■閉鎖する百貨店の共通点とは

全国各地で百貨店の撤退が相次いでいる。2017年3月に三越千葉店・多摩センター店、18年2月に西武船橋店・小田原店、18年3月に伊勢丹松戸店がクローズした。そのほか、18年だけでも山形市の十字屋、名古屋市の丸栄、姫路市のヤマトヤシキといった老舗百貨店が姿を消した。そのため、経済界では、「百貨店は将来性のない斜陽産業」といった論説が強まっている。

2018年6月、名古屋の百貨店・丸栄は403年の歴史に幕を下ろした。(時事=写真)

撤退した百貨店の共通点は、郊外店や地方店ということだ。品揃えが中途半端な郊外店は魅力に乏しく、ニーズが見込めるのは、食料品や化粧品くらいになってしまった。

マーチャンダイジング(MD)が硬直化し、顧客のニーズと乖離している典型例が、婦人服である。衣料品が売り上げの4割を占めていたのは過去のことだが、いまだに過大な婦人服売り場を抱えている。社会が高齢化した今、消費市場を牽引していくのはシニアなのに、高齢の女性客に訴求できる婦人服売り場を構築できていない。

また地方百貨店への影響で見過ごせないのが、耐震基準の見直しである。歴史の古い百貨店は、耐震基準を満たさなくなったケースが多く、そうした建物について、現行法では半ば強制的に改築や建て替えを迫られる。しかし小規模の地方百貨店は、数十億円ともいわれる改築・建て替え資金がまかなえない。中合会津店(福島県)、長崎玉屋、伊万里玉屋(佐賀県)のように、耐震化費用を捻出するのが難しいという理由で閉店した店舗も数多い。

そして地方店が苦戦しているのは、小売店の競合が激化し、地域の限られたパイを奪い合っているからでもある。しかし百貨店のライバルは、よくいわれるような郊外型ショッピングモールではないと私は考える。2000年代の前半までは客を奪われてきたかもしれないが、今後典型的な夫婦と子供のファミリー層が減って高齢化が進むと、遠くまで足を延ばさなければならない郊外の巨大モールこそ衰退するだろう。近年、地方百貨店にとって最大の競合となっているのは、JRの駅ビルだ。

この10年ほど、JR各社は流通事業に力を入れ、地方中核都市で大型駅ビルを次々と開業してきた。駅ビルには衣料品店や飲食店が充実し、さらに「駅ナカ」では食料品を展開する。地元そっちのけの“JRファースト”で乗降客を駅ビルに誘導し、囲い込むのだから、周辺の商業施設はたまらない。私の見たかぎり、天満屋福山店(広島県)、ながの東急百貨店(長野県)などは、駅ビルの影響を受けてレストラン街が歯抜けになり、お土産が売れなくなって勢いを失っている。今までJR東日本の取り組みが目立ったが、これからJR西日本やJR九州も駅ビルを強化していけば、より多くの地方百貨店がダメージを受けるだろう。

■盛り返す百貨店は、3つのタイプがある

とはいえ、百貨店は暗い話題ばかりではない。阪急うめだ本店、あべのハルカス近鉄本店、ジェイアール名古屋タカシマヤといった旗艦店は、大規模改装で支持を集めている。そして17年の百貨店の売上高は、新店を含んだ全体ベースでは対前年比0.4%減だったが、既存店売上高の対前年比は0.1%増。チェーンストアが0.9%減、コンビニエンスストアが0.3%減という数字と比べると、百貨店へのニーズが底堅いことがわかるだろう。

また高度経済成長期や1980年代に、百貨店業界は他店の真似をすれば業績が伸びる時代を経たせいか、長らく十把一絡げの横並び主義が続いていた。それがここ5年ほど、大手は独自の経営戦略を打ち立てるようになった。

ひとつはJ・フロント リテイリング(大丸松坂屋百貨店)などに見られる「テナント型」。東急ハンズやニトリなど、外部に空間を貸して、安定した家賃収入を稼ぐ。エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店)は、「イベント型」だ。「コトコトステージ」といったイベントや催事で集客を図り、ファンを獲得・定着させていく。そして三越伊勢丹ホールディングスの伊勢丹は、商品の独自仕入れ・売り場の自主編集に長けており、百貨店としては最も正統的な「MD型」といえよう。

そしてこの3タイプを、最もバランスよく兼ね備えているのが高島屋である。関東と関西に旗艦店を持ち、MDにも催事にも強い。ショッピングセンターの運営も、百貨店の中で最も実績がある。さらにシンガポール、ベトナム、タイなど海外事業も着々と拡大している。競争力は堅実といえよう。経営環境の変化についていけない百貨店は淘汰されても、戦略を打ち出して個性化を進めた百貨店は生き残り、勢いを盛り返すはずだ。

■店頭販売主導から変われるのか

それでは未来の百貨店は、どうなっていくのだろうか。将来時点を2030年に設定し、時代に適応した百貨店のあり方をここに提示したい。

まず前提となるのはオムニチャネルだ。日常的なコモディティ商品はアマゾンなどで買われるにしても、ファッションなどの買回品に関しては、試着や相談を店舗で行うオムニチャネルに移行するといわれる。そこで先行し、発展する可能性を持つのは百貨店ではないか。店頭やネット通販だけでなく、店内催事や百貨店独特の訪問販売「外商」もある。販路がこれだけ幅広い小売業はほかにはない。百貨店はどうしても店頭販売主導になりがちだが、商品はネットでも外商でも売っていけばいいわけで、そこに発想を切り替えられるかどうかが鍵になるだろう。

そして既製品を大量に品揃え販売する従来の体制から、個別受注で製造し、オムニチャネルで販売する体制へ移行していくと予測される。衣料品ならITを活用して仕立てが早く、価格も抑えたオーダーメードシステムが登場している。ネット通販でも「ゾゾスーツ」のようなフィッティング機能もあるとはいえ、顧客への価値の見せ方、試着やコンサルティングなどの面では、百貨店のほうが断然有利である。

衣料品売り場は、コーディネート提案、顧客との相談やオーダー対応などができる必要最小限のスペースがあれば十分だ。そうなると今のように広いファッション売り場はいらなくなり、結果、百貨店の小型化が進むと考える。2万〜3万平方メートルの規模が珍しくない地方の百貨店の売り場面積は、6000〜8000平方メートル程度でも機能を果たしていくだろう。

さらに「地域商社化」の可能性があげられる。地域創生を掲げる政府が地域商社の設立を促すなか、地方百貨店は地元に詳しい人材の営業力・企画力、商品の魅力を顧客に伝えるノウハウを持っている。売り場縮小に伴って店頭の人材は、地場産品を開発・編集し拡販する営業担当者や地域ビジネスの企画推進者などに配置転換し、新たな戦力として役立てることも可能だ。たとえば新潟伊勢丹は、すでに「越品」というプロジェクトを立ち上げ、新潟県の地場産品を新しいデザインで販売している。こうした動向は今後増えていくと思われる。

また百貨店には、服の選び方や着こなしに詳しいスーツのバイヤー、新生活やギフトのしきたりなどに精通した社員など、知識や技術を備えたスター社員が存在する。彼らのノウハウを動画コンテンツとして配信すれば、新たな需要創造として期待できるし、販促にもつながる。ネットに商品情報が氾濫する今、「目利き」が商品を見極め、ニーズに応じた的確な商品選択をサポートすることは消費者にとって重要な価値がある。「生活のキュレーター」としての役割を強化すれば、ほかの小売店と差別化できるはずだ。

百貨店企業の多くは、もともと呉服店だった。それが約100年もの長い間さまざまな取り組みをして業態転換を経た結果、今の百貨店に至っている。それからすると現在の百貨店形態にこだわらず、時代に合わせて姿を変革できる百貨店企業は、これからも存続していくに違いない。

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宮副謙司(みやぞえ・けんし)
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA取得)、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。西武百貨店、PwCコンサルティングなどを経て、2009年より現職。専門はマーケティング戦略、流通論、地域活性化論。

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(青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授 宮副 謙司 構成=野澤正毅 写真=時事)