過去5年間の累積合格者数から医学部に強い高校をランキング。1位は愛知の東海。

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医学部に強い高校はどこか(写真:EKAKI / PIXTA)

東京医科大学に端を発した医学部入試の不正問題。複数の私立大学の医学部で、浪人生や女子を不利に扱う入試の実態が発覚した。

浪人生は受験勉強の期間が長いアドバンテージがある。女子が優位なのは、結婚や出産を経ても仕事が続けやすい医師を目指し、優秀な女子受験生が集中するため。さらに地道な受験勉強を続ける女子は、男子より学力が高い傾向にあることも無視できない。一部の大学で女子や浪人生を不利に扱う入試が常態化していたのは、定員が少ない医学部の間口は狭く、入試のハードルが高いためだ。

注目度が高まっている医学部入試。この難関学部に強い高校はどこなのか。現役男子の優遇というバイアスがかからない、国公立大医学部の5年間の合格実績から検証してみた。5年間比較としたのは、単年比較では、順位にブレが生じるため。医学部合格実績が高い高校でも、現役生が数多く合格した翌年は、力のある浪人生が相対的に減少するため、高校全体の合格者数が減る傾向にある。

医学部に5年で572人合格した東海がトップ

医学部合格者数ランキングの1位は、この5年間で572人が合格している東海。難関がゆえに隔年現象が起こりやすい国公立大医学部入試にあって、2016年から3年連続で合格者が増え続けている。単年比較の合格者数ランキングでも、2018年春まで11年連続でトップを続けている。東海の合格者が最も多いのは名古屋大学で、2018年度は38人が合格。同大医学部のおよそ3人に1人は東海出身者だ。

学費が安い国公立大医学部は日本全国の大学が志望対象となるが、地元に設置大学が多いに越したことはない。東海がある中部圏には、名古屋大学に加え浜松医科大学、岐阜大学、名古屋市立大学、三重大学の5校が医学部を設置しており、こうした環境も合格実績を支えている。中部圏でランクインしている高校には、22位の南山、25位の、28位の旭丘などがある。

2位以下は、2位ラ・サール、3位洛南、4位、5位久留米大学附設、6位開成と続き、7位の東大寺学園までが5年間で300人を超える合格実績を出している。とくに灘は医学部の中でも最難関の東京大学と京都大学の合格者が多く、2018年は両校合わせて37人が合格。同年の灘の全国公立大医学部合格者数の4割近くを占めている。

医学部ランキングの特徴は、灘を含め上位に近畿圏の高校が多いこと。これは、中部圏以上に医学部を持つ大学が多いためだ。滋賀医科大学、京都大学、京都府立医科大学、大阪大学、大阪市立大学、神戸大学、奈良県立医科大学、和歌山県立医科大学の8校があり、中には医学部としては比較的入りやすい大学もある。それに加えて、大企業の本社機能の首都圏への移転が進み、優秀な高校生の将来の就職先として、一般企業が視野に入りにくいこともある。

国公立大医学部の難易度は、東京大学や京都大学に匹敵すると言われるが、それぞれのランキングにおける上位校の顔ぶれは異なる。直近の5年間の東京大学と京都大学の合格者を合計したランキング(以降、東京大学・京都大学ランキング)は、1位開成(894人)、2位灘(672人)、3位筑波大学附属駒場(542人)、4位麻布(513人)、5位東大寺学園(460人)、6位洛南(452人)、7位西大和学園(449人)、8位甲陽学院(416人)、9位聖光学院(391人)、10位北野(377人)。このランキング中、半数の高校は医学部ランキングのベスト10圏外なのだ。

ベスト10圏外の多くは首都圏の高校であり、筑波大学附属駒場が44位、麻布が48位、聖光学院が50位となっている。近畿圏と対照的に大企業が多い首都圏では、優秀な高校生の将来の選択肢が多くある。さらに、首都圏には医学部を持つ国公立大が少ないうえ、東京大学や東京医科歯科大学、千葉大学など医学部の中でも難関の大学が多く、医学部志向が醸成されにくいことも影響している。

ここ数年、首都圏の医学部人気は全体的に下がっている。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の社会への影響力が圧倒的なものとなり、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの普及も進む。そうした情報化社会が進展していく中、受験生の視線は情報系に向いているのだ。そうした分野での活躍の機会が多い首都圏では、医学部離れがさらに進む可能性がある。

私立の中高一貫校強いが、地方では公立校が存在感

一方、医学部志向が強い近畿圏では、東京大学・京都大学ランキング10位の北野が、医学部ランキングは63位という結果になっている。北野は、京都大学の合格者数ランキング1位が常連だった時代があり、伝統的に京都大学志向が強い。その傾向は現在でも続いており、一時期の低迷を経て2018年入試では、1984年以来の京都大学合格者数ランキングトップに返り咲いた。

反対に医学部ランキングのベスト10に入りながら東京大学・京都大学ランキングのベスト10圏外の高校には、東海、ラ・サール、久留米大学附設、愛光四天王寺がある。この中で注目したいのは、医学部入試で女子が話題になる中、ベスト10に入った女子校の四天王寺。同校の東京大学・京都大学ランキングは合格者数が102人で78位なので、医学部志向の強さがわかる。

ほかの女子校を見ると、医学部ランキング15位の桜蔭は、東京大学・京都大学ランキングも合格者数355人で11位と、両ランキングで上位に入っている。医学部ランキングで32位に入った豊島岡女子学園は、難関医学部が多い首都圏にあって健闘していると言えるだろう。

医学部ランキングの上位を私立の中高一貫校が占める中、地方では公立校が健闘している。公立校のトップは11位の札幌南で、2018年は北海道大学19人、旭川医科大学9人、札幌医科大学18人など、地元の大学を中心に多くの合格者を輩出している。

北海道では、私立ではあるが、2018年の卒業生が123人と小規模にもかかわらず158人が合格している34位の北嶺も注目したい。北海道以外に目を転じると、13位に熊本、21位に新潟、23位に仙台第二が入っている。それぞれ熊本大学、新潟大学、東北大学といった地元の大学に大量の合格者を出していることが特徴だ。

医学部ランキングの上位校は、合格実績を頼って医学部志望者が数多く入学し、さらにその生徒たちの合格実績を見た医学部志望者が入学するという循環ができている。今後も、国公立大医学部合格者数ランキングの顔ぶれが大きく変わることはなさそうだ。