなことを続けるのであれば、JeSUの存在意義そのものも疑いたくなってしまうのではないでしょうか。

ももち選手は配信した動画で、JeSUやカプコンと話し合う予定があるとのことを言っていました。もし、ライセンスが発行されることで残りの賞金が出るのであれば、ももち選手には、即座にライセンスを取得し、賞金を満額でもらってほしいところです。

賞金が振り込まれたらライセンス返上もあり

どうしてもライセンスのあり方に納得がいかなければ、賞金が振り込まれたことを確認したら、ライセンスを返上すればよいのではないでしょうか。賞金のためにライセンスを取るのはおかしいと思うかもしれませんが、そこまでこだわる価値がライセンスにあるのかは、今となっては疑問です。ももち選手がこれまでに訴えたかったことは、多くの選手、多くのファン、多くの関係者には十分届いており、これ以上訴えかけ続ける必要はないのではないでしょうか。

手段と目的が入れ違ってしまうことは、多々あります。今回の件も、プロライセンスの発行は、安心して高額賞金がかかった大会を開けるようにすること、選手としては受け取れることを目的としていました。つまりプロライセンスの発行は手段であって、目的は高額賞金の大会を開くことです。プロライセンスの価値を高めることでも、プロライセンスを使ってプロ選手を支配下に置くことでもありません。

高額賞金の大会を開くという目的が今回のJeSUの発表会でクリアされた以上、プロライセンスの有無によって賞金の額を変えることやジュニアライセンスに関する賞金を放棄するという要項は、必要のないものであることは明白です。そもそも高額賞金をかけることすら目的であるかと問われると、それすら手段であり、本来の目的は日本でeスポーツを普及させることです。今回の一連の行動を見て、多くのゲームユーザーやeスポーツを応援する人たち、さらにまだ興味を持ち始めたばかりの人たちが、eスポーツに対して憧れを持つようになるのか、呆れ果てるのか、考えれば答えは自ずとでるのではないでしょうか。