「ママ友」間のトラブル、なぜ起きる?

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「幼い子どもの母親であること」をきっかけにつながる母親同士の交友関係「ママ友」。子ども同士を遊ばせたり、情報交換ができたりするなど、育児上のメリットがある一方、近年では、ママ友間のトラブルやいじめの発生など負の側面も注目されています。

 ママ友のコミュニケーションがもたらす子どもへの影響について、元千葉県警上席少年補導専門員として、青少年の非行問題や児童虐待問題、子育て問題などに数多く携わってきた少年問題アナリストの上條理恵さんが解説します。

根底に「人よりも優位に立ちたい」感情

 ママ友間のトラブルの根底にあるのが「人よりも優位に立ちたい」という無意識の感情です。ママ(妻)同士ではなく、子どもや夫のステータスが比較対象となる傾向がみられます。特に子どもの比較がなされる場合、「成績」「運動能力」などの順位や習い事の等級、流行のグッズを持っているかどうかに至るまで、「うちの子の方が上」であることをアピールしたいのです。

 スマートフォンがなかった時代、ママ友間のトラブルやいじめは主に「陰口」で、ネガティブな内容でも本人の耳には入らないものでした。しかし、スマホやSNS、メッセージアプリが普及するとともに、かつての陰口は「文字」となり、その対象となる本人の目に触れやすくなりました。

 また、コミュニケーションを目的に企画されたランチ会などを欠席してしまうと、次回から全く声が掛からなくなり、メッセージアプリ内の「グループ」から外されたり、連絡が来なくなったりすることさえあるのです。このように、メッセージアプリ上でトラブルやいじめが可視化されやすい状況が生まれています。

 また、メッセージアプリの登場により、これまでは学校や担任教師を経由して保護者に伝わっていたことが、ママ友間で直接やり取りされるケースもみられるようになってきています。例えば「お宅の子が、○○君に悪さをしている」などの指摘が、学校の介入なしにママからママへ直接告げられるのです。

 こうした状況が生まれる背景には、個人情報の観点から「連絡簿」が姿を消した影響もあるでしょう。「子どもの防犯」を建前に、ママ友間で連絡先を交換・登録し、保護者同士が直接つながっていることで直接的な攻撃が行われ、裏目に出る現状があります。

「つるむ中学生」と同じ構図

 ママ友のコミュニティーの中には、「親分」のポジションに該当するママが必ず存在します。強い立場にある「親分」を取り囲むように、下に4〜5人のママがいるのです。いじめのターゲットとなるママ1人に対し、常に数人のママが取り巻いている状況です。つまり、「1対1」ではなく「1対4〜5」の構図であり、いわば一昔前の「つるむ中学生たち」と何ら変わっていないのです。

「親分」のママは、あることないことを言って味方のママを増やします。もし反抗するようなことがあれば、仲間外れにされ、グループ内に戻ることはできません。一方で、ママ同士が対立するケースでも、子ども同士の仲は良好なままであることもあります。

 しかし、こうした子どもの仲に親が介入するケースも珍しくありません。例えば、子どもたちの間に何らかのトラブルが発生したとき、子ども同士はすっかり仲直りしているにもかかわらず、親同士の関係が元に戻らず、親が子どもに「○○君とは遊んじゃだめ」と言い、それを聞いた子どもは「ママが○○君とは遊んじゃだめって言った」と、相手の子どもと遊べなくなってしまうのです。

 ママ友間でのトラブルは本来、子どもには関係のないもののはずなのに、トラブルを理由に子どもの人間関係を壊しているのです。それはもはや「保護者」ではないですし、親が「子ども化」しているといっても過言ではないでしょう。

 親の感情一つで子どもの人間関係が切られてしまい、結果的に、親も子どももグループの外へ追い出されてしまう…このようなケースは少なくなく、「子どものいじめ」が社会的問題として多く取り上げられる昨今、こうしたママ友間のトラブルの話を耳にするたびに「親の方はどうなのか」と疑問を感じます。

「巻き込まれたくないけど、断れない」。これがママたちの本音でしょう。コミュニティー内で嫌われたり、孤立したりするなどして、つまずきたくないからです。もし、学校内で起こっている子どものトラブルであれば、学校側が介入することで、双方の主張を聞き取り、相談に応じることも可能です。子ども間の事実関係を客観的に確認・整理することで、適切な判断もできるでしょう。しかし、親同士のトラブルに、学校側は安易に入ることはできないのです。

 ママ友間のトラブル自体は、おそらく今に始まったことではなく、以前から少なからず存在していたと思います。しかし、スマホやSNS、メッセージアプリの登場により、トラブルやその原因となる「種」が可視化されやすくなりました。広く知られる必要のない情報、家庭内でだけ表出させればよい感情や言葉…そうした「本来は隠されておくべきもの」がスマホなどのツールを通じて本人に届いてしまったり、自動的に見えてしまったりして追い詰められていくのです。

「客観性」と「中立性」を保つ

 子どもと母親、双方にとって良好な「ママ友との関係」には、「客観性」と「中立性」が不可欠です。

 例えば、「うちの子がお宅の○○君に殴られた」との連絡が入ったとき、事実関係を確認しないまま、その場ですぐに謝るのはNGです。まずは「息子に確認します」と伝え、実際に子どもと話してください。同様に学校にも確認し、状況を正しく理解・把握してから行動に移しましょう。決して感情的にならず、客観的な立場を忘れないことが重要です。

 そして、子どもの人間関係に親が立ち入らないことです。「あの子とは仲良くしたらだめ」と言ってはいけません。親の都合で子どもの人間関係を壊してはいけないのです。

 現代は、何かを、誰かを「攻撃したい」という思いがまん延しています。誰もがスマホやSNS、メッセージアプリを使う現代において、文字で感情的に表現をする「静かに激しい人」が増えているのではないでしょうか。ママ友間でトラブルが発生しても、そのときの感情一つで子どもを巻き込むことは許されません。スマホやメッセージアプリ全盛期の現代だからこそ、親には、適切なタイミングでブレーキをかけることができる冷静さが求められていると思うのです。