藤本美貴(写真:ジェイピールーム)

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2004年、ハロー!プロジェクトの女子芸能フットサルチームGatas Brilhantes H.P.(ガッタス・ブリリチャンチス H.P.)が発足した。東京都の公式戦に参加する一方、他の女子芸能フットサルチームとの大会「スフィアリーグ」も開催されるようになる。

試合は真剣勝負。誰も笑うこともないし、不満はストレートに顔に出す。試合に出られずふて腐れる選手もいれば、ときに険しい顔で味方同士が視線を合わせる。そんないつもは見られないアイドルの姿はファンの支持を集め、会場の体育館はいつも大歓声に包まれていた。

ガッタスで9番をつけ、攻撃の核としてプレーしていたのは藤本美貴。体の大きな相手選手にドンと押されると、表情は変えず必ず激しいチェックでやりかえす。そんな気の強い部分をさらけ出しても、藤本は大人気だった。

アイドルたちが自分の闘志を前面に出して人々の心を揺り動かしていたあの時代、チームの中は本当はどうだったのだろうか。藤本に当時の内情を語ってもらった。

【取材:日本蹴球合同会社・森雅史/写真:ジェイピールーム】


モーニング娘。でも先輩に文句言ってました



私、「波風(を立てる)」担当なんですよ(笑)。ハロープロジェクトのフットサルチーム Gatas Brilhantes H.P.(ガッタス・ブリリチャンチス H.P.)にいても、モーニング娘。でも。思ったこと言っちゃうし、我慢できないから。

ただ私、わーっと怒っても次の日普通だし。ときどき「湿度がない」って言ってもらうことがあるんですけど、自分でもそうかもしれないって。スポーツ選手の人もそうですよね。だから性格は「男」って感じなのかな。

しばらくやってたら、ガッタスもモーニング娘。も私のことをいい意味で諦めてくれたんでしょうね。私を更正させようとは思わなくなる(笑)。最初は「ボコって出やがって」って「出るくぎは打たれる」感じがあるんだけど、藤本だからって受け入れてくれてましたよ。

私、人の後ろでいろいろ何か言うとか、そんなのは嫌なんですよね。ちゃんと相手に言わなきゃわかんないじゃん、っていうのがそもそもあって。黙ってたら伝わらないから言ってみようって。

ガッタスで、キャプテンで唯一のサッカー経験者だったよっすぃー(吉澤ひとみさん)に対していろいろ言ってたのは、私だったし。自分はサッカーの経験ないのに。

でも団体競技だからひとりでやるわけにいかないし、うまいんだったらうまいなりに周りを使って自分を生かしてくれればいいのになって。私がシュートを打ちたいとかそんなことじゃなくて、みんなで進めようよって。

私って前に進むことしか考えてないから。そのためにどうしようかっていうのが最初にあって、それはフットサルでもそうだし、それ以外のなんでもそんな気がします。

私が言うと他の子はビビるって、あると思うんですよ。こんこん(紺野あさ美さん)とかビビってたかな。でも練習が終わったらそんな厳しい感じで話はしないし、立場が上だから、下だからっていう関係じゃないと思ってたんで。

モーニング娘。でも先輩に文句言ってました。ガッタスにしてもモーニング娘。にしても、ひとつのチームじゃないですか。メンバーは違っても、チームの中でそれぞれが力を出して上に上がっていかなきゃいけないという意味では同じなんです。負けたらそこで終わりでしたからね。練習試合でも紅白戦でも負けたくなかったから。

曲がったことがあると、私って基本的に曲がったことが嫌いだから、先輩だろうがダンスの先生だろうが意見してました。とりあえず言ってみようって。私、感覚がアメリカンなのかな(笑)。

自分で納得できないと嫌なんですよ。だから「なんでですか?」って聞くんです。それで自分が悪いと思ったら謝って、「1回教えてください」ってお願いしてます。

そうやって波風を起こした後って、誰かにフォローしてもらうよりも、私が意見したその子よりも常に上にいるようにがんばりますね。言ったからには絶対やるぞって。人に何か言うんだったら、自分も絶対やる。それは自分の中で決まってて。

波風立てるからには、その子だけではがんばらせない。自分も一緒にがんばる。あの人が言ってやってるんだから「やらなきゃ」みたいな無言のプレッシャーですよ。私はやってるからねって。

あの当時のガッタスの練習って週2回やってましたよね。かなり行ってたと思います。行かないと北澤豪監督が試合に出してくれないから。でも当時って、ライブが毎週あったから、大変は大変でしたよ。フットサルを朝練習して、そこからライブのリハーサルやってみたな。体力あったなって思いますね。

サッカーの日本代表を見て思うことがあるんですよ。本田圭佑選手って「力が落ちた」とか言われたりすることもありますけど、私はきっとああいう人ってチームに必要なんだろうなって。かき回してくれる。私、自分はちょっと似てるなって。

ガッタスでは後半、サッカーの経験者の女の子たちがいっぱい入ってきたんだけど、私が行ってないとき、勝てそうな相手にも勝てないときがあったんです。でもね、私が入ると勝てる(笑)。それは気合いの問題だなって思ってました。

私は実力では絶対経験者の子たちには勝てない。けど、その子たちを奮い立たせるとか、そういうのには自信があって。間に合わないと思ってるボールに対しても「いいから追いかけろ!」「粘ってボールを取れ!」「こぼれ球になったら受け取るから絶対止めろ!」って。そういう精神的な部分を支えてあげるのは得意かもしれないですね。

本田選手は、「プロフェッショナルと言えばケイスケホンダ」って言っちゃうくらい自分に自信を持ってると思うんですよ。でも、あれくらい自信を持つってことは、自分も努力してると思うんです。

努力をしてる人じゃないと、ああいうセリフは言えない。だから私は本田選手って努力はしてる人なんだと思うし、試合で本田選手がボールを持つと「行け!」って応援しますね。

「絶対認めさせてやる」って気合いが入りました



なんでこんなに「負けたくない」って思うようになったかって……自分ひとりで行動しているときってあまり感じないんですけど、たくさんの人の中に入ったりすると、自分の居場所を指示されるじゃないですか。写真に写るときに入るポジションとか。

そんなときに自分の扱いがわかりますからね。それでデビューして2カ月ぐらい経ったある日、思ったんです。私は新人で、歌ってる回数も少ないから下手だし、ダンスも踊れないけど、ひとつずつ認めさせていこうって。

認められるためには売れるしかないし、売れたら認めるはずだって。それからは「絶対認めさせてやる」って気合いが入りましたよ。あれが転機だったかな。

「今の私の場所ってそこね。じゃあここから上がっていくよ」って。そのためにはまず売れる、できるようになる、というところですよね。だから努力をずっと続けました。

ガッタスに入ったときも、最初はセレクションで選ばれなくて。ところがその1年後ぐらいの「ハロー! プロジェクト大運動会」でMVPとったんですよ。それをみた北澤監督がチームに誘ってくださって入れたんです。

私、運動神経だけはいいんです。得意なことでは負けたくないし。勉強とか苦手なことは、どうでもいい(笑)。どうでもいいか、絶対負けたくないか、物事の考え方が極端なんです。

今思うと、私って元々そういう気が強いタイプだったのかなって。「何かをできない自分」って受け入れたくないし、受け入れられないから。できないことっていっぱいあるけど、自分でできるようにしたいなって。

気が強いことを表に出さない子たちもいると思うんですよ。でも、私は「長いものに巻かれてちゃいけない」と思ったし。自分が正しいと思ったことは、やっぱり言わないと。人のために生きてるわけじゃないから、自分が後悔しないようにしないといけないなって。

私って自然体で生きてるから、楽と言えば楽なんです。アイドル時代から飾れなくて、飾ってる人を見たらちょっと羨ましいなって。プロフェッショナルだなぁって感心しちゃう。でも、私は恥ずかしくてできない。「照れるわ」みたいな。私がやると演技感出ちゃいそうだし(笑)。

人がこう言うからとか、みんながこうやってるからってことに付いてって失敗するよりも、どうせなら自分が選んだことで失敗したいってことがあるから。「立場の強い人がそう言うんだから、それでいい」って、そういうのはないです。

「(交際発覚の責任を取って)モーニング娘。を辞めよう」と思ったのも、やっぱり自分が選んだ決断で失敗するならそれでいいという気持ちだったからなんで。別れますみたいなことを言ってグループに残ったら、結果ハッピーじゃないと思ったんです。

もし自分が望んでないのに別れてグループに残ったとしたら、自分がおばあちゃんになったときに振り返って幸せじゃないだろうって。幸せじゃなかったら、そのときの決断は何だったんだろうってことになるから。だからどうするか自分で決めて、決めたことでどん底で落ちるなら落ちて。あとはそこから上がるだけだよねって感じですね。

私のこの性格って、もしかしたら4人きょうだいの末っ子だったからかもしれないですね。一番上に兄がいて、2歳離れて上の姉、2歳離れて下の姉で、その3人に付いていかなきゃいけない。末子って甘えん坊って言われるけど、全然甘やかしてくれる感じじゃなかったから(笑)。女は女に厳しいし、今思えば姉たちも、妹に舐められないようにがんばってたんですよね。

兄や姉から言われるんですよ。「え? これできないの? 恥ずかしい」みたいな。「え? リレーの選手じゃないの? 恥ずかしい」って。「えー? バレー部入ったの? 私たちみんな選抜チームに選ばれてるからお前も選抜に入るんだよな?」とか。だからきょうだいが一番の縦社会というか、育った環境がハングリーだったんです。

私、あんまり群れるのは好きじゃないタイプなんですけど、団体競技には向いてるんですよ。個人競技も好きだけど、団体のほうが燃える。結構ひとりで突っ走りたいんだけど、結局は誰かに一緒にいてほしいみたいなのがあって。

私の子どもは今サッカースクールに行ってるんですよ。野球かサッカー、どっちでもいいから団体競技やってほしいって思って、サッカースクールが近くであったんで通っています。走るし体力作りに最適なので。

それにサッカーって自分が思ってたところにパスが来たりすると、ひとりでは得られない快感があるじゃないですか。こんなに心が通ったときはないなって。普段は通わなくても(笑)。

自分が苦しかったときに思い浮かんだ曲は、モーニング娘。の「歩いてる」です。「ひとりじゃないから」っていう歌詞があって、「ひとりじゃないよ」「みんないるよ」みたいな歌なんですよ。そこが好きでした。

辛いときにみんながいるからっていう歌詞が入ってくると、「そうだよね」って思いたい自分もいて。個人プレーは大変で、自分自身と戦い続けるから。あ、そう考えると、私って誰か他の人と戦っていたいのかなぁ(笑)。(了)


藤本美貴(ふじもと・みき)

1985年2月26日、北海道生まれ。2002年、ソロ歌手としてデビューし、2003年にはモーニング娘。に加入する。2004年に参加したガッタス・ブリリチャンチス H.P.では副キャプテンを務めた。